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魔王

 姫犬のゴミを射殺(いころ)さんとする視線から逃げるようにして、用意して貰った部屋に入った。

 なんなんだ。

 なんでそんな目で睨(にら)まれにゃいかんのか、さっぱり分からん。


 そして、案内された部屋。

 これがまたどうしようもなく落ち着かない。


 俺としてはビジネスホテルみたいな安ベッドに、申(もう)し訳(わけ)程度(ていど)のテーブルが置いてあるだけの簡素(かんそ)なものでよかっんだが・・・。


 なにこのスイートルーム。


 いや、スイートルームとか入った事ないから分からんけども。

 これ貴人用の客室なんだろうなぁ。

 広い、そして白い。


 白いテーブル、白い箪笥、白い壺、白い壁、白いソファー・・・。

 そんでもってその白い調度品がみんな金の淵で飾られてる。


 地下で見た家具に比べればまだ見れるが、やっぱり趣味が合わん。

 多分これ、自分の趣味を追求した結果とかじゃなく、流行の物をそのまま突っ込んだだけなんだろうな。

 部屋の中は統一されてるけど一切の遊びがないし、廊下、扉との整合性(せいごうせい)が地味にとれてない。


 いや、ここ異世界だし、そういうルールでもあるのかも知らん。ちょっとイラっとするが気にするのはやめよう。

 めんどくさい。


 とりあえず白い金縁の水差しとコップを手に取った。

 すると一瞬、水差しが淡(あわ)く光った。

 すぐに消えてしまったが浮かんだ文字は『浄化』を意味する魔法文字だったように見えた。


 浄化・・・ねぇ。なんかヤな感じがするのはなんでだろう。

 万知さんは相変わらず何も言ってこない。まだヘソ曲げてんのかな。


 水差しからコップに水を注ぎ、一口飲んだ。


 うん、水。


 臭いとかそういうのはないが、味もない。蒸留水か精製水でも飲んでるみたいだ。

 お腹壊すよりはマシなんだろうけど・・・なんだかなぁ。

 この世界ってまだウィルスとか菌を、鬼とか悪魔とか言ってる世界なんかな。


 まぁ、いいや。


 とりあえず、腕輪に手を掛けて外してみる。


 すんなりと外れた。


 どっかのRPGみたいに外れないかとも思ったが、そんな事はないらしい。

 次いで足輪も外して、まとめてテーブルの上に置いた。


 一応、周辺に人が居ないかも確認しておく。

 三部屋隣りには人が居る様だが、上下を含めても二部屋内に人は居ない。

 盗み聞きとかされる心配はないと思うが・・・、さて。

 出てきてくれるだろうか?


 ソファーに腰掛けて、腕輪と足輪を見る。


 ・・・。


 ・・・・・・。


 無機物に話し掛けるのに勇気がいるとは思わなかった。


 おほん。


「周囲に人が居ないのは確認した。出てきて話をしてくれないか?話せるんだろう?」


 ・・・。


 ・・・・・・。


 くっそ!くっそ!


 なにこれ恥ずかしい⁉︎

 顔から火が出そうだわ。


 あーあ、どうしたもんかね。とりあえず、水でも飲んで落ち着こ・・・う?


 俺がさっき飲んでたコップが空になってる。

 はて?さっき俺、飲み干したっけか?ボケたかな?


 ふと腕輪と足輪を見る。


 変化はない。なにも起こってない。


 水差しに視線を戻した。


 ⁉︎


 小さな女の子が水差しを手にコップに水を注いでた。


 いつからそこにいた⁉︎


「いやはや便利になったもんじゃのう、儂の頃にはこんなものはなかったわ」


 しかもジジイ口調⁉︎


「だが味気(あじけ)ない水になったのう。腹を壊す事はなくなったであろうが、これでは風味もヘッタクレもないのう」


 それには同意する。


 しかし・・・。

 ふわふわした黒い服ってコレの事か。

 ゴシックロリータというんだったか?


 少し膨らんだスカートにフリフリが付いてる。服の前側にもフリフリ。肩の所にもフリフリ。袖口もフリフリ。

 そんで真っ黒。

 髪もフワフワくるくるしてて黒い。しかしまつ毛長えな。さすがに付けまつ毛って事はないだろうが。


 つまりは・・・、ゴスロリババアって事か?

 言葉にすると恐怖しかないな。


「お主、今失礼な事を考えなかったか?」


「気のせいだろ」


 老(ふ)けるぞ。


 ゴスババァが訝(いぶか)しげな視線を向けてきたが、諦めたのかコップを手に取りコクコクと飲み始めた。


 身長は135㎝といった所だろうか?

 小学校三、四年生くらいならこの位な大きさと思うが。


「で、お前誰よ」


「ふはぁー」


 なにそれ、幼女アピールか?

 ゴスババァがコップを置きながら腕輪と足輪を指差した。


「まぁ、それは分かるわ。その鎧の中に入ってたお前は何だって聞いてんだよ」


「魔王」


「そうか、まおーか」


「その、成れの果てじゃ」


「そーか、なれのはてか」


 こっちを見てくるゴスババァと目が合った。


「望んだから出てきてやったというのに投げやりじゃの?」


「まぁ、ある程度は予測してたからな」


 ある程度は、だが。


「納得しかねるという事かの?」


「まぁ、外見がそれだからな。それとも・・・それは勇者の趣味か?」


「かもしれんの」


 マジかよ。


「三百年前の儂は普通のバンキュッボンじゃったよ」


 普通のバンキュッボンってなんだよ。


「少女趣味じゃったのか、やり直したかっただけなのかはわからんがの」


 やり直す?


「つまりアレか?勇者と魔王が恋仲だったと?その果てに戦う事になっちゃったってヤツか?」


「半分正解というとこかの」


 どこをどう半分なのか。


「儂は別にどうとは思ってなかったのだがの、あやつは儂にゾッコンじゃった」


 そっちが半分かよ⁉︎

 やべぇ、頭が痛くなってきた。


「っていう事はアレか?もしかしてこの召喚って勇者が片想いだった魔王を自分のものにする為に仕組んでたものだったのか?」


「まぁ、そう言っても間違いはないであろうな」


 なんてこった、そんなもんに巻き込まれたのか俺は・・・。

 泣きたくなってきた。

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