会談
「ギュスターブ・・・」
目の前の爺が反芻するように俺の偽名を口にした。
何か考えてるのか、ここに居る奴を確認してるのか目の玉が忙しなく動いてる。ちょっとキモい。
再び俺に視線が向いた。
「あなたが・・・なるほど」
すげぇな。
脳味噌まで筋肉で出来てそうな外見してる癖に頭の回転が恐ろしく早いみたいだ。
よくこの状況と俺の言葉だけで、『なるほど』なんて言えるな。
「二、三質問しても?」
「構わねぇが、まぁ座りなよ。固えし座り心地は良くねぇが立ち話も何だろ、今ならぬるい水も付けてやるぞ」
テーブルに置かれてる水差しを手に取り、コップを二つ出して水を注いでやる。
俺も少し喉が渇いたわ。
「では、遠慮なく」
心なしか爺の顔がほころんでる気がしなくもない。
「ほれ」
爺の前に水を入れたコップを置いてやる。
爺はそれを手に取り、一気に飲み干した。俺も一緒に飲み干した。
・・・ちょっと臭いなこの水。大丈夫かな?
「ギュスターブ・フォン・コペルニクスの名前は人相書きと共に最重要人物として城内に出回っている。もう城内に置いては知らぬ者は居ないだろう」
爺が空になったコップを置きながらそう言った。
しかし人相書きて。
「しかし、疑う訳ではないが出回っている物と少々人相が違う様に見えるが・・・」
また説明すんのか、面倒くせぇな。
「端的に言えば、俺を召喚した魔方陣が不完全だったんだよ。そもそも発動した事それ自体が奇跡みたいなもんだったんだ。寝てても身体が若返るし、動くと加速する。ほっといても一週間ほどで消滅する予定だ」
「・・・死ぬ・・・.のか?」
「何もしなけりゃな」
「それで英雄殿は命を賭して何をするおつもりか?」
「戦争回避」
爺の目が細くなった。
「いかにして?」
「さて、それはこれから考える」
「・・・」
おうおう、考えてるね。睨む様にこっちを見てくる。
この爺、目を見て人を判断するタイプか。
「儂に何を望んでいる?」
「姫さんとその周辺の情報」
「・・・わかった」
面白れぇな。
ちょっと言うだけで勝手に考えて推測してくれるわ。
「うちの王族は勇者の血統というのか、腕っ節が強くて傲慢なのが多い。そんな中、穏やかで多種族への偏見の薄いアンネマリーに儂は期待しておったのよ。
それが変わり始めたのは十八の誕生日が過ぎてから・・・と記憶している。よく笑う子だったのだが、あまり笑顔を見せなくなり、周囲に当たる様になった。最初は縁談の話や王族としての勤めが重圧に感じて・・・くらいにしか思っておらなんだが・・・。
今、考えたなら少しは話を聞いてやるべきだったと反省しとる」
十八歳の誕生日ね。
そこになんか意味があるんだろうな。そう聞くと今の姫さんの中にもう一人、別な何かが居る・・・とも考えられなくもない。
「んで、王とその息子は?」
「残念ながら消息不明だ。ある日より、ふっつりと姿を見せなくなったらしい」
「んじゃ、今の国を動かしてるのは・・・」
「アンネマリーだ。儂が勾留されておる間にすっかり人が変わってしまっていた。一体何があったのか・・・」
爺が怯えた様に首を振ってる。
あんたもあの姫さんの目を見たんだな。トラウマもんのアレ見て、まだどうにかしようと足掻いてるあんたは十分強い人間だと思うぜ。
まぁ、口に出しては言わねぇけどな。
「後、黒い甲冑を着たのが二人、姫に仕えてる感じで居たが、アレはなんだ?」
爺がかぶりを振った。
「すまんが儂も知らんのだ。儂が勾留されていた間に、いつの間にかに近衛の様に付き従っていたらしい。それに兜を脱いだ所を見た者もおらず、顔すらも分からんのだ」
うーん。
謎は謎のまま深まるばかり。
けどまぁ、何を知るべきなのかは見えてきたかな・・・。
「すまんな、あまり力にはなれないようだ」
「そんな事はねぇさ、今はどんな情報でも欲しい所だ」
時間も無いしな。
「アンネマリーを殺すかね?」
軽い口調で爺が言った。
ただ、顔に表情がない。人を窺うんなら表情は残しておいた方がいいぞ爺さん。
まぁ、俺の返答は変わらんけどな。
「選択の一つ、としてはある」
戦争になるよりゃマシだろ。
「わかった。よろしく頼む」
何を、とは言わねぇのな。
「どっちかっていうなら俺が頼む。事が終われば後はあんたの仕事だ、しっかりやってくれよ」
「承知した」
さて、収穫は少なかったが最早時間がない。ここからは出たとこ勝負になりそうだ。
・・・やだなぁ。これ絶対に失敗するパターンじゃん。このまま特攻したくねぇ。どっかに情報落ちてねぇかなぁ。
ふと、腕輪が見えた。
今は腕輪と足輪になってるが元は鎧。勇者が用意したもう一つの何か。
たぶん、俺が血を吐いて倒れた時に助けた少女。というのはこいつだろう。っていうか、こいつ以外に考えられる奴が他に居ない。
こいつが話せるなら、一番情報を持ってる可能性が高い。
では、どうするか?
何度か話しかけた事はあったが応答はしてくれた事はなかった。まぁ、話しかけたと言っても常に近くに誰かが居たかあわただしい状況だった。
誰も居なければ出てきてくれる・・・か?
ここからは賭けだが、やれる手は全部打とう。
失敗しても無機物とお話ししようとする憐れなジジイが一人出来るだけだ。
「すまんが頼みが一つある」
「儂に出来る事であるなら聞きいれよう」
「部屋を一つ、周辺から人払いをした状態で貸してくれ。一時間程でいい」
「わかったすぐに用意させよう」
そういうと爺は立ち上がった。
理由は聞かないだろうなとは思ったが、即断即決は予想外だった。まさか予測してた?いやいやまさかまさか。
「すぐに戻る。もう少しだけ待っていてくれ」
爺は足早に出て行った。
ずっと俺と爺しか話していなかったので、爺が居なくなると急に静かになる。
なんか緊迫感を帯びた空気みたいになってるのは何でだ?
振り返ると下唇をギュッと噛み何かに耐えている狐耳娘と、俺をゴミを見るような目で見る姫犬、それと何故か我関せずみたいな顔をしている犬耳三匹がいた。
はて、俺は何かしたかな?
狐耳は最初からそんな感じだった気もしなくもないが、姫犬からそんな目で見られる理由はないと思うんだが?
さっきの爺への口の聞き方がマズかった・・・とかか?
まぁ、いいか。
あ、そうだ。
狐耳には色々と話をしとかなきゃなんねぇな。えっと名前はなんだったっけ?
「フーカ」
だったよな?
「・・・はい」
返事したから合ってたって事だよな?
っていうか、表情が暗すぎない⁉︎
「後で話がある。折を見て俺の部屋に来い」
「・・・はい」
なんだろう。
姫犬から射殺さんばかりの視線が飛んでくる。
ゴミを見る様な目の方がまだマシなんだが・・・何故だ?




