襲撃
森に入って行く姫犬ちゃんを囲むように犬耳ズが陣取っている。先頭は柴耳、右に狼耳、左がパピエン。
その四人から少し離れて俺が付いて歩く。
獣道とも言い難い、周辺より少し歩き易いだけの下生えや枝葉を掻き分けて歩き付いて行く。
会話は無い。だが、周辺は騒がしい。
物音は自分らが歩く音ばかりだが、山を下る度に周辺に獣の気配が増えてくる。
明らかに囲まれてるが、姫犬ズにそれを気にする様子はない。
気づいてないって事はないと思うが・・・。
少しひらけた場所に出た。
ひらけたと言っても草はボーボーだし、背の低い木がまばらに生えている。
ただ、月明かりに照らされ、広く見渡せるだけだが・・・。
その真ん中に不自然な影が一つ。
木でも草でもない、人の形に大きな耳の付いた影。よく見れば狐耳の付いた若い男だった。
その狐耳に気付いているだろうが、姫犬ちゃんは気にしている様子もなく、そのまま歩いている。
姫犬ちゃんが無言のまま狐耳男の横を通り過ぎようとした時、男が姫犬に向き直った。
「襲爪姫様、お久しぶりでございます」
しゅうそうき?屋号?俗称?変な呼び方だな。そんな風習があんのかな。
「何用だ?」
姫犬ちゃん、返事はしても目すら向けない。
「つれないですね、同じ作戦に従事する仲間ではありませんか」
狐耳男がちらりと俺を見た。
あ、殺気。やっぱり目的は俺か。
「それは昨日までの話だ。今、私は独自の任務を遂行中である。今、君達と同じくする作戦はない」
断定した言い方だね。何があったかは知らんけども、その行動は総意として動いている訳ではないのね。
ちょっと話が見えて来た。
「そうは参りません。我らとしても仲間の救出は急務。そのような時に、その方の様な重要人物を自由に扱われるのは看過出来ません」
重要人物ね。
「これはもう決定した事のはずだが?」
「我らは賛同しておりません」
「賛同出来なければ、実力行使に出るのか?」
「我らとしても、近しい者に爪は向けたくありません。その方をお渡しさえしていただければ」
姫犬ちゃん、目も向けないまま鼻で笑った。
「議論する気もなく、下衆な力に頼る。それでは獣と変わらぬと分からぬようだな」
「議論の余地があるのですか」
「爪を突き付けてする議論などあるものか」
刃でも牙でもなく爪なのね。
今度は狐耳男が鼻で笑った。
「仕方ありませんね、では我らは我らの道を歩ませて頂きます」
その言葉が合図でだったみたいに周囲を囲んでいた二十六人の狐耳が、一斉に立った。
うーん、何だろう。
隠れてたつもりだったんだろうけど、頭隠して尻隠さずというか・・・。カッコよくやってるつもりなんだろうけど、バレバレなのにやってやった感を出す狐耳男のドヤ感が酷い滑稽だ。
当然、姫犬を含む他の三人も気付いてた。
「その方をお渡し願えませんか?」
やばい、滑稽過ぎて涙が出そうだ。
こうやって比べて見ると実力というか力の差がありありと見える。
犬耳達が強いのか、狐耳が弱いのかは分からんが、狐耳の中でギリギリ渡り合えそうなのは、目の前の策士気取りの馬鹿狐と、まだ隠れて様子を見てる八人の狐耳の内の一人だけかな?
「実力差も分からん未熟者が・・・」
実力差はあるが人数差もある。まともにやり合ったら双方に被害が出るだろう。出来るなら止めたいが・・・。さて、口を出してもいいのか分からん。
ん?
狐耳がじりじりと包囲の輪を縮めているが、なんかおかしい。
姫犬ちゃんを中心に周囲を守る犬耳ズ集団と、それからちょっと離れて傍観してる俺がいる訳だが・・・、なんか狐耳さん達が俺をスルーして犬耳だけを警戒してる感が・・・。
もしかして俺、舐められてる?
あっ
っという間に俺の周りに光が走った。俺一人をすっぽりと囲む、地を走る光の円。
そこから光が立ち登り、俺の頭の上で結ばれた。
まるで鳥籠。
「こんな魔法に容易く引っ掛かるジジイが英雄とは笑わせるな」
高笑いする狐耳男。
ふむ。
魔法を掛けてきたのは後ろから。隠れてるギリギリ戦えそうなもう一人からだな。あの子はアレか、俺をずっと監視してた狐耳娘か。
えっと?魔法は光魔法、ケイジ オブ レイ。というものらしい。
設置から発動まで早く、かつ察知され難いという利点を持ち、籠に捕らえた獲物の移動も自由自在という使い勝手のいいモノのようだ。
ただ当然、弱点もある。
一つは強度。
術者の能力にもよるようだが、さほど強固には作れないらしい。
もう一つは、行使している術者の思考が乱れると簡単に解けるようだ。
魔法に関してはホント万知の書は便利ねぇ。
「こんなジジイを連れて行った所で足手まといでしょう。我らが有効に活用して差し上げます」
おぉ、籠が浮いた。
気持ち悪⁉︎
さっにまでは俺が傍観役だったのに、今は姫犬ちゃんが傍観役。手を出す気がないのか、はたまた様子を見てるだけなのか。
あぁ、自分でなんとかして見せろって顔してるわ、参ったね。
「やれやれ、狐の兄ちゃんよぅ。阿呆も程々にせんと大変な事になるぞ?」
「その程度の拘束も破れん奴が何を言うか」
さっきからこの狐、微妙に会話が噛み合ってないんだよな。
面倒な奴だ。
「忠告はしたぞ?」
とはえい力は使いたくない。無駄な若返りは極力避けたい。なので魔法でどうこうするのは無し。となると・・・、なんかないかな?
ん?
ポケットの中に・・・石?親指の先くらいの小石。これ、あれか、投げて砕けたヤツの破片か。
これを指で弾いて頭に当ててやれば・・・。
いや、頭はいかん。また力加減を間違えて吹き飛ばしたりなんかしたりしたら目も当てられん。
足元でも狙うか。
軽く狙いを付けて、パチンと弾く。
パキィ
待て、何の音だ。
見れば弾いた小石が仄かに光ってる。
待て、万知の書?お前なんかした⁉︎ちょっ
ズドン
狐耳娘がいた辺りが爆発した。
草とか土とか巻き上がるのと一緒に小柄な狐耳が舞ってる。
それと同時に鳥籠が消えて、空中に放り出された。
トスッ
着地。
「だ、だから言っただろう」
狐耳男を振り返り、とりあえず取り繕ってみる。
あの狐耳娘は死んでないよな?うん。だ、大丈夫、ごふごふ言ってるし生きてる大丈夫大丈夫、問題ない。
・・・うん。
納得いかん。
俺がした訳じゃないのに、俺がやっちゃったみたいになってるのが納得いかん。
くそっお前らみんな後で覚えてろよ。




