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竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
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第1章 第51話 ベルタ・バーガー その1

 クレアが部屋を出た頃、ジーナの部屋にミアが訪れていた。


 「姉さん…」


 「なに、ミア?」


 「ボク達、お父さんに言い過ぎたかな?」


 「……えぇ、でもお父さんあれで意外と打たれ強い人よ。でないと長年お母さんの夫なんて出来ないわよ」


 「そ、そうだよね」


 「それに何だかんだ言っても、アギト君を認めてるし」


 「う、うん」


 ミアの髪を撫でるジーナ。


 「ミアって見た目はイケイケで威勢はいいけど、本当は心配症で優しいわよね」


 「姉さんは逆だね。一見、優しそうに見えて本当は厳しいし、しっかりしている様で実はマヌケだし」


 「最後のは余分よ、ミア」


 ジーナはミアの頭を軽く小突く。


 「痛い!」


 「愛のムチよ」


 「姉さんは武器もムチで、心にもムチを持ってるよね」


 「余計なお世話よ」


 真面目な顔になるミア。


 「いよいよ明日からだね」


 「そうね。これからよ、ミア」


 「うん」


 「リリーちゃんを守り、アギト君の足手まといにならないようにしないとね」


 「分かってる。それと…」


 ジーナの耳に口を当てるミア。


 「リリーの背中の地図は、この村の北の所で途切れてたね」


 同じく小声で返事をするジーナ。


 「えぇ、馬で3~4日の所よ。そこで一度リリーちゃんの背中を確認する必要があるわ」


 「そんな所に村なんてあったかな?」


 「小さい集落があるわ。そこで泊まるかどうかは状況次第ね」


 「うん」


 「すんなり行けるといいけど」


 「そうだね」


 ジーナとミアの心には緊張と不安が押し寄せていた。


 


 向かいの部屋では、バディがカロンの事を懐かしんでいた。


 「この部屋は、以前お師様が泊まっていた部屋。偶然とは言え何か(えにし)を感じるな。そんなに時間はたってないのに、遠い昔の様に感じられる。あの時のお師様は窓から外の景色を眺めていた。降り続く雨をずっと」


 窓を開け外の景色を見るバディ。だが、夜のためか景色はあまり見えず、その代わり涼しい風がバディの頬を撫でていく。


 「お師様はもういない。でも、私は1人じゃない。アギトがいる。皆がいる。新しい仲間が私を必要としている。いや、必要としてくれている。お師様、私は皆と旅に出ます。どうか、見守っていてください」


 最後にバディはカロンの遺体が埋葬されている方角に向かい、胸の前で指を絡ませ祈りを捧げた。


 「お師様」




 斜め前の部屋では、アギトがリリーナの部屋を訪れていた。


 「すまないな、リリー。夜なのに邪魔をして」


 「いえ、かまいません。最近2人きりで話す事がなかったので、むしろ嬉しいです」


 「そう言ってもらえると嬉しいな。しかし、リリーに敬語を使うのは疲れるよ」


 「私もです。つい、兄様と言ってしまいそうで」


 「お互い様か」


 「そうですね」


 「ハハハハ」


 「ウフフフ。でも、この際兄様からアギトさんに変えようかな」


 「俺はどっちでもいいが、どちらかと言えば兄様の方がしっくりくるな」


 「分かりました、なら、時々アギトさんって呼びます」


 「分かったよ」


 「で、私に何か用事があったのでは?」


 「いや、用事はないが、ダメか? 用事がないと」


 ドキッとするリリーナ。


 「そ、そんな事ないです」


 「明日からはゆっくり話も出来ないと思って」


 「そ、そうですね」


 「なに、緊張してるんだ?」


 「分かってるクセに」


 「何をだ?」


 「ア、アギトさんの意地悪!」


 「やっぱり、イジられるより、イジる方が楽しいな」


 「もう!」


 そんな他愛のない会話を楽しんでいると、一瞬アギトの顔に緊張が走る。が、すぐに元の穏やかな表情に戻った。


 そう言う事か。


 「どうしたんですか、アギトさん?」


 「いや、何でもない」


 リリーナの肩に手を置くアギト。


 「ア、アギトさん」


 「俺はリリーを守る。だから、安心してくれ」

 

 「はい、信じてます!」


 アギトの手に自分の手を重ねるリリーナ。


 「ところで、話を変えて悪いんだが、少し教えてくれないか?」


 「何をです?」


 「リリーはなんで下着を白から黒に変えたんだ?」


 突然の質問に困惑するリリーナ。


 「は、話が変わり過ぎです。つ、ついていけません」


 真剣な顔のアギト。その迫力に負けて仕方なく答えるリリーナ。


 「そ、それは、今年の誕生日で15才になったし、成人のお祝いに自分で…」


 「それで、白から黒に変えたのか?」


 「は、はい」


 顔を赤らめるリリーナに対し、納得するアギト。


 「あと何で、アルの下着を嗅いでウットリしてたんだ?」


 さらに真っ赤になるリリーナ。


 「そ、そんな質問には答えられません!」


 「いいじゃないか」


 アギトの顔を爪で引っ掻くリリーナ。


 「グッワァーーーー!!!!」


 「知りません! 答えは分かってるんでしょう?」


 「はい」


 「もうーーーー!!!!」


 さらにアギトの顔を引っ掻くリリーナ。


 「ギィヤーーーー!!!!」



 久しぶりにリリーナと楽しい時間を過ごすアギト。その頃、クレアは村長宅でベルタと会っていた。


 「いいかしら、ベルタさん?」


 「えぇ、どうぞ」


 ベルタはクレアをリビングに通し、お茶を出す。テーブルを挟んで向かい合う2人。


 「悪いわね、くつろいでいるところ」


 「かまいません。どうせ寝るだけですから」


「これを収めてくれる?」


 テーブルの上に黒い麻袋を置くクレア。袋から『ガチャ』と鈍い音がする。中には重たい金属が入っている様だ。


 「これは?」


 「迷惑料よ。それと、これから貴女に仕事を依頼する報酬よ」

 

 ベルタは麻袋の中を開けると、中には多くの金貨と銀貨が入っていた。


 「迷惑料とは?」


 「この村の住人にかん口令をしいてくれた分と、宿賃、それと、貴女の美味しいディナー代よ」


 「あんな田舎料理、ディナーって呼べる代物ではありません。それに、宿賃を差し引いても多すぎます」


 「その分は、これから貴女にやってもらうわ。ある仕事をして欲しいの」


 「仕事と言うのは、まさか」


 「そう、占いよ。知ってるわよ、貴女は以前かなり有名な占い師だったわよね。その噂は都まで聞こえていたもの」


 「それは……」


 「当時、私はまだ可憐な美少女で占いに興味があったの。でも、都からは遠いため、貴女に会いに行く事が出来なかったわ」


 「昔の話です。今は占いはやっておりません」


 「なぜ、辞めたの?」


 お茶を飲み、一息つくベルタ。


 「当時、私の占いはよく当たると評判でした」


 「知ってるわ。だから、貴女に会いたかったの」


 「当たり過ぎたんです」


 不思議な顔をするクレア。


 「それがいけない事? 占いが当たるのは良い事じゃないの?」


 「適当に当たればいいんですよ、占いなんてモンは」


 「なぜ?」


 「何事も程々がいいんです。でないと人は人生という道を踏み外してしまいます」


 「何か事情がありそうね。差支えなければ教えてくれない?」


 再びお茶を飲むベルタ。


 「…分かりました。私の占いが好評を博したのは、今から25年~30年ぐらい前だったと思います」


 「私が10才~15才ぐらいね」


 若い頃の自分を懐かしむクレア。


 「その頃の私は少々、己惚れておりました。と言うのも占えばかなりの割合で当てていたからです。それこそ国中から、果ては帝国や大王国からもお忍びで来られる人もおりました」


 「そりゃ、そうでしょうね」


 「ですが、そんなある日、私が過去に占った男性がやって来ました。その男性が言うには私の占いが外れたと」


 身を乗り出すクレア。


 「へえ~、それで?」


 「そこで、もう一度占ってみました。すると、その男性の未来は暗くなっておりました。その男性を最初に占った時には、明るい光が差していたのです。ですが、数年の間に……」


 「その男性の未来は大きく変わっていたと」


 「はい」


 「どうして、変わったの?」


 「クレア様、未来と言うのはいくつも枝分かれをしております」


 「えぇ」


 「占いと言うのは現在の本人の努力を軸にして、その先を見通すものです」


 「へぇ~」


 「努力していれば、運も廻ってくるのです。そして、それを掴み取るには日頃の努力が必要なのです。しかし、その努力を怠れば運を掴み取る前に、運自体が廻ってまいりません。実は努力と運は表裏一体なのです」


 「なるほどね」


 「その男性は良く当たると言う私の占いを聞き、喜んでいました。それはいいのです、喜ぶこと事態は。ですが、その事で努力をするのを怠り仕事をしなくなったのです」


 「その結果、明るい未来から暗い未来へと変わったと」


 「はい。その男性を皮切りに、多くの人達が私の占いは当たらないと非難しました」


 「自業自得じゃない」


 「そうです。占いの結果がどうであれ、人は努力を怠ってはいけません。努力する事が前進する事なのです。それこそが、より良い未来へとつながっていくのです。決して近道はありません」


 「そうね。でも、貴女の占いが当たらないと言うのはいいがかりね」


 「はい。ですが、人と言うのはそういうモノです。自分ではない誰かに責任を押し付け、心の安定をはかります」


 「確かにそうね、弱い人ほどそうかもね」


 「違います、クレアさん」


 「違う? どう違うのか教えてくれない?」


 「人と言うのは本来、弱い生き物です。それが普通なんです。ですから占いで自分の未来を知りたいのです。自分の将来がどうなのか。

 私の占いで悪い結果がでた人の中には、奮起して努力し明るい未来に変える人もおります。そのまま落ち込んで更に未来が悪くなる人もおります。しかし、『貴方の未来は明るいです。幸福です』と言った人に限って、悪い方向に変わる人が多いのです。何故なら私の占いを信じ過ぎて努力を怠るからです。

 ですから私みたいな者が人の未来を占ってはいけないのです。私の言葉でその人の人生を、未来を変えてはいけないのです。未来は常に不安定で、少しの事で大きく変化するモノなのです」


 「だから、貴女は占うの辞めたと」


 「はい」


 「そう言う事だったのね。あれほど有名だった貴女の名が突然聞こえなくなったのは。やっと理解できたわ」


 「ですが、貴女はクレア様はそんな私にまた占えとおっしゃる」


 「えぇ、そうよ。それでも占ってもらわなければならないの」


 「それは、どうしてですか?」


 「もう、気が付いてるんでしょう?」


 ベルタの目を見るクレア。


 「貴女様には敵いませんね」


 「私、見てたのよ。貴女がリリーナ姫とアギト君の顔を見た時、顔色が変わったのを」


 「……見られていたとは。私もまだまだですね」


 「そんな事はないわ、たまたま見ただけだから。でも見逃す処だったわ、貴女のあの一瞬の表情を。ところで、貴女はどんな占いをするのかしら?」


 「その人の色です」


 「色?」


 「正確にはオーラです」


 「具体的には?」


 「その人物の身体から発せられるオーラの色です。そのオーラの色で現在の状態を把握し、さらにその先にある未来を視ることです」


 「初めてね、そんな占い方があったなんて」


 「これは私だけのやり方です。他の人がマネしようにも出来ません」


 「そうでしょうね。じゃあ、リリーナ姫から教えて?」


 「本当はもう一度、姫様を視たいのですが」


 「分かったわ。でも、先に教えて。なぜ貴女が目を見開いたのか」


 意を決して語りだすベルタ。


 「リリーナ様の身体から黒いオーラが出ておりました」


 「黒いオーラ?」


 「はい。黒くくすんでいました」


 「黒いオーラね……良くない色なんでしょう? 私でも何となく分かるわ」


 「えぇ、多くの苦難が待ち受けている色です。姫様をじかに視ないと詳しい事は分かりません。ですが……」


 口元に手を添え考え込むクレア。


 「じゃあ、アギト君は?」


 「あの青年は逆ですね」


 「逆?」


 「はい。あの青年の身体からは金色のオーラが発せられていました」


 「今度は金色ね。でも、金色は悪くはないわよね?」


 「はい。この色はどんな苦境に立とうとも、それを克服する力を秘めております」


 「プラス・マイナスゼロなのかしら?」


 「分かりません。詳しく知るには直接会って視ないと」


 「ふう、分かったわ。でも、どうやって連れてこようかしら…お茶会でも始めますか」


 「お茶会ですか? こんな時間に?」


 「えぇ、それで誘い出すから、結果はその後で教えて」


 「分かりました。ですが……そうですね。姫様達に占いの結果を言わない方がいいかもしれませんね」


 「良い結果ならかまわないけど、そうじゃない時はショックを受けるわ。それは旅立ちを前にして、してはいけない事よ」


 「そうですね」


 

 こうして、クレアはアギト達をベルタの前に連れて来る事にした。

 

 


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