第94章
94.
ダークエルフの襲撃に一度は壊滅状態となったエルフの騎士団だが、村人たちが戻るよりは更に時間を要しはしたが、敗走し逃亡した騎士たちも徐々に元の騎士団へと復帰してきていた。騎士団の壊滅とアルス王を見捨てての敵前逃亡という重罪を、エゼルはその一切を不問としてしまった。俺からすると、エゼルは甘いというか心が広いというか、部外者の立場である俺からしても表現に困るところではあるが、俺がその対応に口を挿むべき事ではないと思う。
どちらにせよ、逃亡騎士の原隊への復帰を受け入れなければ騎士団の戦力は回復も出来ないし、為政者には選択の余地はなかったのかもしれない。
「だから、なんで、そうなるんだよ!?」
逃げ出した騎士たちを、エゼルが再び受け入れるという決定は良い。これについて、俺がどうこう言う心算はない。そもそもエゼル程ではないが、俺もかなり心が広いはずだ、一応。既に『元ドラゴンの美少女』、『合法ロリ』、『訛のある悪女(その2)』と三連敗で押し切られているし。昨夜は『別れたはずの悪女(その1)』の方にも、何か頼まれた気もするし。
ついついこちらの口調が荒くなるのは、俺にも若干、心のやましいところがあるからかもしれない。
「まぁ、良いではないですか。ここにはもう、アリシアが守るべき『世界樹の若木』はありませんし」
不安そうなアリシアを横に立たせて、しれっ、とそう言い切るエゼルは良いヤツかもしれないが、それとこれとは問題が違う。つうか、自分の解雇者の雇用を確保するのもあんたの責任だろう。いや、だからこそ再雇用先を俺に振ってきたのか?
「騎士団だってまだ、元の戦力を回復出来ていないだろう。最寄の『世界樹の若木』への道中を、騎士団と一緒にアリシアを連れて行けば護衛として問題ないじゃないか」
一理も二理もあるよね、俺。
ダークエルフのデイーンの事は信じてはいるが、偶発的な戦闘は幾らでも想定し得る。
大体、先程から俺の横で腕組みをするソフィアの周辺の外気温が、急激に下がっている様な気がするし。
その怒りの矛先が俺に向くのは、何としても全力で回避したいし。
「この地の『世界樹の若木』が『世界樹の城』と切り離された時点で、アリシアの『世界樹の若木』の守り人としての役目は終わりです。それに、フィレンツェさんはシャーリーさんを一緒に連れて『虚無の狼の迷宮』に挑むのでしょう?『攻略されざる迷宮』として世に知られる『虚無の狼の迷宮』の主を倒そうというのなら、そちらこそ戦力は多い方が良いじゃあないですか」
親として名乗る勇気もないくせに、シャーリーの為とは都合の良い言い方だなエゼル?
俺が真相をばらさないとでも、高を括っているな?
くそっ、何か外堀が埋められてきた気が。
「この件については、わたしにも言いたい事がある。アリシア・・・」
腕組みをしたソフィアが、エゼルの横に控えるアリシアの元に歩み寄った。
こ、これはついにこの場で怪獣大戦が勃発するのか?
巨大化とか、しちゃう?
俺は退避すべきなんじゃないか!?
取りあえず、シャーリーだけでも連れて逃げ出すか?
怪訝そうなアリシアの耳元に、ソフィアがその口元を寄せた。
「なっ!?い、いや、それはダメだろ!本気で言っているのか?この、わ、私にそんな事を・・・!」
何やら真っ赤になったアリシアが、俺を睨んでくる。ソフィアが何を囁いたのかは分からないが、ところで、何で俺でしたっけ?
「ぐっ、・・・せ、責任はとって貰えるのだろうな!?」
へっ?
「もちろんよ、フィルはそういう人だもの、決まっているじゃない。じゃあ、仲良くしましょうね、アリシア」
にこやかにソフィアが微笑んだ。
周囲に流れる『これって、何だっけ?』という空気の中で、少なくとも俺は『元ドラゴンの美少女』、『合法ロリ』、『訛のある悪女(その2)』に続いて、たった今、四連敗が確定した事を悟らされた。前にソフィアの言っていたドラゴンの収集癖とは、実はこの事なのかもしれない、ふと、そんな気がした。




