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華龍Story  作者: ryo
86/142

第86章

86.

『エルフ』も『ダークエルフ』も、何れも魔法に長けた種族と言われている。この世界に住む他の種族に比べるとその個体が持つ『魔力』は遥かに大きく、扱える魔法の種類も多い。また一方で、細身で長身の者が多いが、ドワーフの様に屈強な体格の者はいない。結果として戦士と言うよりは、魔法使いとしての適性が高い。その戦い方は魔法による先制の遠距離攻撃で相手の動きを止め、有利な間合いを保ちつつ敵の戦力を削る。

ドーナの村長であり、おそらくは村一番の使い手であったであろうエルシャナとの決闘で、俺は『エルフ』との戦い方を実戦で学んだ訳だが、『エルフ』や『ダークエルフ』の集団戦闘を見るのは初めてだった。見るも何も、二人以上の『エルフ』や『ダークエルフ』と同時に戦うなどという状況も、初めてだ。エゼルは想定していた『ダークエルフ』との戦いが、まだ100年は先だと考えていた様だが、ぜひ今からでも100年程延期頂きたいものだ。少なくとも俺が、第二の人生を腹上死で終えた後にしてほしい。


「お前は何故、アルス王に与する?」

野太い声が俺に問う。

俺はてっきり『エルフ』も『ダークエルフ』も、細身で長身の者しかいないのかと思っていた。実際、ドーナのエルシャナも俺よりも背が高く、且つ細身だった。おそらくは人間とのハーフなのであろうエゼルにしても、俺より長身で痩せ型だ。だが目の前の『ダークエルフ』の戦士は、何故か俺より首一つは長身、且つ体格も俺よりデカい。はっきり言って、俺の『エルフ』や『ダークエルフ』に対するイメージを大きく損なってくれている。

やはり、相手の期待を裏切るのは良くないよね?

それが、俺が勝手に描いたイメージだとしてもだ。


「そのサラマンダーの娘には、少し借りが合ってね。今、あんたにその娘を殺させる訳にはいかないんだ」

俺の足元には背中に刀傷を負ったアリシアがいて、屈み込むエレインがその上半身を抱き起している。きつく目を瞑ったアリシアの呼吸は荒く、おそらく回復系の呪文なのだろう、軽くその瞳を閉じたエレインが小さく何かを呟いている。アリシアを抱く両の掌が、淡い白い光を放つ。俺がソフィアの『藍の宝玉』を使って起こす刹那の事象に比べるとずっと穏やかで、持続的で暖かな光だった。


「そのサラマンダーの娘は貴様にくれてやろう。俺がほしいのは、アルス王だけだ」

『ダークエルフ』の戦士は俺から視線を外すと、やはり傷を負ったエゼルに顎をしゃくった。エゼルもまた右の肩口を切られて、シャーリーが如何にか回復薬を飲ませようと回復薬の小瓶をその口元に沿えていた。シャーリーの腕を伝い、地面へと血が滴っている。かつて俺が、ドラゴンだったソフィアに負わせた致命傷をも癒した回復薬だ。その効能に疑いはないがエゼルの回復の可否は、これ以上『ダークエルフ』がエゼルの死を望まない限りにおいて、だろう。


「悪いが、エゼルの方は俺の親友でね。はい、そうですか、とはいかない」

想定していなかったのだろう、僅かに俺の返答に『ダークエルフ』の戦士が目を見張る。

少なくとも、シャーリーがエゼルの血縁である事は、この『ダークエルフ』の戦士に教えてやるつもりはない。アルス王に他に後継者がいるのかいないのか、正直『エルフ』の王位継承の考え方は分からないが、俺から手の内を晒す事もない。何れはバレるにしても、だ。


「人間の人生は、とても短いと聞く。貴様もこんなところで死ぬのは本意ではあるまい?人間は欲張りな生き物だとも聞くが余り欲張りなのは、貴様の短い命を更に縮めてしまうぞ?」

野太い上に、その声色のトーンまで更に低く下がった。

目の前の『ダークエルフ』の戦士の後ろで、俺たちを取り囲む『ダークエルフ』はおよそ100人。戦士の問いに、俺たちに近い何人かが殺気を強め、手にした杖を握り直した。幸いにして目の前の『ダークエルフ』の戦士以外は皆細身で、『ダークエルフ』のイメージ通りにステレオタイプな体格の様だ。とは言え100人もいれば、余り嬉しくもない事実ではあるが。


「そうだな。だが、どんなに寿命が長いダークエルフでも、死んでしまえば一緒だろう?たとえば、人間の俺と決闘で負けて、殺されたりしたならば」

嘯く俺に、『ダークエルフ』たちがざわめく。

俺は100人の敵と戦って勝てる自信はない。

彼らの集団戦闘の手法は見てもいないが、エゼルやアリシアの横たわる周囲には、地面に多くの矢が突き立っている。あるいは周囲には下草の焦げた跡や、穿たれ削られた直径数センチ程の穴も無数にある。100人が放つ矢と魔法の矢衾に立ち向かってエゼルやアリシアが生きている事の方が、寧ろ不思議とも言える。

俺に多少なりとも勝機があるとするならば、彼ら『ダークエルフ』100人を束ねる目の前の偉丈夫と一対一の決闘を申し出る事だけだ。

「まぁ、『ダークエルフ』に俺との一対一の決闘を受ける度胸なんざ、ないだろうがな」

俺のあからさまな挑発に周囲で高まる緊張の中、目の前の戦士がニィっと唇を歪ませる。

その碧色の瞳が、燃える様に俺を睨む。

この男は、俺の挑発に乗った。

コイツに恨みはないが、お互いに避けて通れる道なぞ、最初から在りはしなかった。

それを運命と言うのならば、最初から俺たちはその運命の糸に手繰り寄せられて、この地に居合わせた。

それだけの事、多分、ただそれだけの事なのだろう。


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