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華龍Story  作者: ryo
85/142

第85章

85.

「ずっと古くさい昔、『エルフ』と『ダークエルフ』は、肌の色は違ってへーても、互いを同族と考えとったと言いまんねん」

『世界樹の城』から『世界樹の若木』へと繋がる通路を急ぎながら、俺はエレインの語る『エルフ』と『ダークエルフ』の対立の経緯を聞いていた。

後に『エルフ』あるいは『ダークエルフ』と呼ばれる種族が自分たちを一つの種として自認していた遠き古き時代、彼らはその肌の色合いが異なる事よりも、寧ろその価値観や文化を共有する事こそを『自分たちが一つの種族である』と判断する拠り所としていた。

人間よりも遥かに長い個体寿命を持つ『エルフ』も『ダークエルフ』も、その長寿の結果からか文字を持ちながらも口伝による伝承を通じて、その個性的な文化を維持していた。その中核を成す思想は、何れも『生まれし時も死せる時もそのままに』という自然崇拝にも通じる考え方であり、自然と共に生きる事を何よりも尊い事と考えていた。森の中に小規模な村落に分かれて住み(何れの村落の人口規模も、周囲の森林によって維持可能な規模に保たれている)、木材で作られた家々は森の大木が家を貫く様に支え、森のもたらす野生の獣と森に自生するキノコが彼らの主食だった。

だが、ある時『エルフ』の一人がとある大きな木に宿りし『森の精霊』から、自分たち『森の精霊』の守護者となる事を頼まれた。その者は『森の精霊』の望みを聞き入れ、代わりに他の種族にはない強力な『魔力』を授かった。その者が、後に初代『エルフの王』となるアレスと名乗る者だった。『森の精霊』は約束通りアレスとその一族に『魔力』を与えたが、それは何故か『エルフ』に対してのみであり、後に『ダークエルフ』と呼ばれる褐色の肌を持つ一族はその恩寵に預かる事が出来なかった。やがて、『エルフ』と『ダークエルフ』は、お互いを同一の種族とは見なさなくなっていく。やがて、『魔力』を持つ者と持たざる者、つまり『エルフ』と『ダークエルフ』の対立は、初代『エルフの王』を『ダークエルフ』の若者が殺してしまった事で決定的となった。この王殺し以降、何故にか『エルフ』と同等の『魔力』を『ダークエルフ』の一族も手に入れており、以来『エルフ』たちは、代々それを『ダークエルフに奪われた』と伝えてきている。

その代々に亘る『エルフ』と『ダークエルフ』の対立の、あるいは『エルフ』と『ダークエルフ』が各々に持つ強大な『魔力』の発端となった『森の精霊』との契約がなされた、その『ある大きな木』こそが、『世界樹』だったと言われる。

だが現在この世界には、『世界樹』自体は存在していないらしい。彼ら『エルフ』の世界観では、現在は最初の『世界樹』と次世代を担う『世界樹の若木』の狭間の時代であり、彼らの長い生涯の中では一瞬の間に過ぎない。

そして、『ダークエルフ』からすれば、この狭間こそが自分たちにとって自分たちを蔑にした『エルフ』への復讐のチャンスであり、今は実体を持たない『世界樹』の代わりに『世界樹の城』を落とす事が、彼ら『ダークエルフ』が『エルフ』に勝利する唯一の方法だと考えていた。


「つまり、『世界樹の城』は『世界樹』の代替品で、今、城が落ちれば『エルフ』は『ダークエルフ』に敗北すると?」

『世界樹の城』が落ちたからと言って、遠くドーナの村に住むエルシャナの生活に敗者としての明確な変化が現れるとは思えない。それは俺と旅をするシャーリーに関してもそうだろう。だが、エゼルに関してはそうは行くまい。あるいは、当代のアレス王にとっては。


「ほんまのところは、どなたはんかて分かりまへん。かて『世界樹』は現存せずとも、『世界樹の城』がこうして存在してるのは事実ですし、『エルフ』と『ダークエルフ』が長きにわたる戦いを繰り広げとるのも事実どす。とーに何本かの『世界樹の若木』が『ダークエルフ』に奪われ、この森の『世界樹の若木』も同様に『ダークエルフ』のモンとなるでっしゃろ。今代の『エルフの王』は余り戦いを好まず、『エルフ』はここ数百年程負けばっかりどす。としゃべるたて『エルフ』と『ダークエルフ』の前回の戦いは、何十年も前の話やけどアンタ」

俺たちの先頭で出口へと急ぐエレインが、肩越しに俺を振り返る。金髪がサラサラと揺れる。相変わらず体重を感じさせない軽やかな足取りで、肩越しに少し悲しげな横顔を見せる。その瞳に宿るのは、僅かな寿命しか持たない俺への憐憫だろうか?如何やら、それだけでもないらしいが。

それにしても、種族の存亡が掛かっているという割には随分と気長な戦いだ。それとも、人間だけが生き急いでいるのだろうか?どちらにせよ、余り時間の掛かる事は俺の好みではない。

俺が決着をつけるなどとは、ちょっと、おこがましい気もするが。少なくとも俺は、俺がこの世界に来た意味を、人生の瞬間々々の中で見出したい。

多分それが、俺の『分』というものなのだろう。


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