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華龍Story  作者: ryo
82/142

第82章

82.

『虚無の狼の迷宮』は、この『世界樹の若木』から見ても更に西へと街道を進みランス王国との国境に突き当たった辺りにある名の知られた『迷宮』で、ソフィアのいたリシタの『深淵の竜の迷宮』の倍以上の規模があると言われている。古い『迷宮』なのだが未だ完全には攻略がなされていない、『攻略されざる迷宮』の一つだった。

俺が元々『虚無の狼の迷宮』へとその旅の目的地を定めたのは、この世界でまだ見ぬ『魔物』と戦う事で、この世界をより理解し、この世界で生きていく為の糧というか、生きる意味を見出そうと考えていたからだ。この世界で根無し草であった俺は『迷宮』に潜る事を強要された訳でも、逆に明確な目的意識を持っていた訳でもなかった。

だが正直なところ、旅する中でいくつかの『魔物』と戦い、『魔物』以外にもエルフのエルシャナや、『火の精霊』であるサラマンダーとも戦い、食傷ぎみとまでは言わないが無理して『虚無の狼の迷宮』に潜らなくても戦いを通じて多くを見聞きしてきた。まして、何故か元ドラゴンと『合法ロリ』と『水の精霊』の悪女に責任を持つ必要が生じ、『もう、良いんじゃない?』という気もしないではない。

とは言え、『実はもう、別に『迷宮』に潜らなくても良いんじゃない?という気分です』などとはソフィア、シャーリー、エレインの三人にも敢えて言ってはいない。今更、言える様な雰囲気でもない、多分。常識のない俺でも、それくらいの常識というか、空気は読める。


「そうですか、ではシャーリーさんはフィレンツェさんたちと一緒に、西の『虚無の狼の迷宮』に向かう途中なのですね?」

エゼルが柔らかな口調で問いかける。

食卓には本来は主食となるだろうパンもごはんもなかったが、それでも『猪っぽい獣の肉と、イモとキノコの天ぷら』はそれなりの量を揚げたので、本日の主賓であるエゼルだけでなく、如何やら三人娘たちの腹を満たす事が出来たらしい。俺たちは食後のひと時を、シャーリーが新たに入れなおしたハーブティーを飲みながら寛いでいる。皆、寛ぎ過ぎだけどね、満腹感が幸せそうな表情に現れてるよね、特に俺の横でだらけきって俺に寄り掛かってくるソフィアとか。


「はい!でも、私は簡単な『風の魔法』が使えるだけなので、ご主人様やソフィア姉さまの足手纏いになってしまいそうで。エレインさんも『水の魔法』が得意みたいですし、もう少し私も強力な『魔法』が使えたら良いのですが」

元気だったシャーリーが、みるみるしょんぼりしてしまう。エゼルが見ていなければ頭とついでに耳も、いいこいいこしたいところだが。

魔法使いの戦い方の基本は、『魔法』に依る防御を行いつつ遠距離攻撃で敵を倒す事だ。確かにシャーリーの『迷宮』での戦い方を見ていても一度に二つの『魔法』の重ね掛けは出来ないのだが、俺がエルフのエルシャナと戦った時、エルシャナは重ね掛けとまではいかないのかもしれないが、エルシャナは俺に向けて次々と強力な『魔法』を放ち攻撃と防御を同時にこなしていた。


「シャーリーさんはご自身がハーフエルフだから、純粋なエルフに比べて『魔法』が得意ではないと、そう思っていませんか?」

エゼルが優しい目でシャーリーを見つめて問う。

ハーフエルフが純粋なエルフに『魔法』も、持てる『魔力』も劣るというのは、この世界に於ける常識であるらしい。

エゼルの物腰は如何なる時も柔らかだ。それは高貴な血筋と、おそらくは自分で自分を律する強い意志と、そして幾許かは果たされなかった自分の愛する者への想いが込められているのだろう。


「は、はい。それは仕方ない事だと。小さい頃から、ドーナの村でも私は他のエルフに比べて使える『魔法』も、持ってる『魔力』も半分くらいしかありませんでした」

だが、俺はシャーリー本人も知らない事実を知った。

シャーリーは、実はハーフエルフではない。シャーリーの母親は純粋なエルフで、父親が人間とエルフの間に生まれたハーフエルフ。本当は二人の間に生まれたクオーターで混血の二世代目、4分の3がエルフという事になる。


「それは、ひょっとしたら『自分はハーフエルフだから、皆の半分しか出来ない』と自分で思い込んでいるから、なのかもしれません。さあ、その手を私に貸して貰えますか?」

背の高いエゼルがソファから立ち上がって屈みこむと、シャーリーの手を取った。傍で見ていてシャーリーの、ちょっと、どぎまぎした感じが可愛い。

エゼルが包み込む様に握る二人の手が、ゆっくりと白い輝きを放ち始めた。部屋の応接セットのテーブルの上のティーセットに陰影を刻み、やがて直視出来ない程の光の奔流が溢れた。俺は思わず片手を目の前に翳し、それでも光に包まれた二人を見る。エゼルは親子の名乗りに替えて、何かをシャーリーに託すつもりなのかもしれない。


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