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華龍Story  作者: ryo
80/142

第80章

80.

手持ちの材料から今日の食事のメニューを決めると言うのは、ある意味料理の基本だ。買い物に行く手間を省略し冷蔵庫の中身から逆算するという、生活者の実学と言っても良い。

ただ問題は、この世界での冒険者としての生活が規定する『迷宮』での食事に必要十分な食材しか、ソフィアの『無限倉庫』にはストックが期待出来ない事だろう。当然『結界石』や『魔物避けの香木』で確保される安全が、ごく希薄なものに過ぎない以上、『迷宮』での食事はごく簡単なものとなるのは仕方ない事だった。

調理に時間を掛ける事はパーティーが『魔物』による襲撃を受ける危険を増大させてしまうし、『魔物』を狩るという目的と折角『迷宮』に潜りながら探索以外の事に時間を費やす事は相反するものではある。結果として冒険者の『迷宮』に於ける食事はごく簡単な物、短時間で調理が出来る物とならざる得なかった。


「さて、この材料から何を作ろうか?」

ソフィアに頼んで仕舞い込んだ食材は、大きく分けると肉と野菜だろう。肉はこれまでに狩った、兎っぽいの、猪っぽいの、鹿っぽいの、の三種類。味は元いた世界の牛肉には劣るかもしれないが季節にもよるのだろうが、取りあえずは、どれも食べられない程酷い臭みはなく、固くて食べられないという訳でもない。元いた世界で言えば、どれも馬肉に近いだろうか。ごめん、葦毛たち。お前たちは食べたりしないからね。三種類とも焼けばソフィアやシャーリーがぺろりと皿を空にする程度には美味で、今は何れも冷凍状態で木箱の中で氷に埋もれている。湖で獲った魚もあれば検討の余地があるのだが、魚は匂いが気になるので、さっさと食べ尽してしまった。


「やっぱり、お肉を焼くのが美味しいと思うのよね!」

顔を輝かせるソフィアだが、それではいつもの食事と変わらない。

他の食材だが、森に自生するキノコが何種類かと、じゃがいもっぽい根菜。種類は分からないが鳥の巣から拝借した卵。リシタの街で手に入る小麦の粉と、ランプにも使える菜種油。葉野菜があれば、肉と一緒に炒めたり出来る。調味料としてはドーナの村で取れる岩塩くらいだろうか。醤油と言わずとも、肉が多いので胡椒が手に入ると良いのだが。

既に街から持って来たパンは食べつくしているので、普段なら迷わず串焼きか焼肉と、キノコかジャガイモのスープだな。キノコとジャガイモも焼く方に回して、卵スープでも良い。


「エルフの方どすえら臭みのある肉より、キノコと卵の料理の方が好みかもしれまへんね」

エレインの一言で不満そうなソフィアが喰って掛かるのを、再び背中から抱き留める。

はいはい、二人とも、食事のメニューで喧嘩しない。

すまし顔のエレインを睨んで俺の腕の中のソフィアが唸っているが、確かにエレインの言葉には一理ある。だが、一見人間の容姿をしているエゼルをエルフと言っているあたり、実はいろいろ知ってそうですねエレインさん?

正確にいうとハーフエルフなんだろうけどね。それに自分ではハーフエルフだと思っているシャーリーは、普通に焼肉好きだし。


「よし、肉とキノコとイモを、天ぷらにしてみよう!ソフィアは菜種油をその中華鍋っぽい、って、えー、その底の深い鍋に6割くらいまで入れて。エレインはその大きなキノコを洗って軸のところを取ったら、水を払う。剥くのは俺がやるから、イモも洗ってくれ。油を注いだらソフィアはコンロに火をつけて、鍋の油を温め始めて」

作るものが決まれば、後は作るだけだ。残念ながら二人とも料理の経験も才能もないらしいが、頼めば手伝いは出来る。もっとも二人とも作業はあまり手早くはないので、俺は間違いがないか横目でチェックしながら自分の作業を進める。

まずは鶏の倍はありそうな卵をナイフで叩いて(頑丈な殻で簡単には割れない)溶き卵を水で割り、木箱の氷の上で冷やしながら小麦粉(元の世界の物より多少荒い)をまぜる。余り混ぜ過ぎると衣がドロドロになってサクサク感がなくなってしまうので、軽く。

「ソフィアは岩塩を少し、すりおろして粉にしてね。後で、粉になった岩塩を少しつけて食べるから」

醤油があれば、もう少しバリエーションが出来るのだろうが、取りあえずは塩ですね。

次にエレインから受け取ったイモの皮を剥いて、薄切りに。続けて肉も薄切りだな。厚みがあっては中まで火が通らない。調理用の包丁が欲しいところだが、手持ちは刃に厚みのあるナイフだけだ。肉の身の締まってはいるが筋の少ない猪っぽいのが、比較的薄く切り易そうだ。しかも他の兎っぽいのや鹿っぽいのよりは、淡泊な感じ。

これは自前で調理用に持ち歩いている菜箸っぽい木の枝一組を使って、中華鍋の底をなぞると、箸の先から小さな泡が立ち上る。天ぷらは、たっぷりの油で揚げるのが、油温を下げず美味しく作る秘訣だ。

「さて、エレインはお茶を入れてくれるか?ソフィアは食器棚から大きめの平たい皿を借りてくれ。埃が掛かっていそうなら、軽く水洗いね。借り物なんだから、割らない様に気をつけるんだよ?」

いよいよ衣をつけて揚げ始めると、ソフィアとエレインが興味深々で寄ってくる。そうだ、今こそエプロンが必要な場面じゃないか!『ごはんにしますか?お風呂にしますか?それとも、わ、た、し?』みたいな。

この妄想の続きは夜だな。

素材は極力、本来の天ぷらに傾向を合わせた訳だが、品数が多い訳でも彩が綺麗な訳でもない。だが、これならうちの女子たちの様には肉食系でない者でも、美味しく食べられるはずだ。

美味しい食事はきっと、テーブルを囲む者たちを幸せにしてくれる、そう思う。


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