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華龍Story  作者: ryo
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第79章

79.

居間の奥の扉を開けると、そこにあったのは小さな厨房というか、キッチンだった。厨房の様子は、普段使われてはいないけれども綺麗に整えられている、といった感じ。

キッチンの中には魔法の火力を持つらしいコンロが二つ、上下水道と小さなシンクがある。コンロの仕組みはシンプルで、鋳物らしい五徳の中心に木炭の代わりに魔力の込められた石が置かれている。おそらくは何等かの呪文で発火し、ある程度の火力のコントロールが可能なのだろう。上水道は天井の更に上にあるのであろう、何らかの水のタンクに繋がっていると思われる。そして壁に作り付けられた小さな食器棚にはおそらくはドワーフの工芸品なのであろう陶器と一緒に幾つかの調理器具も揃っているが、やはりどれも使った形跡はなさそうだ。残念ながら冷蔵庫の様なものは置いてなくて、もしここで調理するのであれば、すべての材料は持ち込むか、さもなくば保存の効く材料であることが前提であるだろうが、一応はコンパクトに纏められた非常に機能性の高い空間といえるだろう。なおさら冷蔵庫がなくて良いのかというところが、大きな疑問だが。

問題はソフィアが無限倉庫で持ち込んだ素材で、一体何が作れるかということだろうか?


「調味料の類は、何もないな。というより、設備はあるが余り使った形跡もないし、まるで新築のマンションみたいだな」

綺麗に整っていて、油が跳ねた事もない感じ。もっとも、天井には何らかの吸気装置があって、調理の際に生じる油分を含んだ煙を他の部屋に循環させない様な工夫がなされているので(ファンではないが、何か負圧が掛かる様な仕組みらしい)、たとえ揚げ物や、焼き魚でもいけそうではある。もっとも、この世界では揚げ物の存在を見た事ないが。正直、この空間だけが元いた世界に於ける現代の一室、と言っても通じるくらいだ。もうここまで来ると、トイレを借りるとそこにユニットバスがあっても驚かないのではないか、というレベル。重ね々々冷蔵庫がない事が、残念に思えてくる。


「マンションっていうのは、何なの?」

如何やら、何時の間にか俺の肩に担いだままだったソフィアも復活したらしい。意識を取り戻したのなら、と床に自分の足で立つ様に下ろそうとすると、ソフィアはしがみ付いて抵抗を示すが、にべもなく床に下す。ペタンと床に座り込んで、恨めしげに見上げている。可愛い顔してもダメ、エレインやシャーリーと違い結構重くてこちらの動きが阻害される。口には出さないけどね。


「ああ、俺のいた世界で存在した一般的な集合住宅だな。城みたいな大きな建物を、部屋単位に切り売りするんだ。複数の家族が外見は一つの建物に同居して住む事になる。壁の向こうに別の家族、天井の裏というか上にも、床の下にも別の家族が住んでいる感じだな。そうそう、街の宿の部屋に厨房やお風呂がある感じ」

この世界にもホテルとまではいかないが、街から街へと旅する冒険者や行商人を当てにした宿が多数存在する。それこそ、ピンキリと言っても良い。ただ、長期滞在の場合でも、宿泊客が自室で調理したりする事は出来ない。如何しても自分で調理した物が食べたいならば、宿の主人と交渉して宿の厨房を借りる事から始める必要がある。


「えっ!?あの、お風呂が部屋にあるの?」

そっちですか。

エレイン以外は元々熱い湯に浸かるという習慣を理解していなかった様だが、慣れてしまえばソフィアにしろシャーリーにしろ、それなりの理解を得られた、と思う。多分。

因みに冒険者たちは、普通は川辺で水浴をするか、濡らした布で体を拭く程度が精々と言っても良い。市井の者の感覚は分からないが、冒険者と大きく違う訳ではあるまい。


「だから、俺のいた国では普通に一家にひとつ、お風呂があるんだって」

俺は何もソフィアとシャーリーと、温泉で混浴がしたくて嘘をついていたという訳ではない。混浴がしたかったのは認めるが『裸の付き合い』について講釈を垂れ、手拭いを持ち込む事を禁じた事に関しては、少なくとも何も嘘はついていなかった、と思う。


「そ、そうなの!?あの話、本当だったんだ・・・」

疑っていましたね、ソフィアさん?

そうですか。俺の『温泉に手拭いを持ち込むのは、許しがたい重罪だ』という説明を信じていなかったというのですね?

もう罰として、シャーリーと一緒に『エプロンは、裸で着なければならない』を実践して頂くしかないですね。


「ソフィアはんは、おちゃいちゃいに入りたくへんのどすえら、フィレンツェはんとはわいが一緒に入りまっしゃろから、どもへんです」

しれっと言い放つエレインだが、先ほどの狸寝入りといい、油断ならないですねエレインさん?

流石、悪女と言われるだけの事はある。

言っているのは俺だけだが。


「もちろん、わたしも入るわよ!エレインこそ、体が溶け出さない様に気を付けた方が良いわよ!」

途端に立ち上がって、喰って掛かりそうなソフィアを後ろから抱き留める。

ぜひ、その反応の良さは、別のところで有効に使用して頂きたいものだ。溜息ついでに揉んでおこうかという誘惑に駆られるが、そこは理性で押さえる。


「あー、まずはソフィの持っている食料を、このテーブルに全部並べて貰えるかな?」

後ろから抱きしめたソフィアに問う。

エプロンも似合いそうな首筋ですね、ソフィアさん?

着てなくても似合いそうだけどね。

ソフィアは炙った干し肉でも美味しいならば拘りなく食べるが、折角のキッチンなのだから、何かいつもとは違った一品を期待したいところだ。それは、俺の腕次第ではあるが。


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