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華龍Story  作者: ryo
78/142

第78章

78.

古来、王政によって集約された政権下に於いて、もっとも罪となされる事は当然ながら政治的理由であれ宗教的理由であれ、権威の象徴たる王自身を殺す事である。だがそういう弑逆の事例がないかというと、フランス革命に清教徒革命と、その種の事例には事欠かない。しかしながら、王が殺されるという事象自体が政変の象徴かというと、そうとも言い切れない。宗教的な意味合いによって、王を殺す事がひとつの習慣とされた、との考えもある。

これは王を秩序を司る存在として定義した際に、その絶対的な権力の衰え、つまりは天候不順による飢饉に対し王を殺害する事で新たな秩序を生み出す、というような古代の概念でもあった。王の力の衰えこそが罪であり、深く民から尊敬された王の魂を守り、その神聖な魂を王を殺し息子へと移す。

スウェーデン王ドーマルディは飢饉の回避のための生贄とされたと、北欧神話の中の伝説に残されている。王の死後、国には豊かな実りが戻ったとされる。

ストックホルムのスウェーデン国立美術館の壁画には、かの王が自ら望み神殿へと引き出される姿が描かれている。


「それで、その王は国の為にご自身の幸せを犠牲にしたと、そう悔いておられるのですかね?」

俺はこの世界に来て、それまでに持っていた全てを失い、そして新たな生を手に入れた。だから、今更、失った物を数えたりはしたくはない。それでも、もう一度、今の自分が持つ物を新たに失ってやり直せと言われても、はいそうですかと前に進む事は出来ないだろう。俺とて、ソフィアやシャーリー、エレインを失ったとしたら、きっと、今の場所から一歩も踏み出せなくなるに違いない。

ソフィアの眠る応接セットの、一人掛けのソファの肘に腰を下ろす。ソファの肘のクッションの内側には木製なのだろうか、しっかりとした心材が入っていて、僅かに沈み込んだ先でがっしりと安定している。肘に座るなぞ無礼な態度ではあるが、涎を垂らして寝たりするよりは問題なかろう、たぶん。小首を傾げる様な姿勢で眠るソフィアは、安心し切った安らかな寝息だ。

後で、首を寝違えたりしないと良いが。

手にしたグラスの中で、琥珀色のドーナの酒の中の、氷の欠片が揺れる。


「それは如何でしょうかね。その王は国を捨て、王の元を去った女性を追い、その足に縋り許しを請う事も出来たでしょう。だが、王はそうはしなかった。王にとっては国など、何の価値もないのに。あるいは、ただ、その女性を追ったところで、許してもらえる自信がなかっただけかもしれない。今となっては王自身にとっても、理由など分からないでしょう。結果だけが残っているだけです」

そんなものなのかも、しれない。

俺がいつか、そんな決断をしなければならない時が来たら、否、そんな日が来ない事を神に祈りたい。

人はごく些細な事で人に惹かれ、そしてごく些細な事で分かれていく。

そういう物だ。


「そうか。ところで、皆、強い酒ばかり飲んで寝込んでしまった訳だが、何か軽く摘まむ物でもないだろうか?後で起きた時に、空腹で怒りそうなのだが」

うーむ、何となく想像出来てしまうところがこわい。空腹の余り不機嫌になるソフィアとか。何か物欲しそうにしているシャーリーとか。最近、ちょっとキャラが違う疑惑のあるエレインとか。

ん?

何か、エレインのヤツ、薄目を開けて聞き耳を立てているかも?

それはそれとして、だが、逆に言えば、人間食べる物食べていると、それなりに幸せではある。まして、その食事が美味しい物であれば、なおさらだ。


「それは申し訳ありませんでした。しかし、この部屋には大した物がなくて。その奥に厨房はあるのですが材料も置いてありませんし、今は料理人がいる訳でもありません」

やはりというか、何と言うか、『エルフの王』質素だな。

だが、厨房と言うからには、コンパクトなキッチンがあるのかもしれない。

魔法のコンロとか。

流石、三ツ星ホテルのスイートルーム、本当は異世界だけど。

絶対、宝の持ち腐れな気もするが。

ひょっとして、『エルフの王』は毎日コンビニ弁当か?

・・・この世界にコンビニはないけどな。

だが、酒だけで栄養摂取しているとか?これはあり得る。

酒は、時として過ぎ去った時を揺り戻し、暫しの安らかな微睡と共に幸せだった時を連れてくる。だが、下世話ではあるが満腹感というのも捨てがたい魅力を持つものだ。そう、満腹だったりしたら、そもそも不幸な事など考えられないし、たとえば強引にでも口を開けて笑えば、悲観的な思考を維持する事さえ人間の体の構造上不可能だったりする。


「材料はソフィアが持ってきていますし、エレインも手伝ってくれるでしょう。そら、皆で料理を作るぞ!エレイン、寝た振りしてないで手伝え!ソフィア、行くぞほら!」

俺が寝ぼけるソフィアを肩に抱き上げる間に(涎の被害が太腿に続き肩にも広がるが、ここは気にしたら負けだ)、観念したエレインもシャーリーを起こさぬ様にそっとソファから這い出てきた。俺は『エルフの王』に、何か温かい食事を振る舞ってみたくなった。折角だからソフィアとエレインには手伝ってもらう事にしよう。


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