第77章
77.
「一つ、『エルフの王』にお会い出来たら、私からお聞きしたい事がありました」
エルシャナから貰ったドーナの酒の試飲と言う名の酒盛りは、微妙な展開となった。既にソフィアは俺の膝の上にしな垂れ掛かる様にして安らかな寝息を立てており、エレインとシャーリーも互いに抱きついてソファで仲良く眠っている。
皆、アリシアとの戦いで強いられた緊張と疲労で、強い酒を飲んでは一発だったらしい。
「私が代わってお応えできる事でしたら、答えますが?それと、私は王ではありませんから、普段通りの話し方で良いですよ?」
残っているのは俺と『エルフの王』の執事、エゼルだけだ。エゼルの方は酒に強いのか、酒盛りの途中でエゼルが準備した分が足りなくなってエレインが魔法で造り出した氷を浮かべたロックを片手に、ちびりちびりとドーナの酒を楽しんでいる。エレイン、便利だね。これで料理も出来たら良いのにね。
「実は・・・、シャーリー、例の肖像画を・・・、って、寝てるか」
俺の太ももに突っ伏したソフィアを抱き起し・・・、うわっ、腿の辺りに涎のシミが。もう少し上の方だと、更に問題があっただろうが。取りあえず俺の代わりに座らせつつ、シャーリーの小さなポシェットを探す。皆、大きな荷物はソフィアの『無限倉庫』頼みだが、それぞれちょっとした小物を入れる程度の物は身に着けている。俺はソファに横たわるエレインとシャーリーの体をずらして、シャーリーの肩に掛けられたままのポシェットから、布に包まれた一枚の小さな額を取り出した。
「この肖像画の女性の夫を探していてな。肖像画の女性は、シャーリーの母だそうだ」
エゼルに額を手渡しながら、説明する。
「この娘の母親?そうですか。して、この肖像画の女性は?」
エゼルはドーナの酒が入ったグラスから視線を上げると、肖像画の女性と、可愛い寝顔を見せるシャーリーを見比べる。
シャーリー、未成年の飲酒は・・・、って一応俺より年上か。それはそれとして、簡単に酔いが回るらしいソフィアと、一見未成年のシャーリーは別として、エレインが酒に弱いのは意外かもしれない。
「亡くなったそうだ。この肖像画は、ドーナのシャーリー親子の住んでいた家に隠されていた。シャーリーを、せめて父親に会わせてやりたいと思ってな」
ソファで眠る、シャーリーの頬に掛かった一筋の紅い髪をずらして、その小さな頭をなでる。やれやれ、この後、眠る三人を起こして野宿の準備をするのは大変そうだ。
「シャーリーは、母に女手一つで育てられたそうだ。シャーリーには自分の父親が誰かを、知る権利があると思う。その上で如何したいかは、自分で決めれば良いだろう」
まずは、『世界樹の若木』の若木の立つ広場の森の淵まで戻って・・・。
あっ!?そういえば、アリシアを置いてきたの、忘れていた!
ま、まずいな、怒っているかな?
あのサラマンダーのアリシアを怒らすのは、危険だよな。
「そう、でしたか。『エルフの王』というのは、いわばエルフの象徴でしてね。元々ロイヤルティと言うか民族的な帰属心の薄いエルフたちを、一つに纏める為には『エルフの王』という存在が必要な物なのでしょう。しかしながら、ある代の『エルフの王』が妃に選んだのは、人間の女性だったそうです。二人は愛し合い世継ぎが生まれたが、その世継ぎはハーフエルフ、人間の特徴を色濃く残した新しい『エルフの王』の存在は、エルフの象徴としては望ましくなかった。やがてそのハーフエルフの王は身を隠しエルフたちを治めはしたが、人前に姿を見せず、まるで幽閉された様な生活は新しい『エルフの王』にとっても、辛いものだった。ある時、王は執政を投げ出し、身分を偽りこの世界を旅した。その時、偶然、あるエルフの女性と出会い一児を儲けたが・・・、王の不在に国は乱れ、王は城に戻らねばならなくなった。しかし、身分を明かした王を、その女性は許さず、王の元を去った」
エゼルは再びドーナの酒が入ったグラスに視線を落とすと、ぽつりぽつりと話を始めた。今が何時なのかは分からないが、如何やら、アリシアを怒らすには十分な位には遅くなりそうではあった。




