第76章
今日(3/22(日))の更新はここまで、です。
次回は明日(3/23(月))となります。
やはり、1回/日ぐらいが限度ですかね。
以後、1回/日を維持したいと思います。
76.
扉を開けると、そこにあったのはそれまでの殺風景な石造りの通路と打って変わって、落ち着いた感じの洋室だった。先ほどの通路の壁の燈火と原理は同じなのだろうか、天井にはこの世界では貴重なガラスをふんだんに使った凝った装飾のあるシャンデリアが灯り、白い漆喰の壁には落ち着いたダークブラウンの重厚な造りの木製の家具が置かれている。けして広い部屋ではないが印象としては、都内にある老舗の三ツ星ホテルの一室。何故都内かと言うと部屋には一つとして窓がなく、眺望や高原の新鮮な空気を楽しむ様な趣向ではないからだ。
そして、開かれた扉の隙間から部屋の中を覗き込む俺たちを迎えたのは、一人の初老の紳士だった。
「お邪魔します・・・」
俺よりも更に10センチくらいは上背がありそうな長身白髪の紳士で、少なくともアリシアの言う、『エルフの王』を守り俺たちを待ち構えるエルフの騎士でない事は確かだと思われる。何故ならば紳士は俺と同じ人間種と思われ、エルフの外見的特徴である尖った耳を持っていない。元いた世界のスーツに近しい黒の上下を優雅に着こなし、『エルフの王』に仕える執事といった印象だ。
「おや、あなたたちは、どちら様でしょうか?」
紳士は奥の部屋から出てきたところらしく、部屋を覗き込む俺たちを見つけ、少し驚いた様子だ。
済みません、泥棒ではありません、だから出来ればエルフの騎士を呼ぶとかしないでくださいね?ここは、まずは自己紹介だろう。
「えー、ドーナ村のエルシャナに紹介頂き、『エルフの王』に謁見に参りました。わたくしはフィレンツェ、こちらはソフィア、シャーリー、エレインと申します」
順番に頭を下げる。『エルフの王』以外でも、この世界の王様とか会った事ないので俺の礼儀作法は皆無に等しいのだが、俺と同じくらいに無作法なのかソフィアは少しの会釈で済まし、シャーリーはお詫びしますという感じで深々と頭を下げ、エレインは優雅にドレスの裾を摘まんで片足を後ろに引き、もう片方の膝を折った。ソフィアの場合は知ってて、やらないです、感が出ている。ドラゴンのプライドという物があるのかも。
「そうですか。それはご苦労様でした。私は王にお仕えする執事のエゼルと申します。ドーナから来たのでしたら、お疲れでしょう。まずはこちらに」
やはり執事だったらしい。如何いう経緯で『エルフの王』の執事が人間なのかは謎ではあるが、ひょっとすると慇懃なところを王に気に入られているのかもしれない。エゼルは、如何にも執事といった風ではある。
俺たちはエゼルの案内で、部屋に置かれた応接セットに座る。幸いにして、俺たち四人とエゼルの合計五人が座れるだけの数があった。
「エルシャナの紹介との事ですが、何か書状をお持ちでしょうか?」
早速、エゼルが切り出してきた。
俺がエルシャナに『エルフの王』の事を持ち出したのはエルシャナから紹介状を受け取った後なのだが、紹介状は同じエルフの者に宛てた物ではあっても、少なくとも宛先を限定した書き方ではないと思われる。
俺は懐から書状を出すと、エゼルに手渡した。
「ふむ。わざわざお越し頂き恐縮ですが、現在、王は不在でして」
そう言いながらも、エゼルは封書の裏表を軽く確かめてから封を切った。如何やら、封書に既に破られた跡がないかを確認したのだろう。
「ご帰還をお待ちする訳には、行きませんか?」
封筒の中の書面を目で追うエゼルに問う。
さて、俺は実のところエルシャナの紹介状の中身を知らない。エルシャナの事だから『この書状を持つ者を殺せ』とかは書いていないだろう、くらいの認識だ。
「そうですね、人間の身には、少し長すぎる滞在となるでしょう」
『人間の身には、少し長すぎる』というのが、いったいどれ位を指し示すのかは不明だが、おそらくは年単位なのだろうか?たとえそれが数ヶ月であっても、うれしくはない。
「そうですか、それは残念です。では、こちらのドーナの酒を献上頂けますでしょうか?」
勿体無い気もするがドーナの酒であれば、『エルフの王』の口に合わないと言う事はあるまい。もちろん、エルフにも下戸はいそうではあるが、その場合は素直に無知を詫びれば良いか。
「ほう、これはこれは。王は不在ではありますが、では、折角ですから、皆で試飲させて頂きましょう」
へっ?
そそくさと、エゼルは壁のガラス戸棚から何やらグラスを取り出す為に席を立った。
残された俺たちは、思わず顔を見合わせている。妙な展開だが、それ以前に勝手に酒樽の封を開けて良いのでしょうか?
まぁ、これも毒見と言う事なのかもしれない。
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