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華龍Story  作者: ryo
75/142

第75章

75.

「・・・開かない」

目の前の扉は一面に鮮やかな緑青が浮かんだ青銅製の様で、街中で見掛ける厚みのある木に鉄の鋲や帯を打ち付けた造りとはまた違った重厚さがある。ドワーフの手による鋳造製なのだろう一枚扉で、同じく青銅製の持ち手にも、何かは分からないが細かな装飾がなされている様だ。価値の程は、街の木の扉に数倍する代物なのだろう。だが問題は、俺がその持ち手に手を掛けて、全身の力を込めて押しても引いても目の前の青銅の扉はびくともしない。


「開かないわね」

ソフィアが俺の手元を覗き込むと、俺の手の上から自分の手を添えて一緒に持ち手を引き始めた。しなやかな指の感触が良いが残念ながら、扉を開けるという事に関しては効果は全くないと言っても良い。


「開かないですね」

シャーリーも手を貸してくれるが、扉の持ち手の方は既にいっぱいなので、扉を直接両の手で押してくれている。

持ち手を引いて、同時に扉を押しても、開く扉も開かない様な気が。

まぁ、一生懸命なところは可愛いけどね。


「あきまへんなー」

確かに、開きません・・・。違うか。

さて、如何したものか。

四人で顔を見合わせる。


「・・・お前たち、まさか『鍵』を持っていないのか?」

しまった、扉を前に悩む俺たちの背中に、アリシアの不信感を露わにした声が突き刺さる。

だが。

良いですね、アリシアさん、そのハスキーボイスで攻められるの。

何か、悪くないかも。

い、いや、何か妙な方向に新しい世界が開けそうだが今は、そんな場合ではなかった。懐に手を入れる。


「『鍵』?あ、ああ、忘れていた。持っているさ、当然じゃないか。えーと、この『鍵』で・・・」

『知られざる迷宮』の奥底で手に入れた『鍵』を、鍵穴に差し入れる。

これで開かなかったら、即時アウトですね。最悪、もう一度、アリシアと戦う羽目になるかもしれない。しかし正直、首を落としても死なない『火の精霊』にもう一度勝ってみろと言われても、かなり微妙な気がする。半ば覚悟を決めつつも、ゆっくりと『鍵』を回すと、カチャンと鍵穴の奥のギミックが外れる音がした。

どうやら、当たりだ。

内心で強いられた緊張を、溜息と一緒に吐き出す。


「では、行ってくるが良い。私はここで待っていよう」

扉を開けると、その先は石造りの通路が真っ直ぐに続いている。当然なのか、それとも驚くべきなのか、俺たちは『世界樹の若木』の根元を地下へと潜っているはずなのだが、普通に水平な通路を歩いているかの様だ。俺たちが奥へと進むと、アリシアが閉めたのだろう、背後で扉が閉められる音がした。

上下左右共に2メートルはありそうな通路だが、流石に俺を先頭に皆、臨戦態勢だ。周囲に『魔物』がいる気配はないが、王を守るエルフの騎士たちとやらが何時襲ってくるやもしれない。石を積まれた壁にはところどころに蝋燭代わりの燈火が掛けられ、おそらくはドワーフの住む『鉱山都市リリチルカ』で見たのと同じ様な尽きる事のない魔法の灯を灯している。


「この先に、『エルフの王』が住む城があるのよね?」

臨戦態勢だったはずのソフィアが、何故か俺の左手に抱き着いている。

実は怖がりなんですね、ソフィアさん?

流石に他の二人は場をわきまえているのか、躊躇いもなく一人抜け駆けを果たしたソフィアに恨めしそうな視線を送るだけ・・・、だったはずが、次の瞬間には俺の右腕がシャーリーの両手で固定され、再び背後からエレインの両手が俺の胸に回されている。

お前ら、この状態で接敵したら、確実に皆死ぬからね?


「そうらしいがな。『エルフの王』にお目通りが叶うならば、シャーリーのご両親の事を尋ねてみたいところだが」

100メートル程も進んだだろうか?『世界樹の若木』の周囲も、この扉の内側も空間がねじ曲がっているので、感覚的な距離感がどの程度正確なものなのかは不明だった。あるいは距離というものが、全く意味をなさないのかもしれないが。

「あれだな・・・」

俺たちの正面に、新たな扉が現れた。

幸いにしてここまでは、『エルフの王』を守護する騎士たちには出会う事がなかったが。出会ったら、そもそもこの左右を固められて約一名は『子泣き爺』と化している状態を、如何説明すれば良いんだ?『いやー、エレインが足を挫いてしまいましてね。左右の二人も貧血でして』とか。

無警戒なのか、警戒する必要がないからなのか。

今度の扉は鍵穴さえ、ない。

『同田貫』の鞘を握る左の掌が汗ばむ。

右手を上げ(シャーリーが固定しているのは二の腕なので、俺の右手の肘から下は辛うじて自由が効く)観音開きの扉の中央に掌を当てると、ゆっくりと音もなく扉が開いた。

扉の奥から漏れ出す光が、俺たちを招いていた。


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