第73章
73.
「エレイン、あなたはまだ『水の精霊』であるあなたが、何故この人間に与するのかを答えていない。この人間がお前の主だとでも言うの?」
俺たちを『エルフの王』の元に案内するべく俺たちの前を歩くサラマンダーの美女、アリシアの言い様は中々痛烈だ。ダメ出しされてます、俺。
僅かに振り返り、訝しげに、肩越しに隻眼で俺を値踏みする。
いいですよ、いいですよ、今夜は可愛いシャーリーで癒されよう。
エプロンを買わないと。
何処かに売ってないかな。
アリシアの後ろを歩きながらも妄想の中に現実逃避していたら、振り返ったまま立ち止まったアリシアの背中にぶつかりそうになってよろけた。危なかった・・・。心中で密かに溜息をつく。
「そへんでっせー。わいは、この人のモンどす。わいはわいの主が望む事を為すだけでっせー」
へっ!?
そ、そうでしたっけ?エレインさん?
昨夜は確かに、何かそんな事もあった様な、なかった様な、だが。
あれはソフィア、シャーリーと当のエレインの合議によって何か決まっていた様な。それに、その発言は、ひょっとしてサラマンダーの美女に、ただ単に火に油を注いでいる様な。もっと燃えろー、みたいな。
「・・・そうか。それは理解したが。『水の精霊』が、身も心も捧げる相手を選んだ理由を教えてほしい」
絶対、理解してないですね、それ。
俺も理解出来てないですけどね。
しかも、何か怒っている?怒ってますね?
俺を睨む隻眼の垂直のスリットの奥底に宿るのは怒り、憎しみ、懐疑、そんな負の感情だろう。なのに話題は何故か・・・、何か、女子会の恋バナを聞かされている気が。いい加減、話題を変えません?いろいろと持たないんですが、精神的に。
「いい男でっしゃろ?」
にこにこと上機嫌のエレインが、パンっと俺の肩を叩いた。
緊張感の欠片もない。
何か、キャラが違いませんか、エレインさん?
もっと、おしとやかな感じでしたよね?そう、それこそ、シャーリーでは少し役不足な(失礼!)はんなり、という感じではなかったか?
今日は次々と男の夢が壊れていくな・・・。
さようなら、俺の青春。二度目だけどな。
「・・・分かった。そちらのドラゴンにも聞いて良いか?その人間の何処が良いのだ?」
今ので、分かったんですか!?アリシアさん?
そうこうするうちにも、ソフィアが両の掌を何時の間にか、自分の頬に当てている。明らかに自分に質問が来ることを想定していた、あるいは準備は整っていますという感じ。『私にも訊いて』オーラが出てますけど。しかも何時の間にか、両手の指の隙間から見える頬は赤く染まっている。
・・・相変わらず、芸が細かいですね、ソフィアさん?
ありましたよね、この展開。そう、確かシャーリーに俺たちの出会いを説明した時だ。俺は大泥棒で、ソフィアの『藍の宝玉』とソフィア自身を泥棒の俺が盗んだ、みたいな。あんまりな内容に、誤りというかシャーリーの誤解を正さずにいたが今日こそは、あの時の二の舞を避けなければ。
「わたしの場合は、フィルに強引に・・・」
やはり、そう来るのか。
俺は慌てて、ソフィアの口を塞ぐ。
リシタの『深淵の竜の迷宮』で俺を押し倒したのは、ソフィアの方だよね!?今更ではあるけれど、押し倒されたのが俺。押し倒したのはソフィア。だが、珍しくも大人しく口を塞がれたままで抵抗しないソフィアと、強引に黙らせた体の俺に、アリシアは再び歩みをとめて、その隻眼を見開いている。その横で『ご主人さまは、強引なので・・・』などと頬を赤らめたシャーリーが呟き、腕を組んだエレインまでもが、金髪を揺らし何やら頷いている。
こういうのを、四面楚歌という。
詰んでますね、俺。
「そ、そうか。それは仕方ないな、仕方ない。うん、そういう事もあるのだな・・・」
えーと。何かアリシアの理解は得た様だが。明らかに間違った理解を与えた様な。
はぁ。
今度は隠す事も出来ず、溜息が漏れる。
その隙にソフィアがするりと、俺の腕から逃げ出した。
少なくとも、絶対、今夜はお前ら全員、お仕置きだ。
まずは、シャーリーに『回復薬』を出して貰おう。




