第72章
72.
「キミが、先程のサラマンダーなのか?」
まぁ、これ位では、もう驚かないよ、ドラゴンが美少女に変わる瞬間も見たしね。
兇悪なサラマンダーが美女に変わっても、全然大した事じゃない、多分。
良かったな、あれ。俺たちが初めて出会った時、胸元に毛布を掻き上げ恥じらうソフィアの、初々しい感じ。思わずソフィアをチラ見してしまうが、明らかにソフィアの機嫌が悪そうな気配。しまった、見るんじゃなかった・・・。どうか、男の夢を壊さないでおくれ。
代わりに可愛いシャーリーを愛でて癒されようかと思ったが、気が付くと既にシャーリーは俺の背中の陰に隠れていた。如何やら恐ろしげなサラマンダーの女の視線から、隠れる意図があるらしいのだが、俺からすると飛んで火に入る何とやら。取りあえず怖がりのシャーリーを、あやす振りをしつつ捕獲。腰を抱いて体の位置を入れ替えて、抱きしめる。
「・・・そうかもね。エレイン、如何してあなた、人間に味方するの?あなた、『エルフの王』を裏切るつもり?」
おっと、こんなところで『エルフの王』、出てきました!シャーリーの耳がピクリと動いた。これはきっと、俺に甘噛みしてほしいと言う事なのだろうか?多分、間違いなく違いそうではあるが、戦いの緊張が解けた俺は妙に興奮だけが残っている様で、普段なら余りそそられない(失礼!)密着したシャーリーの品の良い膨らみとか、(こちらは日ごろから俺を誘惑して止まない)ぴくぴくと動くその可愛い耳とか、妙に誘惑が多い。
もう、俺としては今日の業務は終了。
サラマンダーの美女も、ついでに『エルフの王』も明日で良い気分。
それに一応、俺の質問には答えてくれたが、サラマンダーの美女は友好的な態度ではない事は明らかだろう。
今日はもう、お開きにしませんか、エレインさん?
「アリシア、あんはんは、このフィレンツェとの勝負に負けたんや。勝負は正しく正々堂々と行われたんや。『何処へとなりといかはったがええ』そへん、言やはったね?さあ、わてらを『エルフの王』のところに案内やす」
勝ち誇ったエレインと、悔しそうな隻眼の美女。
エレインはやはり、このサラマンダーの知り合いでしたか。しかも、意図的に俺たちがサラマンダーと戦う様に仕向けた。やはりエレインは、悪女に認定。良いよね、年上の悪女。その目的は、俺たちを『エルフの王』のところへ連れて行くことなのか?
如何やらまだ、今日の業務は終了ではなかったらしい。
「『エルフの王』は、直接許可を与えた者にしかお会いになられない。たとえ私が負けたとしても、王を守るエルフの騎士たちが、この先を通すまい」
というか、俺を爬虫類というか猫っぽいというか隻眼で、且つ非人間的な瞳で見つめていたが。俺に対する無表情な視線と違い、改めてエレインに向けられた視線は打って変わって憎しみが込められている。垂直のスリットの奥底に宿る感情が憎悪なのは、先ほどまでの感情に欠けた眼差しとは対照的だ。その端正な顔を縁取る正しく炎の様なその髪の毛は、サラマンダーの纏う灼熱の炎の様だった。
だが、その声のハスキーなトーンは、エレイン同様に年上の魅力を感じさせる。
・・・どんだけ年上好きなんだ、俺。
まぁ、ちょっと、アリシアと言う名のサラマンダーの美女の案内で、『エルフの王』に会ってみたくはなった。
「俺はドーナの村の、エルシャナの書いた紹介状を持っているのだが。それでは不足だろうか?」
アリシアに問う。
俺の問いには、如何やらアリシアも幾許か驚いた様だ。ついでに事情を知らないエレインも、驚いた様な表情を浮かべている。嘘ではないが、本当でもない。もっとも、嘘であれば、その王を守るエルフの騎士に阻まれるだけ、なのだろうが。
「それは、本当か?『水の精霊』とドラゴンを従える人間、か・・・」
アリシアはそう呟くと、何故か俺の腕の中のシャーリーの背中に視線を向けた。『水の精霊』に元ドラゴンと来れば、俺の腕の中でアリシアの刺すような視線に肩を震わすエルフの少女は誰だろうと考えるよね、普通。単なる『合法ロリ』のハーフエルフですけどね。
まぁ、従えると言うより、どちらかと言うと尻に敷かれている気がしないではないが。良いよね、ソフィアのお尻。敷かれ甲斐がある、というか。どちらかと言うと、俺は膝枕の方が好きだけどね。
「良かろう、城の入口へ案内しよう」
真っ赤なロングドレスを翻すと、アリシアは俺たちに背を向け、『世界樹の若木』へと歩み始めた。ドレスの赤よりも赤い髪が首に巻かれた包帯の白を覆い隠して、炎のごとく波打つ。
如何やら、俺たちについてこい、と言う事らしい。




