第65章
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この世界に於いても羊っぽいのや、牛っぽいのと同様に馬っぽい野生の獣が家畜化されたのは太古の昔と考えられる。因みに数ある獣の中でも馬が乗用に適する理由はその知能や耐久力と併せ、走る際に背筋が湾曲せず人間が乗りやすい事があげられる。但し、伝承によれば人間が馬を家畜としたのよりエルフの方が先行したとされ、人間はエルフが馬に乗る姿を見てそれを学んだらしい。一旦、乗用の家畜として馬の存在が定着すると、人間はエルフが余り積極的ではない農耕や物資の輸送力として馬を活用し、同様に戦の為の手段とした。何れも元いた世界の現代に於ける馬よりは大型種が多く体高も170センチ以上、体重も1トン以上、非常にタフでもあり荷馬や馬車を曳く為にはとても適している。ただ、軍馬としては騎乗のみで、戦車を曳くといった使われ方はしていないが、それが単にこの世界では戦車が発明されていないからなのか、平地が少なく運用が柔軟性に欠けるからなのかは分からない。
エルフも含め馬肉を食べる習慣や、皮膚への塗布を目的とする馬脂の採取も一般的ではなく、民間に於いては農耕用、乗用(馬車馬含む)共に金貨20枚程度、つまり俺の『同田貫』の倍くらいの値段で扱われ(俺の『同田貫』安っ!)長距離を旅する『冒険者』や行商人にとっては無くてはならない存在と言っても良い。
因みにうちの葦毛たちには、名前がまだない。ごめん。
「ここでっせー。このゲテモン道が、最寄りのエルフの村に通じていまんねん」
『知られざる迷宮』を脱出し、西へと向かう街道。
エレインが、そのか細い指で指し示すのは何の変哲もない杉っぽい木の横で、その根元を注視すると確かに下草が倒されているかも。そうだとしても、俺の目にはこの杉の木には、ちっとも目印になる様な他の木々との差異などはない様に見えるし、俺にはそれが本当の獣道なのかエルフの住まう隠された村に通じているのか判断するすべはない。
「うーん、エレイン、ここからその村まで、歩きでどれ位掛かる?」
俺の中ではエレインとついでにヴィヴィアンも揃って悪女に認定済みだが、少なくとも此処で俺たちに嘘をつくとも思っていない。悪女っていうのは得てして、良い女であったりするらしいのだが。それはそれとして。
この先に隠されたエルフの村があるとして、問題は俺たちがどれ位で辿り着けるかだろう。
「そへんですね、歩きで半日ぐらいどすかね」
少なくとも『水の精霊』であるエレインに、今のところは俺の持つ常識や価値観との大きな差異は見られないが、常識との隔たりがある人物を約二名他に連れているので、ある意味俺も耐性があるつもりではある。だが計画を立てるにあたっては、『歩きで半日』の回答が実際は『歩きで一日』だったぐらいの誤差は見込んでおくべきだろう。この先、街道からもっと近しいエルフの村を探す事が出来ない訳でもないが、出来ればあの『知られざる迷宮』からもっとも近いエルフの村が望ましい。
「うーん、この道幅だと、馬車は通れない。かと言ってうちの葦毛たちを置いて行くのも心配だな。仕方ない馬車は置いて、葦毛たちは連れて行こう。俺以外に馬に乗れるのは?」
俺は馬車を操るのも乗馬も、この世界に来てから必要に迫られ習い覚えた事だ。ただ、それは『冒険者』として生きていく為に必要な事であり、一般市民として特に都市部で暮らす分には必須という訳ではない技術だろう。
「は、はい!」
おお、何故か顔を赤らめたシャーリーが手をあげた。厳しい先生の質問に、クラスで一人だけ手を上げた美少女、という感じ。これはクラス中の男どもが、思わずどよめきを起こすシーンなのだが、ごめん、このクラスには男は俺しかいない。今度、頭とついでにその可愛い耳も撫でてあげるから、許してね。
「じゃあ、シャーリーはソフィアと。エレインは俺と一緒に」
幸いにして鞍は載せてあるが、当然一人用だ。鞍は乗馬未経験者に使わせて、手綱を握る者は鞍の後ろから(つまり鞍に載った人の後ろから)手綱を取る事になる。鞍がないので、二人のりの後ろに乗る者は両膝を締めて馬の腹をしっかりと抑え込む。
「なんで、エレインとフィルなのよ!シャーリーとエレインで問題ないわ!」
うーん、シャーリーとエレインの組み合わせと言う事は、要するにソフィアと俺の組み合わせという事になる。
微妙に遠回しなご指摘ですが、ソフィアさん?
だが、俺たち四人のうち体重の重い順に二人(敢えてこれ以上に順番を明確化するつもりはないが)が同一の馬に乗るのは如何だろう?
だが、ここでNOと言うと、多分俺の命が危ない。
「では、ジルとジバはシャーリーの前で、エレインが抱き抱える事。じゃあ、馬車を街道から見えない位置に隠すから、手伝ってくれ」
ふぅ。ソフィアの機嫌は目に見えて回復。
危なかった。
この一瞬強いられた俺の緊張とストレスは、望んで俺の前で葦毛に跨る事にしたその身で晴らさせて頂こう。あ、これは手綱じゃないな、柔らかいし。みたいな。我ながら親父くさいな・・・。
二人のりは馬車を曳くより葦毛たちの負担が大きい上に、獣道では足場も悪い。仮にエレインの言っている事が本当だとしても、歩きと同じ程度で進む事を考えよう。
後は、『何の為にエルフの村を訪れたか』という理由を考えておく必要がある。
それを考えるのは、俺の役目だろう。




