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華龍Story  作者: ryo
66/142

第66章

66.

二頭の葦毛の馬の背に分かれ『知られざる迷宮』からは、もっとも近い距離にあるらしいエルフの住む村へと向かう俺たちは、エレインの案内で街道を離れ獣道と変わらぬか細い脇道へと足を踏み入れた。エレインがいなくては脇道の入口も分からなかったであろうし、エルフの村へと続くはずのその道は途中に注意していても気付きにくい分岐があり、あるいは不必要に蛇行を繰り返して少しでも本道を外れれば二度と同じ道筋には戻れぬ、そう感じさせるものがあった。おそらくエルフたちの招かぬ者がたどり着けぬ様、意図的に迂回を強いられていると思われる。つまり、この脇道自体が『迷宮』に等しい、強く人間を拒む力を持っていた。

周囲の森林はいよいよその深緑の色を深め、木々の茂らす葉はまるで重なり合うかの様だった。樹高も増しているのか地上に届く日の光は更に減り、昼なお暗い鬱蒼とした空間を形作っている。先ほどまで順調に歩みを進めていた街道では余り経験のない事に、森に住む小鳥たちの囀りに紛れ時折、何かは知れぬが遠吠えの様な嘶きの様な鳴き声が周囲に木霊する。固い木の幹に音が反射するのか、音の方向も距離も掴みにくい。俺たちを運ぶ葦毛たちも不安からなのか、時折顔を左右に振りながら怯えたように、その歩調を乱さずにはいられない様だった。


「わたし達ドラゴンは皆、自分の好きな物を貯め込みたがるわ。それはたとえば宝石だったり金貨だったり。あるいはそういう形のある物ではなく、魔法だったり知識だったり。だから、もし親兄弟が自分と同じ嗜好だった場合、親や兄弟を殺してでも、相手の持つその宝を自分の物にしようとする。逆に好みが違っていたらいたで、相手の一番大切な物の価値が決して自分には理解出来ない。結局、好みが同じでも違っていても、ドラゴン同士は一緒にはいられないのよ」

よ、良かった、ソフィアが親兄弟と離れて暮らしていたのは、如何やら『ドラゴン共食い説』が原因ではないらしい。否、やはり原因としては共食い『も』、なのか?あり得る・・・。これでは俺の二度目の人生の終わりは腹上死から、ソフィアに食べられちゃう、に変更なのだろうか?

葦毛のうちの一頭に跨る俺の前に、ソフィアが同じ様に跨っている。

ソフィアは俺が前方を見やすい様に僅かにその上半身を右に倒し、首も右へと傾けてくれている。俺はその反対、左側に少し自分の体を寄せ、ソフィアの左の頬とうなじに自分の頬を寄せる。折角前方を見やすくしてくれているのだが、俺が見ているのはソフィアの頬のうぶ毛が木漏れ日に輝く様や、シャーリーの耳とはまた違った誘惑を与えるその可愛い耳だったりする。


「ソフィアは何が一番、大切なの?」

それはそれとして。何も頬だけ、ではない。

このおしり、良いよね。ほっそりとした腰の下の、むっちりとした形の良いおしりが、ただ重いだけではないと主張している。そして、その折れそうな腰まで掛かるサラサラの深い藍色の髪。間近で見ると、唇を寄せてその感触を確かめずにはいられない。

先程、いろいろと悪戯をしていて、ついに涙目で怒りだしたソフィアに腕に噛みつかれたのだが。懲りていないと言われればその通りで、懲りる訳がないじゃないかと、自分で自分に反論したくなる。


「難しい質問ね。ドラゴンは自分の好きな物、自分にとって一番大切な物を決めるのは、結構時間が掛かるのよ。生まれた時から決まっているっていう訳でもないの。わたしの場合、親兄弟の不毛な争いを見て来たから、なおさら決めるに決められなくて。それで一族から一人離れて、『迷宮』の奥底で『自分にとって一番大切な物』が何なのか、ずっと考えていたわ。時間だけは、たくさんあったから。でもね普通は取りあえず、年若いドラゴンは周囲から何でも良いから奪ってくるの。わたしも、たとえば『藍の宝玉』を奪ってみたわ。綺麗だけど、でも何か違う、そんな気がした。わたしの場合、それ以上、誰かを殺して何か自分でも分からない物を探すって気にならなかったけれど。でも普通ドラゴンはそうやって、何か『自分にとって一番大切な物』を探し続ける。そしてついに気に入った物が手に入ったら、それからは、そればかり集める。だから、ドラゴンは悪竜なんて呼ばれるのだけどね」

それはたとえば、ラーメン屋を見掛ける度にその店のラーメンを食べてみて、ここぞという店を見つけると、もう、事ある毎にその店に通い続ける、そういう感じ?

「そうね、でもわたしも『大切なもの』は見つかったみたい。だから、もう、良いの。それでね・・・、あっ、何か開けたところに出たわね?」

突如目の前の木々の重なりが疎らに変わり、俺たちは急に広場の様な場所に出た。直径100メートルぐらいの丸い空き地だが、中央に周囲の森の木々を超える背の高い木が一本だけ生えている。広場に入り歩みを止めた俺たちに、シャーリーとエレインの乗る葦毛も並んだ。シャーリーとエレイン、それにシャーリーに抱き抱えられたジルとシバも木を眺めている。小柄なシャーリーは自分の前にエレインとジルとシバがいて、手綱を取るのはかなり難しい様だ。如何やら前方を見る役目は、半ばエレインに任せて凌いでいるらしいが、それでも今は小さな体を目いっぱい倒して前方に聳える木に見入っている。


「あの木、何かいるわね?」

ソフィアは前方を凝視して呟くと、僅かにその肩を震わせた。

森に木があるのは良い、普通の事だろう。逆にこの広場に木が生えていない事も、その中央にだけ、ただ一本だけ木があるのも何か理由があるに違いない。

だが、一本だけ聳える様な枝ぶりと、周囲の二倍以上あるだろうその樹高、だがそれ以上に何か強烈なプレッシャーを感じる。

木に住む『魔物』だろうか?

何れにせよ、あの木に近づいてみれば分かるだろう。


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