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華龍Story  作者: ryo
62/142

第62章

今日(3/8(日))の更新はここまで、です。

次回は明日(3/9(月))となります。


62.

溶岩流のスピードは、溶岩の構成成分に左右されるところが大きい。溶岩の主成分である二酸化ケイ素の比率が増えれば流動性は低下する。流動性が低い場合は日本に於ける昭和新山のような溶岩ドームを形成し、溶岩流は起こらない。一方、二酸化ケイ素の少ない玄武岩質溶岩の場合には溶岩流を起こし、長距離を流れて大地を焼き尽くす事となる。溶岩流のスピードの差異は火山によって異なり遅ければ人が歩いても逃げられるが、早ければ秒速10m以上となる。

但し、噴煙、火山性のガス、あるいは火山弾といった事象が噴火に伴い発生するならば、その被害は溶岩流の発生のみに留まらないのだが。

とはいえ、溶岩流の被害をコントロールする試みがなされた事がないかというと、事例は少ないが成功事例も存在する。恒常的に国土に多くの活発な火山地帯を抱えるアイスランドでは、ヘイマエイ島での突発的な溶岩流の発生に対しポンプで海水をかけてこれを冷やし、その進行を、溶岩を冷やして固めることで食い止める事に成功している。元いた世界、1973年の事だった。


「エレインと二人だけで、何やってるのよ!」

溶岩流の川岸で置いてきぼりをくったソフィアが、顔を真っ赤にして怒っている。怒った顔も可愛いが、それと同時に怒らせると怖いのも事実。困ったもんだ。ソフィアの後ろで何故かシャーリーは怒っているのか、怒った振りをしようとしているのか、微妙な表情だ。思わず頭を撫でたくなるし、何故かその耳に甘噛みしてみたくなるが、そんな場合ではない。

いつの間にかこちらの岸に渡った当のエレインは、俺たちを見つつ素知らぬ顔だ。


「そんな事を言ってる場合じゃない!この地震、火山性の物だぞ。この剣と俺の『同田貫』も頼む。走るぞ!」

『氷の剣』と、『迷宮』の床に置いた『同田貫』を拾いソフィアに託す。まだ不満がありそうだが、しぶしぶといった感じでソフィアが『無限倉庫』に『氷の剣』と『同田貫』を仕舞い込む。仕舞ったから、もう良いじゃやない、とでもいうのか、今度はソフィアがエレインの方にその怒りの矛先を向けようとしたその刹那、足元の揺れが更に強まった。


「あっ、『迷宮』の奥の方が何か赤く燃えています!」

シャーリーが『迷宮』の奥底を指さし、叫んだ。確かに目の前の溶岩流と同じ、赤い輝きが見える。如何やらこれで、『迷宮』の奥底の『魔泉』も閉ざされてしまった事だろう。『魔泉』が消えても既に湧出した『魔物』は消えないが、新たな『魔物』が湧いて出る事もなくなるらしい。


「マグマが上がってきてるんだ。この『迷宮』も溶岩に埋め尽くされる、早く!」

もたもたしているシャーリーを肩に担いで走り出すと、慌てたソフィアとエレインも並んで走りだした。流石に3人は担げませんね。エレインはひょっとして重さがないのでは?とも思うが、少なくともソフィアは重いしね、言わないけど。

やがて前方に先ほどエレインに出会った温泉が見えてくる。そう言えば、再び湿度が上がって汗びっしょりだが、気にしている場合ではない。

「シャーリー、ここからは『風の魔法』を使って、先に行くんだ。いいね?」

温泉を回り込んでシャーリーを床に下すと、下されたシャーリーは何か言いたそうだが、パンっと一つ可愛いお尻を叩いて送り出す。セクハラですね・・・。シャーリーは小さく頷くと、呟く様に『風の魔法』の詠唱で風を自分の体に纏わりつかせて、前方を先行するソフィアとエレインを追い始めた。目で追うと跳ねる様にしてリーチを稼ぎ、速度を上げている。

振り返って『迷宮』の奥の方に目をやると、赤黒い輝きがこちらに迫ってくるのが見える。問題はこの温泉で、また入りたいとか、勿体ないとかそういうのは置いておいても、ここで水蒸気爆発が起きれば、『迷宮』を抜け切れていなければ俺たちを高速の爆風が溶岩流を遥かに上回るスピードで襲ってくる事になる。

「リ・カル・ドルーサ!」

左手を懐に、叫ぶ。

フィレンツェの目前に、『迷宮』の洞窟を埋め尽くす巨大な土の壁が出現する。これで、温泉と入口側が分かたれた。まずは一つ目。

再び前方の出口に向きを変え、走り出す。

ソフィアたち3人の後ろ姿は、大分前方を走っているのが見える。

もう一度、背後を振り返り『魔力』を振り絞る。最初の壁があるので、『迷宮』の奥はうっすらとした灯だけで、溶岩の輝きは見えない。見えて貰っては困るのだが。

「リ・カル・ドルーサ!」

段々、足がふらついてくるが、これで二つ。

再び、前方の出口に向かって走る。


「フィル、早く!」

何時の間にか、戻ってきたソフィアが俺に肩を貸してくれる。如何やら俺の進みが遅いのを見て取ったらしい。可愛いですねソフィアさん?ここは一つお礼のキスをして・・・、そんな時間はありませんね。ポンペイの様にキスをしたまま死に絶えた二人の姿が、後世発掘されたりとか。そう言えばポンペイでは、多くの娼館が発掘されているそうだ。二千年たっても人間は変わらないと言う事だろう。

二人で如何にか洞窟の入り口に開いた『黒色火薬』の大穴を迂回し、『迷宮』の外へと出る。だが、もう一度、もう一度だけ防壁を作る事を試みたい。俺の顔を覗き込むソフィアを手で制して、肩を借りたまま『迷宮』の入口を振り返る。この最後の防壁は上部を多少開き、温泉に溶岩流が達したところで発生するであろう水蒸気爆発の爆風を上方に逃がしたい。そうでないと防壁全体が吹き飛んでしまい、溶岩流が流出して渓流の水に触れ更なる水蒸気爆発を起こす事を防げない。何としても足元を流れる渓流に溶岩流が流れ込む事を防ぎたいところだ。


「リ・カル・ドルーサ!」

洞窟の入り口の上方を残して、三度、土の壁が造られる。流石にきつい。

「岸に上がって、出来るだけ距離を・・・」

最後まで言う間もなく、『迷宮』の奥底から爆風が俺たちのいる洞窟の入口へと到達した。渓流の水面に伏せる俺たちの頭上で、洞窟の入り口の土の壁の上方の穴から、ゴウっと轟音を伴って爆風が噴き出す。

一つ目の防壁の向こう側で起きた爆発で多少なりとも溶岩流を押し戻し、二つ目の防壁でやはり多少は威力を弱められたはずの水蒸気爆発の爆風は、目の前の三つ目の防壁で上方に跳ね上げられて噴き出した。バラバラと小石が周囲に降り注ぎ、爆風に少し遅れて温泉の湯で起きただろう水蒸気爆発の爆音が届く。

抱き着いたソフィアと一緒によろよろと、よろめきながら岸を上がると、駆け寄ったシャーリーとエレインも抱き着いてきた。

何か、普段より一人多い気がするのは、気のせいでしょうか?

まぁ、今は助かった事を喜ぶべきだろう。


今日(3/8(日))の更新はここまで、です。

次回は明日(3/9(月))となります。


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