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華龍Story  作者: ryo
51/142

第51章

51.

炎を操る幻獣と言えば有名どころは、やはりドラゴンかサラマンダーあたりだろうか。もちろん、元いた世界に於いても世界各地に多くの伝承が残っている。人が空を飛ぶことが叶わなかった時代、天空に閃く雷光や、あるいは火山から流れ出し全てを焼き尽くす溶岩流といった自然現象は、多くの人々に多大なイマジネーションを与えたに違いない。

当然、日本に於いても似た様な幻獣、つまりは妖怪の伝承がある。鬼や河童程は有名でないが、落雷や大きな火の塊と共に姿を現すそれを『雷獣』と呼んだ。八ヶ岳連峰の北端に位置する蓼科山は、雷獣が住むが故に別名『雷岳』とも呼ばれたという。


「リ・エル・ソラート!」

シャーリーがエルフの『風の魔法』で造り出した鎌鼬を放ち、前方から飛び掛かった大ネズミの体を切り裂いた。見た目は体長3、40センチ程の焦げ茶色の毛に覆われた単なる大きなネズミだが、二つに切り裂かれた胴体から撒き散らされる血は緑色に近い。しかも、鎌鼬に切られた傷はこの魔法の特徴として必ず切り裂かれたと言って良い位に、その傷口を大きく割かれている。シャーリーの放つ一撃毎に、スプラッター映画顔負けの惨状が出現する。これが赤い血だったら、見ているこちらが卒倒しそうだ。シャーリーの軽鎧が紅いのは、ある意味余りに似合い過ぎていて怖い。

娘の将来を憂う、お父さんの気分。

出来れば『ロリ』は『ロリ』としてそのままで・・・、否、素直なままで育ってほしいものだが。


「はッ!」

一方でソフィアが気合と共に放つ矢に貫かれた大ネズミは、飛び掛かろうとしたその姿のままに緩やかな弧を描いて『迷宮』の岩肌の床へと落下する。串刺しのネズミが痙攣する様は、それはそれで、かなりエグイ。しかも一度に番えた複数の矢で、矢と同じ数の大ネズミを同時に貫き射程もシャーリーの鎌鼬の数倍に達する。一度に放つ矢は俺の見た限りでは同時に最大三本、こちらも凶悪さに於いてはシャーリーに負けず劣らず。

まぁ、こちらは元々が獰猛なドラゴンですからね。

刺さった矢の羽根の辺りを持って大ネズミに齧りついたりしないだけ、良しとしておこう。

だが、問題はソフィアの矢に貫かれ痙攣するネズミの方で、何故か金属の矢のシャフトからバチバチとスパークが飛んでいる。如何やら只の大ネズミではなく、電気ウナギならぬ、電気ネズミだったらしい。

「まずいわね、フィルが剣で切ろうものなら、フィルも感電しちゃうわね」

こいつらの体は、電気を帯びているのか?遠距離から攻撃が可能なソフィアとシャーリーは良いが、確かに俺の『同田貫』とは相性が悪い。やっと、エルシャナが魔力を通した『同田貫』の試し切りが出来るかと思っていたのだが、それどころではない。


「確かにまずいな。一旦、引き上げるか?」

俺自身も『藍の宝玉』があれば『魔力』を雷撃という形で放出出来るのだが、体内に貯め込まれた『魔力』は純粋に『魔力』であり、俺が体に電気を貯め込んでいる訳ではない。スパーク現象を生じさせる程の電圧を食らえば、無傷でいられる訳がない。そして、俺が『同田貫』を振るえなければ、俺は二人のお荷物でしかない訳だが・・・。

電気ウナギは筋肉の細胞が変質した発電板という特殊な細胞を持ち、実に体長の五分の四が発電器官で出来ている。筋肉を動かすのと同じ様にひとつひとつの発電板細胞がATP(アデノシン三リン酸)を消費して一斉に発電を行い、約千分の一秒の短時間ではあるが600~800Vに達する高電圧を造り出す。


「『迷宮』に巣食う『魔物』が、一種類だけという事はないわ。この辺りのネズミはわたしとシャルだけでも何とかなると思うし、もう少し進んでも良いと思うわ」

気丈なセリフが似合うソフィアだが、これは惚れてしまいそうだ。もう、惚れているけどな。

そう言う間にも更に前方のネズミに矢を放ちつつ、俺とシャーリーを守る様に前に出る。確かにこのエリアを突破すれば、巣食う『魔物』の種類は変わるはずだ。『迷宮』の『魔物』は、ほぼ同じ種類同士で群れをつくっている。奥の『魔泉』に近づく程、より手強い『魔物』がいるだろう。だが、より強い『魔物』であっても『同田貫』が使える分、この電気ネズミよりはましと思いたい。

確かにソフィアの言っている事は一理あるが、三人パーティーのうちの一人が足手纏いでしかなければ、生死を掛ける『迷宮』探索は成り立たない。


「わ、私も頑張ります!」

両手を胸の前で握りしめて主張する仕草が可愛いシャーリーだが、可愛いだけではやはり『迷宮』探索は成り立たない。努力や根性に頼るのは、余りに愚策だ。そういう努力は、ベッドの中だけにしてくれて良い。後で、良く指導しておく必要があるだろう、いろいろと。


「いや、撤退だ。対策もなくリスクを取る事は出来ない。少しづつ後退して・・・」

だが、俺は撤退の指示を、最後まで続ける事が出来なかった。前方の『迷宮』の暗闇から、何かが近づいてくる気配が感じられた。これまでの大ネズミとは、明らかにプレッシャーの度合いが違う。巨大で、敵意に満ちた何か。

俺たちが見つめる前方の岩の陰から、そいつはのそりと姿を現した。

先程、ソフィアとシャーリーが倒した『魔物』を電気ネズミと呼ぶならば、コイツはさしずめ電気ヒグマだった。体長4メートル以上、体高も2メートル弱。太く短い四肢に大きな頭と丸い耳。茶色の毛皮に覆われたその姿はサイズを気にしなければ愛らしいテディベアそのものだが、その前肢には長く湾曲した鉤爪が伸び、何よりその背中には背筋に沿ってバチバチとスパークが飛んでいる。如何やら先ほどのネズミより体が大きな分、発電能力も高いらしい。だが、少なくとも元いた世界に於けるクマは、人間の肉の味を知らなければ人間をエサとは考えない。逆に一度人間の肉の味を覚えたクマは、手当り次第に人間を襲う。では、この世界に住まう電気ヒグマは・・・?


「グゥゥオー!」

ビリビリと狭い『迷宮』の空気が震える。

電気ヒグマがその巨大な顎を開いて威嚇するに合わせ、背中のスパークがバリバリと割れる様な音を上げて、その電圧を上げる。薄暗い『迷宮』の中で、まるで花火の連打が弾ける様だ。

先程の頑張りは何処へ行ったのか、シャーリーが俺の背中に張り付いた。俺の背中に、鎧越しの微妙な膨らみの感触が。だが、今はそれどころではない。鎧越しだし。ソフィアも無意識になのだろう、前方の電気ヒグマを睨み付けたまま、二歩、三歩と後ずさる。

そして、電気ヒグマの方は人間を見るのは初めてかもしれないが、如何やら人間を食べる事をご所望の様だ。


「ソフィア、『無限倉庫』は使えるよな?」

ソフィアを後ろに下がらせながら、聞く。

キサマも、人間を食べたかろう?

そう、俺も、キサマを殺したい。

たとえお互い言葉は交わせずとも、『魔物』と人間は、その様に生まれついた。

ならば、俺とキサマがやる事は、ただ一つだけだ。


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