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華龍Story  作者: ryo
45/142

第45章

45.

騎士道物語とは、中世ヨーロッパにて吟遊詩人により歌われた武勲詩が元となった騎士道をテーマとする文学作品群で、多くは騎士の武勲や恋愛が謳われる。物語としては後のヒロイック・ファンタジーや恋愛小説へと連なる原型となったとも考えられ、美しい貴婦人の存在は物語の必須の要素とも言える。この貴婦人の為に主人公はドラゴンを始めとする強敵と戦い、これを打ち破って主君に認められる事が典型的な展開だった。

だが、その中で騎士たちが望むのは、放漫な理想に過ぎないのかもしれない。


「ぬし様は、分かっていたのでありんしょう?何故、わっちに付き合ってくれたのでありんすか?」

ヴィヴィアンの問いを背にフィレンツェの放つ必殺の二段突きが、騎士のラージシールドを回り込むかの様に突き抜ける。

『同田貫』の切っ先が『魔核』を砕いた。

俺たちが上陸した湖にそびえる城の中で、ヴィヴィアンの言うところの『水の精霊の王』を守るべく待ち受けていたのは『氷の騎士』たちだ。『氷の騎士』は透明な氷の身体に、同じく氷で出来た鎧を纏い、人間であれば心臓の上の辺りに結晶化した『魔核』が存在する。『魔核』は彼らの身体の中では唯一赤みがかった色彩のある場所で、自分の弱点を外敵に晒す身体構造は敵ながら頂けない。それはそれとして、擬人化された氷の塊でしかないその身体をあの小さな『魔核』一つで動かすという事は、それなりに『魔法』の存在に慣れてきた俺から見ても驚異的な事実だった。


「さあな、この先に『水の精霊の王』がいるんだろう?」

打ち下ろされた『氷の騎士』のツーハンデッドソードを『同田貫』で跳ね上げると、風を巻いて騎士の脳天に振り下ろす。

『同田貫』は騎士の氷の脳天を垂直にかち割り、そのまま胸の中の『魔核』をも両断している。

『氷の騎士』たちの持つ武器は、何処で手に入れてきたのか普通の人間の騎士が持つ鉄製のショートブレードと、同じくラージシールドだった。『氷の騎士』たちの透明な身体は共通規格品の様だったが手にする武器はカテゴリこそ一緒だが物はまちまちで、ショートブレードの範疇には収まらない物もあった。中にはツーハンデッドソードを、片手剣として振り回しているヤツもいたりする。ただ、剣の大きさとシールドの大きさをバランスしている訳でもないらしく、その剣と盾の組み合わせは単なる結果でしかない様だ。


「・・・ぬし様は、ほんに酷い男でありんすね」

血しぶきの替わりに砕けた氷が舞い散り、ダイヤモンドダストの様に二人に降り注ぐ。

フィレンツェの後ろでヴィヴィアンが溜息をつく。

次々と『氷の騎士』たちの『魔核』を砕き粉砕するフィレンツェの後ろを、数歩遅れてヴィヴィアンが歩く。気怠い足取りは自分の出番がない故か、ひたひたと床を水に濡らし素足を進める様は少しぎこちない。

既に二人は湖上の城の最上階に達し、二人の押し通った道のりには『魔核』を砕かれ動きを止めた『氷の騎士』たちの屍が累々と横たわっている。

フィレンツェが、ついに王の間らしい大扉を守る左右二体の『氷の騎士』を切り倒すと、つと前にでたヴィヴィアンが片手で軽く扉を押した。

扉は何の抵抗も感じさせず軋みひとつ立てぬままに、ゆっくりと開いていった。

だが、その奥には何もなく、まるでうち捨てられた古いビルの屋上か何かの様に、ただ四方の霧を見下ろす漠とした空間が広がっているだけだった。

「この城は、訪れた者の望みを叶える場所でありんす」

ヴィヴィアンが、少し疲れた様に俺を見つめ呟いた。

つまり、この無味乾燥な王の間は、俺の心の中の空虚という訳だ。

ヴィヴィアンに剣を向け様ともしない『氷の騎士』は、この城に暮らすヴィヴィアンの忠実な僕たち。おそらくは、ヴィヴィアンの腕の一振りで再びこの王の間へと続く回廊を満たし、何時の世も存在せぬ『水の精霊の王』を守る事となる。

それが、この城と、湖に住まう『水の精霊』ヴィヴィアンの物語。

ヴィヴィアンはつと進み出て、フィレンツェの胸に両の手をついてその瞳を閉じると、静かに唇を合わせた。

柔らかな暖かさが、何か『水の精霊』の印象とは異なるなと、そんな想いが何処か頭の隅を過った。

「それを、ぬし様の想い人に渡しておくんなんし。ほんは、剣をぬし様に差し上げようかと思っていんしたが、いらないでありんしょう?」

寂しそうな微笑を残して、ヴィヴィアンはその姿を薄れさせ、やがて霧に溶ける様に消えて行った。城の通路に築かれたはずの『氷の騎士』たちもその姿を消し、城を覆う霧も薄らぎ始めた様だ。

俺が欲しいのは、ドラゴンを倒す名誉でも、王の賞賛でもない。

ドラゴンは一応もう、倒したし。

てゆうか、こちらが負けた様なもんだし。

故にこの湖に佇む精霊の城で紡がれる物語は、平凡な結末で構わない。

俺が、俺を待つ二人の元へ帰るという、ただ、それだけで。

俺は消え去ったヴィヴィアンに心の中で別れを告げると、王の間の扉を閉じた。


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