第41章
41.
三大発明という言葉は、西洋に大きな社会的変革をもたらした黒色火薬、羅針盤、活版印刷の三つの発明を指す。どれも実際には西洋で発明された訳ではないが改良と実用化がなされ、それがその後の歴史に大きな影響を与えた事は事実だろう。
森の中での生活では暖房に調理にと多用される薪、そこから出来る『木炭』
鉱山都市リリチルカの付近でも産出される『硫黄』(ドーナの村にも『魔法薬』の原料としてリシタ経由で持ち込まれている)
エルフの住まうドーナの村で見た、『ケール硝石』の粉から作られるという『発火薬』
これらを順番に水分を加えながら、ゆっくりとすり鉢ですり潰し、成形してから天日干しにする。
これが、容易に『発火』し燃焼する『発火薬』の威力を『爆発』の領域まで高めた、異世界版『黒色火薬』の生成方法となる。
「とんでもないわね!」
轟音に耳を押さえたソフィアが叫んでいるが、俺も耳を押さえているので何となくこう叫んでいるのだろう、という感じだ。
ドーナから西へと向かう街道の途中、シャーリーの見つけた河原へと街道をそれた俺は、エルシャナが『同田貫』に魔力を通すのを待つ間に(実際は魔力を通したのは、更に後の事なのだが)造ってみた『黒色火薬』の威力を試していた。
万が一の事を考え、シャーリーと葦毛二頭とジルとジバは、実験場所に選んだ河原からは離れた森の中に退避させてある。
「一応、実験は成功みたいだな」
この実験を想定して造ったやはり自家製の『導火線』に関しても、ほぼ想定通りの速度で燃えてくれた様だ。こういう時は、俺が持ち込んだ腕時計が役に立つ。一日がほぼ26時間であるこの世界、こういう時でもないと、俺の腕時計は活躍の場がないのだが。
文明の発達にはある程度の人口の増加が必要であり、この世界で、もし元いた世界と同等の発達を望むならば、まずは人口の増加を抑圧する最大の要因である『魔物』の排除が必要だろう。そもそも、人も少なく余力もない世界では、文明の発達は望むべくもない。おそらく魔物の排除によって人間の生活圏が拡大すると共に、耕作面積を拡大し人口増加による食料消費量の増大を賄える基盤が形成できる。
「これ、沢山造って売ったら、大儲けできるわよ!」
次の段階で必要なのは、今は人間の生存と生活を支えてくれている『魔法』を抑制し、発明と発見による技術的な向上を促す意識改革となる。何故ならばこの世界に於ける人間は『魔法』に頼り、自然科学を始めとするあらゆる探究に興味を示さず、基礎的な知識の向上が図られないという状況にある。発明と発見による段階的な発展なしに、いきなり『魔法』による回答が得られるが故に、地道な探究がなされない。この『魔法』の功罪を認識する事が必要だろう。
一応、万が一の時の用心で、ソフィアにはチェインメイルに着替えて貰った。因みに『魔法』で着替えとかは出来ないらしく、着替える時に凝視していたところ『あっち向いてて!』と怒られました。
「そうだね、でも、今はこの『黒色火薬』を何処かの国や誰かに売るつもりはないよ」
だが、はたして元いた世界にあった戦争や闘争と表裏一体の文明の発達が、本当にこの世界の為になるのか、それは微妙だ。
だから『魔物』の排除にも、『魔法』の抑制にも(一部『魔法』は使っているので微妙だが)、そして何より『戦争』にも大いに役立ちそうなこの『黒色火薬』は当面は封印だろう。
俺の言葉にソフィアとしては、少しがっかりした様だ。
酒池肉林とは言わないまでも、ソフィアの中で美味しいごはんが遠のいたのかもしれない。
「さて、今の爆発の衝撃で、川の魚が気絶して浮いて来てるね。今日は焼き魚にしようか?」
まずはシャーリーを呼んで、串打ち用の枝を集めて貰おうかな。
塩焼きの塩は味の為だけでなく、焼け過ぎ焦げ過ぎを防ぐ意味もある。
ドーナの村ではたまたま岩塩が採れるが、リシタの街では比較的高級品だったりもする。川魚の塩焼きを想定していた訳でもないが、ソフィアの『無限倉庫』に多めに保管して貰ってあるので、美味しい塩焼きが期待出来そうだ。
火薬の材料をすり潰すよりは、岩塩を削る方が余程生産的だろう。




