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華龍Story  作者: ryo
26/142

第26章

26.

兵器は、その世界に許された最先端の科学の成果と言って良い。元いた世界では青銅、鉄と続く金属の精錬技術が文明を塗り替え、やがて火薬や銃器と共に歴史が作られてきた。戦争が歴史を造り、その戦争は兵器の発達と共にあった。新たなイノベーションは兵器にも改革をもたらし、その結果、何度も何度も、幾度となく世界を造り変えてきた。

では、この世界に於いて、兵器の役割とは何だろう?

この世界に於いては、兵器は絶対的な強者足りえない。何故ならば『魔物』という強者と、『魔法』という絶対的な力が既にあり、兵器はそれを補完する立場にしか過ぎないからだ。剣を持って魔物を倒す、あるいは剣を持って魔法を超える、それらは人々の賞賛を受けこそすれ、おそらくこの世界に於ける本道というか、望まれた形ではない。故に科学の歩みは遅く、ここにきてやっと、『魔物』『魔法』、そして最新の科学の成果としての兵器である『剣』が、三者の立場をあるいはその力を拮抗させるに至った。

そしてフィレンツェには、単に自分の持つ前世の知識を持って現代科学の持つ利便性を持ち込んだとしても、それがこの世界に根付かないのではないか、そんな気がしてならなかった。血を流し獲得してこそ、新たな文明を築く事が出来るのではないか?別に戦争を望む訳ではないが、この世界では兵器が、あるいは科学が歴史を牽引するという役目を担ってはいないのだと、そんな気がしている。

俺は、この世界が歩んできた道筋を安易に捻じ曲げるべきではない、そう思っている。


「エルフの娘子に造った鎧の革と同じ物だ。切ってみるが良い」

あら、長老にはシャーリーがエルフって事、しっかりばれてましたね。ちらとシャーリーの横顔を見ると、ちょっと慌てた感じが可愛い。ツインテールの偽装が効果がない事が実証されたのだったら、もう髪は下してしまって良いのでは?俺としては、その長い耳が見えていた方が好みだし。好きな時に触れるし。いや、それはセクハラか?

工房の一角に置かれた、人間の上半身を模した木製の人形。その肩から腹の辺りに掛けて、斜めに紅い革の帯が無数の鋲で直接人形に打ち付けられている。シャーリーの鎧の為に細かなピースに分ける前の革で、当然柔軟性には劣るが完成品よりも強度自体は高いはずだ。丁度、袈裟懸けに刃先を落とす事を想定して、人形に掛けられた革の幅は10センチ程度。革とはいえ、大トカゲの皮を防具造りに長けたドワーフが魔力を持って加工した代物だ。なまじなことでは、刃が通らず弾かれる。

鯉口を切る(っぽいだけだが)と剣の重さもバランスも何ら変わらないのに、柄を握る俺自身でさえ途轍もないプレッシャーを感じる。そして鞘が払われ、この世にあってはならぬ何かが、ゆるりとその姿を現す。

「儂らの持てる、全ての技をして焼き入れた。それでもまだ、その剣には底知れん物を感ずる。だが今はその剣でも、おぬしが扱うには精一杯じゃろう。剣は人を選ぶ。見事、その剣におのれを選ばせて見せるが良い」

言ってくれる。

俺がこの『同田貫』を使いこなせなければ、放つ一撃で『同田貫』は折れる。おそらく、刃毀れどころでは済むまい。だが、もしコイツが俺の想いに答え、俺がコイツに相応しいならば。

抜き身の『同田貫』の、波紋が揺らいだ。

音もなく人形に近づいたフィレンツェが風を巻き上げると、次の瞬間には人形の向こう側で『同田貫』を振り下ろしたまま、留まっている。

一瞬遅れてズルッと人形の半身がずれて、床に落ちた。

重い音が響き床に敷き詰めた敷石の一枚が割れ、落ちた木の人形の中身が露わになった。

紅く染められた革を丁度半分に分かたれた人形の中には、木の中に直径10センチ程の鉄の塊が仕込まれていて、鏡の様な切断面が鈍く輝いている。


「お見事!」

長老が声を張り上げた。

止まった時が、動き出す。

ソフィアとシャーリーの二人が、いつの間にか、ひしと互いに抱き着いている。

工房のドワーフたちがドタドタと人形に近づくと、切断面を指さして口々に喚きながら討論を始める。


「切ったのは軽鎧の革だけでは、なかったようだな?」

フィレンツェは皆に背を向けたまま、ゆっくりと体を起こした。

迷宮の奥底で大トカゲの皮を貫く時、森に群れ為すゴブリンの腹を裂く時、俺の手の中でいつも『同田貫』は苦しそうに軋んでいた。俺は心の中で『同田貫』に謝りながら、それでも止める事なく『同田貫』を振るい続け、魔物を屠ってきた。それが俺の役目であり、コイツの役目だからだ。

それは苦痛であり、快楽でさえあった。

だが。

今日のコイツは、心の底から俺に振るわれる事を望んでいる。

俺が振り向くと、長老が歩み寄ってきた。

口髭の奥で口元をにんまりと歪めて、俺の問いに答える。


「切ったのも鉄、切られたのも鉄。不思議なものよな。如何やらおぬしは、そこの二人の娘だけでなく、己が剣にも好かれておる様じゃの」

『わ、私、ご主人様に切られちゃうんですね』何か、とても勘違いしてませんか、シャーリーさん?

『そういうのは、ベッドの中だけにしてちょうだいよね』更に混迷を深める発言はやめてね、ソフィアさん?

抱き合ったまま不穏な会話を続ける二人には、後で教育的な指導が必要だろう。


「後ろの二人もこの剣も、二度と手放すつもりはない」

俺は一つ頷いて『同田貫』を鞘に納めると、長老と人形に背を向けた。


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