第25章
25.
ドワーフたちの食生活は、人間のそれと非常に似通っている。ただ、山間に都市を築くというか掘るのでメニューの中に海の幸は存在せず、基本的に狩りで仕留めた獣と野菜、キノコ類が主食となっている様だった。パンは店の一部で焼かれてはいるが小麦の供給を人間との交易に頼っている事もあり、高価という訳ではないが流通は余り多くはない。よって肉と野菜自体が主食であり、それらを食べる量は人間に比べかなり多い。宿の食事も大通りの店の食事もほぼ同様で、焼いた肉と野菜がたくさん入ったスープというか煮物が定番メニューだった。
ここで疑問が出てくる訳で、ドワーフたちは如何にしてあのエール酒を手に入れているか、というところだが、エール酒とは名ばかり(俺が勝手にイメージで、エール酒と呼んだだけではあるが)実際は山に自生する野生の大麦(っぽい何か)で造った酒を、トウモロコシに似た植物から作った度の強い酒を薄めた物で割っているらしい。ジョッキの中身の表面には酵母が浮き強い苦みがあって、ビールというか焼酎のビール割というか。見た目以上に度数が高く、ドワーフたちの幅のある体躯であっても次々とジョッキを空ければ確実に酔いが回る。中々に罪な酒と言える。
そのドワーフたちだが元々が堅実な性格だからなのか、街中が戦勝祝いの大騒ぎをしていたのは一日二日といったところで、街には再び普段の槌やノミを振るう音が返ってきていた。店主が負傷でもしたのか開店が遅れていた店も今や全て店を開け、大通りは普段通り程度の賑わいとなっていた。
だが、もちろん酒場で酔う者がいなくなった訳ではない。
「ドラゴンが酒に弱いなんて、そんなことある訳、ないでしょ!」
そうでしょう、そうでしょう、世に言う、うわばみとかって、ソフィアさんの親戚ですものね。
これまで迷宮の中は言うに及ばず、宿の食堂でも俺たちはお酒は飲まないか、飲んでも俺だけだったのだが。それは単に食事に専念していただけらしく、日中の思いの丈というか不満を酒で晴らす事に決めたらしいソフィアがエール酒のジョッキを片手に管を巻いている。
「大体ねぇ、何でシャーリーが赤なのよ!フィル以外の男だって鎧ぐらいみるんだからね!聞いてるの?普通、エルフの髪って、緑とか青じゃない」
そこに来ますか、ソフィアさん?
ていうか、大分紆余曲折してますね。
三人共一通り食事は終えて、食後のひと時を楽しむというか、そのままだらだらと店に居座っていた。ソフィアの深い藍色の瞳は若干酒にくすんで、大分目つきが座ってきている。ここいら辺が引き時かもしれませんね、ソフィアを背負って帰る途中でドラゴンに戻られたりしたら、俺も死んじゃいそうだしね。
「それは・・・、私がハーフだからです。私の父は人間、母はエルフ。二人は愛し合って結婚し、私が生まれたそうです。でも、父は寿命で先に死に、残された母は私を連れて自分の生まれたエルフの村に帰ってきました。でも、私の髪の毛の色は赤毛だった父に似て、この通り紅く、エルフの村の村人たちは村を出て人間との間に私をもうけた母を許してはくれませんでした。やがて、村の外れでひっそりと私を育ててくれた母も病で亡くなり、私もかつての母と同じ様に村を捨て、リシタの街に向かったんです。そこからはお二人の知る通りです」
エール酒を注文した俺とソフィアと違い、シャーリーは果物を絞ったジュースを口にしていたが、元より隠すつもりもなかったのだろう、両手を添えたコップに視線を落とし、ぽつりぽつりそんな事を教えてくれた。
「ごめんなさいっ!わたし、その、余計な事聞いちゃって。わたしはシャーリーが大好きだし、その髪の毛も大好きだからね!」
話に耐えきれなくなったソフィアが、素早く円テーブルを回り込むと上からガバっと、シャーリーに抱き着いた。
ずるいですね、ソフィアさん?しかも、全然捻りがないし。それで許して頂ける女子同士ってのは羨ましい気もするが。まぁ、これ以上ソフィアが酔い潰れる事なく、立ち直らせて頂けたのはシャーリーの身を挺した功績だな。俺は大分アワの飛んだ、生温いエールの残りを口に含む。ソフィアが大人しいうちに、さっさと宿に連れて帰る事にしよう。
「謝らなくても大丈夫です、私、お二人に出会えて今は幸せなんです。たとえ、ご主人様がお姉さまと私の胸を見比べて少し物足りなそうな顔をなさっていても、いずれ私だってお姉さま位に育ちます!」
ぶッ!?待て、待て待て!?
危うく吹きそうになりながら、口を拭う。そこで俺に振るのか、この娘は!?
俺のせいなのか!?
手強いな、色々な意味でシャーリーがソフィア位に育ったら、その分俺の寿命は確実に縮むな。シャーリーのお父さんの気持ちが、今ようやく分かった気がする。
「あ、ああ、当然期待しているよ?」
一緒になって俺を睨むソフィアの視線は取りあえず無視して、そう答える。
この世界は、元の世界に比べても余りに豊だ。
種は、あるいは世界は、その維持の為に多様性を必要としている。画一化された思想も単一の種も、その先にあるのは閉塞と種としての死に過ぎない。この世界を変えたいと望んでいる訳でもないが、俺も、俺の持ち込む物も、俺自身も、きっとこの世界の為にはなるだろう。
とはいえ、ここは取りあえず、戦略的な撤退を選択する事が正しいだろう。
または問題の先送りと言う。
後はベッドの上で、失地回復をはかるしかあるまい。




