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華龍Story  作者: ryo
16/142

第16章

16.

「お前は何故、この世界に飛ばされてきたのか、知りたくはないか?」

何処かしら性別を感じさせない種類の声が、俺に問いかける。だが、その問いに俺は声に出して応えるという事が出来ない。否、元より俺に話掛ける者も俺の返答など期待してはいない、そんな気がした。いわば俺の知らぬ、あるいは理解する事の出来ない誰かの独白。

「・・・そう、お前の造ったあの装置、あれはとんでもない代物だな。お前は最初に造った前世代の装置に欠陥があると考えていたが、あの新型の方がその何十倍、何百倍も性質が悪い。おおよそ、人が造って良い代物ではなかったのだ」

そうかい、悪かったな。作っちまった物は、しょうがないじゃないか。大体、より良い物を作りたいというのが技術屋の本分だろ。直ぐに偉いヤツは、採算性だ市場動向だと言いやがる。そりゃあ、使われもしない機械を作ったって、面白くもないけどな。だが、アレは必要な物だ。俺は、信じている。

「本来の使い方であれば問題はないはずだが、装置の稼動中にある種の周期性のある重力波を受けた時、あの装置は想定外の力を出す。その力は意図せずに次元の谷間を作り出すという、とんでもない欠陥品だ。私がそれに気が付いたのは、正しくお前が融合炉の中で倒れ、遠くお前が住んでいた地球を離れること数千光年の彼方で起きたお前たちが言うところの重力崩壊の余波が、数千年の時を旅して地球へと届き始めた丁度その時だった。私は融合炉の中で開き始めた次元の谷間に、持てるエネルギーの大半を投げ込んだ。幸いにして、次元の谷間は飽和して、致命的に広がる事もなく1秒の数万分の一の間に無事に収束させることが出来た。だが、お前の体はその僅かな間に谷間に呑まれて、無数の平行宇宙の間に揺蕩う時間の狭間へと落ちていった」

・・・だとすると、俺は自分の造った部品に殺された訳か?いや、死んだのは単なる事故で、異世界に飛ばされたって方が自己責任の範囲か?前向きに考えるなら、俺の身から出た錆の事故で死にかけた俺を、俺の造った部品が助けてくれたとも言えるのかもしれない。何か、余り聞きたくなかった真相だな。

「もちろん、お前の造ったあの装置は、電子の世界に保管されていた設計図と共に全て消滅させておいた。あんなもの、また他の誰かに造られては敵わんからな。だが、これもまた予期せぬ事に、お前自身は生きたままでこちらの世界にたどり着いてしまった。時間の狭間の中で素粒子にまで還元されるはずだったお前の体は、何万年という時の流れを1秒たりとも老いることなく、そして時が止められたが故に分解されることもなく、この世界に自然に生じた次元の裂け目から再び人の住む世界へと還ってきた。お前の住んでいた元の世界とは異なる、異世界ではあるがな。通常はそういった異世界への転移は、接触するはずのない平行宇宙同士の突発的な接触によってしか、起こり得ないのだが。・・・しかも転移を成したばかりか、お前自身がある特殊性を得てしまった。私があの時に行使した『時間の進みを止める力』をその身に纏った、特異点としてな」

何を言っているのかさっぱり分からないが、俺はこの異世界に何やら特殊な魔法を持ち込む事となったらしい。魔法自体が理解出来ないのに、更に特殊なとか特異なとか枕詞が付くと、もはや如何対応して良いか分からない。もう少し、せめて回路図とか数式とかに還元して、具体的に説明してくれないものだろうか?そんなプレゼンじゃ、頭の固い上層部は製品開発にGOを出してくれないぜ。

「しかもだ。魔力はお前の体を活性化し、見た目まで若返らせてしまった。自分でも、肌がつやつやだと思うだろう?どの世界であれ世の女性たちが皆羨むだろう、細胞の一つ々々が活性化された結果だ。見た目だけでなく、元の年齢から今の見た目の年齢分を差し引いた分位の寿命が、本来の寿命に加算されたと思っても良い。つまり、見た目の通りに若返ったと言っても差支えないだろうな」

事象の理論的説明ではなく、見た目で攻めてきやがった。確かに、ソフィア相手に、いろいろと体力は必要ではあるのだが。というか、ソフィアに会うきっかけをくれたのが、誰だか知らないがあんただって言うなら、素直にあんたに感謝するさ。・・・ありがとうな、神様?

「もう、ここまで幸運が続くと、そのままほって置こうかという気もしたのだが、最後にお前の顔を見ておこうと思ってな。私にこれ程までに負担を掛けさせた、大馬鹿者の顔をな。折角掴んだ幸運なのだから、私の力の一部でもある、その身に纏いし力を使いこなして見せるが良い。もう二度と会いまみえる事はあるまい。・・・では、さらばだ」


見知らぬ声は、途切れた。

後はねっとりとした静寂が俺の周囲を覆い尽し、俺は半ばもがく様に現実を求めた。この闇に閉ざされた世界で、無意識の内に唯一温もりのある藍色に揺れる炎を探し続けた。俺は先ほどまでの対話を忘れ、ただただ自分の本質であり生であり、あるいは死にも等しい何物にも代えがたい者を探していた。無限に等しい時の中で俺は叫び、その声は何処にも誰にも届くことなく、そして、振り上げた手を精一杯伸ばし、何かを掴み取ろうと、ついに声に成らざる叫びが俺の魂の奥底から放たれた。

『時よ、動け!』


「失敗した・・・」

俺は今、ソフィアの膝枕に頭を預け、介護と説教を同時に受けている。因みにソフィアの側に顔を向けても恥ずかしがったソフィアが怒るし、反対を向けば『ちゃんと人の話を聞きなさい!』と怒られる。

どうせなら、もう少し寝ていれば良かった。

主な説教の理由は3つ。

その1、後先考えずに突進し、あのトカゲ野郎相手に成功するかも分からない勝負を挑んだこと。・・・いいじゃん、勝ったんだから。

その2、魔力の限界もわきまえず、敵を前にして持てる魔力を使い尽くしたこと。その結果、負担に耐えられず俺は意識を失ったのだそうだ。敵の前で意識を失うのも論外なのだが、そのまま自分の生命をも魔力に変え続け、干からびて死ぬ危険もあったらしい。・・・しょうがないよね、そんなの知らなかったし。

その3、如何やらこれが一番問題らしいのだが。

無心に俺が伸ばした両の手は、何かを求め、結果として俺を膝枕で休ませるソフィアの胸へと届いたのだそうだ。・・・ベッドの中なら文句は言わないくせに。

と、密かに心の中で反論しつつ、取りあえず頭の下の柔らかな太腿の感触を楽しむ。


「凄いですね、ご主人様。あんな大トカゲを倒しちゃうなんて」

地下に湧いた湧水で手拭いを濡らして帰ってきたシャーリーが、ソフィアに手拭いをわたしながら話しかけてくる。薄目を開けて眺めると、ソフィアの胸の向こうに一瞬、顔を上気させて喜ぶシャーリー姿が見えたが、直ぐに濡れた手拭いで目とおでこの辺りを覆われてしまった。

大丈夫、ちゃんと一瞬で胸の形は心に焼き付けておきました。


「もう少ししたら、フィルを起こして大トカゲから魔核を回収するわ。シャルはこの先にある大トカゲの巣から、何かお金になりそうな物があれば回収してきて頂戴ね」

元気な返事を残し、再び回収に向かったらしいシャーリーの足音が遠ざかる。

如何やらこれで、路銀には十分過ぎる資金を調達出来そうだ。本当は魔核と呼ばれる、魔泉から溢れる魔力が魔物たちの体内で結晶化した部位だけでなく、大トカゲの固い皮膚も剥がして持ち帰りたいところだが。多分、防具屋に売れば立派な防具が出来るだろう。


「ありがとうな、ソフィア、心配した?」

額に載せた手拭いを摘まんで見上げると、間近に藍色の睫毛一杯に涙を貯めて涙ぐむソフィアの顔が目に入った。驚いたソフィアが瞬くと、俺の顔にポタポタと涙が降り注いだ。

そのまま抱きついて泣きじゃくるソフィアの背中に手を回してトントンと叩きながら、俺はここにきて初めて、反省という言葉の意味を噛みしめていた。


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