第141章
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最も美しい図形を『円』だとする説は、古来より一定の支持を得て来たのではないだろうか。勿論、正六角形や星形、他の候補もあるが、『美しい』などという主観的な基準で判断する以上は見た目は重要で、均等で整合が取れている事は主要な条件の一つだろう。
最も美しい、には程遠いだろうが『円になり損ねた』あるいは、『円ではないが、円の特徴をある程度受け継ぐ図形』として、『ルーローの三角形』がある。正三角形の各頂点を中心に、半径がその正三角形の一辺となる円弧を結ぶ事でこの三角形を描く事が出来る。また、『ルーローの三角形』は円と同様の特徴として、高さが一定のまま転がす事ができる。但し、実際に転がすと重心の高さが変化する為に円程にはスムーズには転がらない。
そして、この『ルーローの三角形』を立体に拡張すると、『ルーローの四面体』が出来る。
「あのゴロゴロ、って言うか、ゴロンゴロンって転がって来るのがケサランパサラン。その上で、ちょこまか反対向けに走っているのが、玉乗りネズミって言うのよ。平地で見掛けるのだけど、あそこまで大きいケサランパサランは、わたしも始めて見たわ」
ソフィアが言う通り確かにコロコロ、ではなく、ゴロン、ゴロンだった。
地には延々と見渡す限りに続く緑なす草原、頭上には環を描き飛ぶ鳥たちの囀り。そのゴロンゴロンがなければ、至って長閑な風景が広がっている。
少し青ざめたソフィアの横顔と、前方からゴロンゴロンと地響きを伴って転がって来る白い毛玉を見比べる。ソフィアの横顔は緊張していても相変わらず可愛いが、あの白いモフモフもある種の可愛らしさが無くはない。
もう少し、小さければだが。
「やりましたぁ! あの、もふもふしたの、上手く誘導できましたぁ!」
シャーリーがアリシアより一足先に、跨る栗毛と共に戻って来た。お昼にありつけるという安心感故か、やたら明るくなっている。
普通だったら俺たちの方まで戻って来てしまっては勢子としては問題なのだが、一旦こちらに進路を定めた、そのもふもふ、もといケサランパサランは進路を変える気配はない。ゆっくりと、ゴロンゴロンと、着実にこちらに向かって来る。
つまり、追われたのではなく。
追ってきた訳だ。
流石に地面に立つ俺からは、馬に跨るシャーリーの頭を撫でる事は出来ないが、褒めるのは今夜にとっておいて、まずは当面の対策が必要だろう。
でないと俺たちは、そのもふもふの下敷きだ。
「一応確認するが、あのモフモフは、食べられるんだよな?」
俺から見るとまるで、白い不揃いな毛糸の球が転がってくるみたいなのだが、如何やら転がしているのは、毛玉の上で走るネズミたちだ。毛玉とネズミは、共生の関係にあるらしい。おそらく長い年月を掛けてケサランパサランはその丸っこい胴体以外の肢体を失い、移動という陸上に住む動物としてはごく基本的な能力をネズミたちに依存する様に進化(あるいは、退化)したのだろう。しかも、平原に特化した生態系で、少しでも傾斜のある土地や、平地でも森林地帯では移動がままならない。森林化に関しては土地の土質にも依るが、あのモフモフが転がる事で土を踏み固め、下草以上の樹木の生育を阻む事でバランスが取られているのかもしれない。だとするならば、あのルーローの三角形ライクな回転で重心を上下し、土地の踏み固めと、同時に(おそらくはネズミの餌となる)獲物の圧殺を担っている訳だ。
モフモフ、恐るべし。
「玉乗りネズミは余り美味しくないらしいが、ケサランパサランは大きくなる程、程よく肉がしまって、とても美味なのだそうだ。普通は落とし穴を掘るのだが、間に合わないな。やはり、こうなったら私が丸焼きにしてしてしまえば良いと思うのだが」
遅れて戻ってきたアリシアは、大きさと味が比例するという伝聞情報に基づき、半ば恍惚とした表情を浮かべている。想像の余り判断力が鈍って・・・、そうでもない、元からか。
余りに積極的過ぎる提案に、皆が一斉に首を横に振った。
火の着いたモフモフが転がる事態は、この辺り一帯の野焼きぐらいでは済まないかもしれない。一方、確かに落とし穴は良い手だが、アリシアの言う通り、今からでは間に合わないだろう。
だが。
要は、あのモフモフを動けなくすれば良い訳だ。
幸い俺にはここに、三発のチェーン付きロケット弾がある。俺が今日の事態を見越し(嘘です)使用を控えて(更に、・・・嘘です)いた甲斐があるというものだ。
「あのネズミたち、何でわてらの位置が正確に分かるさかいっしゃろね?」
敵前逃亡中だったエレインが、己の罪の重さに耐えかねて戻って来ていた。
・・・ないな。
悪女だし。
多分、アリシアやシャーリーが戻って来たので、危険が緩和されたと踏んでいるのだろう。
だが、流石に悪女、言う事には一理ある。
肉食若しくは雑食と推測されるネズミたちが、おそらくは草食だろうモフモフと共生している事だけでも十分に驚異的だ。だが、この草原であの大きさまでモフモフを育てるには、ネズミだけでは足りない。モフモフという武器があり、ネズミたちの足がある。
だが、多少他の動物より高い位置から視界を確保出来るとしても、それはモフモフが大きく育ってからのはず。しかもネズミたちは、後ろ向きに走っていては、前方の敵も獲物も見えやしない。
役者が足りない。
そして、足りないのは、広大な草原を見通す目だ。
「アリシア、俺たちの頭上には舞ってる鳥たちな。まずはアレを、焼き鳥にしてくれ」
疑問を顔に浮かべる他の娘たち比べ、俺の要望に応え何の疑いもなく嬉々としてアリシアが、無差別且つ無慈悲な火炎放射を頭上へと放ち始めた。次々と炎となって落下する天使、ではなく鳥たちに『あー、それでは食べられない』と他の娘たちががっかり感を漂わす。
だが、モフモフが、つまりそれを操るネズミたちが、パニックになって右往左往し始める。
そう、ネズミたちが目標にしていた、鳥の囀りが消えたのだ。
三者に依る共生、それがモフモフの正体だった。
後は、ソフィアの弓でモフモフを操るネズミたちを仕留めれば、モフモフ、アリシア曰く極上のお肉が俺たちの物だ。
問題は唯一、また、俺のロケットランチャーの出番が、なくなってしまった事だろう。




