第139章
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伯爵令嬢から渡された地図によれば、バイルクラウの村から『虚無の狼の迷宮』へと向かう街道を南に逸れ、馬車で半日程進んだ先に狩場となる台地がある。街道から外れ南下するに従い徐々に高度が上がり始め、幸いにして急激な登攀なしに台地まで行き着ける様だ。『崖をよじ登れ』とか言われる様なら、馬たちの事を考えると狩り自体を止めるしかなかったかと思う。マンティコアの活動地域内に、馬と馬車を残さなければならないからだった。ソフィアの言うところの『美味しいお肉』を狩っているうちに、うちの葦毛と栗毛たちを食べられてしまっては元も子もない。
狩場までの道行は、今のところ順調ではある。既に二度マンティコアの襲撃を受けたが、うちの優秀な『合法ロリ』がズバっ、と強化された『風の魔法』で一刀両断してくれた。徐々にシャーリーの頭を撫でる俺の手に力が籠り、その可愛い耳へと近づいていくのは、けして俺の出番のないロケットランチャーの事を慮っての事ではない。
じゃあ、何なの?と聞かれると、・・・単なる趣味です。
「問題は何処に獲物がいるか、だが。ソフィア、何か見えるか?」
何故か今日も俺の腕にしがみ付いたまま(ままで、寝ている)のソフィアを起こして訊いてみる。
延々と続く緩やかな上り坂がやっと終わり(確かに単調な景色ではある)、見渡す限り平坦な台地の上に青々とした草原が続いている。途中のマンティコアがいなければ、良い放牧地になっただろう土地だった。ここならば、この台地に閉ざされた食用になる野獣もいるだろう。期待は出来る。
ところで。
幸せそうだよね、ソフィアは。
良い事だよ、周りの(特に俺の二の腕辺りのべたべた、とか)犠牲を厭わなければ。
「ふわぁ、あ、うん? ああ、獲物ね? もう、ごはん?」
いや、まだ、ごはんは出てこない。
て言うか、そうやって、しがみ付いていたのだから、ソフィアが寝ている間で俺が調理していない事は十二分に分かると思うのだが。
ついでに言うと、そうやって涎を俺の二の腕に頬を擦りつけて拭くのは、如何かと思う。
これって、ひょっとして、俺はマーキングされてるのか?
元ドラゴンだし、あり得る・・・。
「違う。獲物は何処にいるか分かるかい? 獲物を狩らないと、・・・ごはんはなしだ」
『うーん』と伸びをしたタイミングでソフィアの拘束を脱し、要件を伝える。
少なくとも周囲を見回す俺の視界の中には、動物の類は見る事が出来ない。だが、この台地にだけは青々と下草が生い茂り、歩みを止めた俺たちの葦毛と栗毛も、早速早めの昼食を取り始めた。
正直なところ、ごはんはなしは、ちょっと言い過ぎではある。ソフィアの無限倉庫には、まだ在庫はある。昼食を食べてしまってから、ゆっくりと獲物を探す、でも良いのだが。
取り敢えず、言ってみました。
「ええっ!? それでは、私たちは餓死してしまうではないか・・・。やはりさっきのマンティコアを食べておくべきだったのか・・・」
まだ少し、ぼおっ、としたままのソフィアに代わって反応したのは、後ろの荷台に収まったアリシアだった。狭い荷台に長いモデル体型の肢体を器用に折り込んでいるが、そんなに無理せずとも栗毛に跨れば良いのにとも思う。因みに栗毛は現在、シャーリーに占領、もとい、シャーリーが乗馬している。
アリシアの悲嘆の籠った呟き(にしては聊か、声が大きい)が周囲に響き、聞きつけたシャーリーが馬を馬車に寄せて来た。
「えーと、『魔物』は食べられないと言われていますが、『魔核』を抜いた後の肉を解毒薬に付け込めば、食べられるかもしれません」
そうそう、偉いねシャーリーは。
頭を撫でて褒めてあげたいが、この台地に至るまでの活躍を褒めすぎたせいか、馬車から逃げられてしまった。
今逃げても、それは結果を夜に先延ばし、しているだけなのにね。
キミはまだまだ、人生というものが分かっていないね、ちゃんと指導してあげないといけないね。
それは、それとして。
そこまで無理してまで、魔物を食べたくはない。
「これ以上体力を消費しへん為に、直ぐに寝ることにしまっしゃろか? フィレンツェはんも、体力を消費しへん様に、しんぼして今日はちゃんと寝へんとダメでっせぇ?」
しれっ、とエレインがそんな事を言ってきた。
・・・その考え方、如何見ても、おかしいから。
て、いうか、我慢の出来ない俺が悪い、そういう展開にしないでほしい。
それもだが。
皆、そこで悪女の意見で納得して頷くの、止めて。
やはり、俺の指導が足りない様だ。
特にエレインは、今夜は絶対にツインテールだ。




