第135章
お待たせしました、再開です!
135.
「ソフィア、ここを開けてくれないか?」
今俺が立っているのは、辺境伯から俺たちが借りた部屋の一室、二人部屋の前で、中にはダブルサイズのベッドが一つ置かれている。別に部屋を割り当ててくれた伯爵側に、思うところがあった訳ではないと思う。多分。
ここは昨夜はソフィアとシャーリーの二人を寝かしつけた部屋の前で、どの部屋も実は部屋のドアには鍵がない。(当然、俺の使った部屋にもない。うん、気にもしてなかったが、危なかった)ついでに、俺が回すとちゃんとドアノブも回る。つまり、鍵が掛かっているとかではなく、すぐこの内側でソフィアがドアを開けられない様に突っ張っている。
ドアを背に座り込んでいるか、両手で押しているのかは別として、・・・ソフィア、きみは小学生か!?
「嫌よ、・・・何か、フィルに話すの恥ずかしいもん」
おお、初々しい。
返事の音の感じからすると、ソフィアがいるのは、やはり扉の直ぐ内側だろう。
初々しいのは、評価するが(是非、今夜こそスク水での再評価が必要だ。肝心のスク水の調達が出来ていないのが、残念でならないが)、これでは話が進まない。
微妙に相部屋を追い出されたシャーリーが気を揉んでいるが、一旦アリシアとエレインの部屋で待っているよう指示をする。頷いたシャーリーの背中を見送って、説得を再開。
「分かった。では、俺もドアの外でちょっと、一休みさせて貰おう。これから俺が話すのは独り言だから、別にソフィアは聞かなくてよいよ?」
うんともすんとも返って来ないが、まぁ、了解という事だろう。
伯爵の館の廊下は板張りだ。柔らかくもないが、石より楽かもしれない。俺も扉を背に、廊下の床に座り込む。
「俺は幼い頃、田舎の祖父と祖母の元に預けられていてな。実の両親は仕事が忙しい人たちで、俺は自分の誕生日も、あるいは正月、あー、つまり新しい年が始まるお祝いの時も、滅多に親に会うことが出来なかった」
一体、何年前の話だろう?
元いた世界の、今とは違う世界の、今とは違う自分の話。それでも、もう一人の俺であっても、俺であることには違いない。
「ある日、そんな両親から俺に手紙が届いた。今度の俺の誕生日は三人で過ごせる様に、俺の所に帰ってくるという。だが、俺は正直、もう両親がいない生活に慣れてしまっていて『えっ、帰って来なくても良いのに』と、そう、思った。・・・思ってしまった。もちろん、そんな否定的な返事を返した訳でもない、ただ、手紙に返事もせず放っておいた、と言って良い。その数日後だ。俺の住んでいた国に向かう飛行機、あー、空を飛ぶ馬車みたいなもんか?が、そう、両親を載せた飛行機が、事故で墜落したと聞いたのは」
木のドア越しに、ソフィアが息を飲んだのが分かる。
まぁ、そんなに大それた話でもない。
その事故だけでも、数百人単位で家族を無くした者が造られているのだから。俺も、その一人のに過ぎない。
「俺は、後悔した。ひょっとして、俺があの時、帰って来なくても良いと、そう思ったから、両親は帰って来れなくなったのじゃないかって、本気で、そう考えた」
もちろん、そんな事はあり得ない。
だが、この世界に来て分かった。
想いは、具現化する。
想いとは、そういうもの。
「ここを、開けてくれないか? 『虚無の狼の迷宮』はソフィの知り合いなんだろう? たとえ、俺がそれを殺さなければならないにしろ、ちゃんと、俺が殺そうとしている相手が、ソフィにとってどんな相手なのか、きちんと、訊いておきたい」
ふっ、と背中がが軽くなった。
なす術もなく、開かれた扉の向こうに倒れこみ、そのままこちらに向き直ったソフィアの膝の上に落ちた。どうやらソフィアは、膝を付いて、扉を両手で押していたらしい。
この、心地よさ。
・・・膝枕ですね、これ。
俺が、ソフィアを見上げる間もなく、ソフィアのしなやかな指が俺の両目を覆った。
「やっぱり、恥ずかしいから、このまま聞いてくれるかしら?」
一瞬見えたソフィアの藍色の瞳は、溢れんばかりの涙を溜め込んでいた様だ。震える声で、俺にどんな過去を語ってくれるのだろう?
今一つ、こちらが膝枕では、恰好がつかない気がしないでもないが。
ソフィアの膝枕には抗えないな。
お待たせしました、再開です!




