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華龍Story  作者: ryo
13/142

第13章

13.

今、俺たちは、リシタの『深淵の竜の迷宮』に再び潜っている。ラスボスたる迷宮の主不在ではあるが、そこは当の元迷宮の主、別のそれなりに手強い難敵の存在を知っていたりする。全長数十キロに達するであろう階層を成す地下迷宮にあっても、道に迷う事はない。便利だな、ソフィア。流石にソフィアも他の迷宮の事は知らないだろうから、やっぱり西に行くのは辞めてこの街に居を構えてしまおうか。未踏の迷宮に挑みたいと言った俺だが、ソフィアが同意していなければ、さっさと撤回していたかも。今更止めるって言ったら何か凄く恰好が悪いという重大な理由だけが、俺の矜持を後押してくれている。


迷宮に潜って3時間。比較的まだ浅い階層にも関わらず、周囲の魔物は既に本来は下層に住む狼たちが混じり始めている。

地下迷宮という存在が人工的に造られた物ではない以上、ラスボスの住まう最深部に至るのとは違う、いわば脇道みたいな物も存在するだろう。そして中に湧いた魔物たち同士の間でも、人間の冒険者を食らうという以外にも魔物間での力関係というかヒエラルキーというか、弱肉強食の関係が存在するのだそうだ。地上に近いと弱く、奥底へ進む程に強い。故にラスボスに至るルートからは外れている行き止まりの最奥にも、ラスボスとは違った手ごわい魔物が巣食っている場合もある。たとえば、攻略ルートの大筋からは外れているが故に、冒険者たちには知られざる強敵が。


「一匹そっちに行ったぞ!」

声を張り上げる俺に、後衛の二人が緊張度を上げる。『同田貫』を使いたい年頃、という訳でもないが、実戦で使ってみたい俺が前衛を担当する。俺の役目は兎に角群れで攻めてくる狼たちの数を減らす事だ。一方ソフィアはシャーリーを守りながら、俺の後方から魔物たちに牽制となる援護射撃を掛ける。万が一後方から魔物が追い縋ってきた場合も、ソフィアに任せるしかないのだが、ソフィアの腕前を知る俺はそれ程心配はしていない。


「行きます!」

振り向くと、緊張に表情を硬くしたシャーリーが、手の平を開いて両手を前に突き出す様に構えている。『同田貫』の斬撃を逃れた一頭が、二人並んだシャーリーとソフィアに迫る。

ソフィアの射る矢であれば、たとえ背後から頬を掠めても、余り緊張というか恐怖は感じないのだが。俺の横の壁際ギリギリを駆け抜けた狼を狙うとするなら、俺自身はシャーリーの射線からは多少ずれているとは思うのだが、俺はさりげなくも更に距離を置く様に反対側の壁に寄る。

安直なのかもしれないが、ソフィアに限っては誤射の可能性を俺は考えてもいない。それよりも心配なのは、行為の最中に興奮の余り我を忘れてドラゴンに戻ってしまったソフィアに、踏み潰される事だったりする。生まれたばかりのパンダの赤ちゃんとか、母パンダの下敷きになったりするじゃない?洒落になってないよね。

「リ・エル・ソラート!」

シャーリーの魔力解放の呪文と同時に見えざる大気の刃が放たれ、轟音と共に迫りくる狼を切り裂いた。顔面から腹までを割かれた狼が、内臓を撒き散らせながら倒れ伏す。エグいな、これ。おそらく弾丸ではなく、ブーメラン状の刃なのだろう。俺の『同田貫』より、なお一層傷が開きやすいというか。本人の言葉によれば、シャーリーは風属性の魔法が得意なのだそうだ。実体を持たない鎌鼬の如き一撃は、敵の側から射線に気づくことはとても困難に違いない。まして、その攻撃範囲を見極める事も難しい。あ、そうか、手の方向を見ていれば少なくとも射角は推定出来るのか。魔物の知性では、それも難しいのだろうがソフィアみたいなボスクラスなら、難なく躱せるのかもしれない。


「良くやったわねシャル、上出来だわ!」

褒めるソフィアが、シャーリーを抱きしめている。シャーリーは、ソフィアからはシャルと呼ばれる事になったらしい。因みに今回は、ソフィアもチェインメイル姿だった。そうだよね、普通、迷宮の中では薄着はしないよね。抱きつかれたら、その柔らかな感触が分かったりする薄着とか。既に先の迷宮脱出の際の攻略目標は十二分に落としたと、目的は達したと判断したらしいソフィアは、今は普通にチェインメイルを纏っている。まぁ、どうせ押し倒されるなら、固いチェインメイルより薄着の方が好いけどさ。


「はい!ありがとうございます、お姉さま!」

抱き返すシャーリーのツインテールが、揺れている。何か、ちょっとした疎外感を味わいつつ、視線を逸らす。俺が赤くなって如何するんだよ・・・。今日、再びこの街の地下迷宮に潜る事にした目的は二つ、人数の増加率と食い扶持の増加が比例しない事を恐れた俺にとって、旅立つ俺たちに必要な路銀を作ること。そして、シャーリーの腕前を確かめる事だった。俺はシャーリーに嗾ける魔物の数を絞り、ソフィアがシャーリーの間近でサポートする。如何やら単発であれば、シャーリーもこの程度の魔物で後れを取ることは無さそうだった。


「よし、もう少しその腕前を見せて貰おうか。次は襲ってくる敵が一匹とは限らないぞ、十分に注意しろよ」

何か、小中学校の担任の先生にでもなった気分だ。それも女子校だね、ちょっと憧れるところも無きにしもあらず。実は俺自身は男子校の出身で、学校生活が華やかだったことはこれっぽちもなく、むさ苦しい男どもが同級生だった。文武両道が謳い文句だったが、実際は分担制だったりする。俺自身は文の方、それも理系だったので、『授業中は放課後の練習に備えて休息して(寝て)います』という連中とは、それ程縁がなかった。


「はい!頑張ります」

まして、一度目の人生を中途とはいえ既に終えた身なので、シャーリーの事はどちらかと言うと、拾った子猫を放り出す訳にもいかず飼うことになった、そんな気分だったりする。否、拾ってきた子猫を飼うことを押し切られたパパかも。まずいな、これでシャーリーがソフィアに懐くと、女系家族の父親役だな。今のうちに、シャーリーがピンチになったら、助けておかないとな。俺に対して少しでも良い印象を持って貰わないと、そうでなくともソフィアには勝てる気がしないのに、今後は更に2対1で押し切られる。

俺はこの迷宮探索の目標に密かに最重要項目として3番目を付け加えると、目的を達すべく更に迷宮の奥底へと道を辿る事にした。

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