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華龍Story  作者: ryo
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第12章

12.

官僚制という言葉は一義的な物ではなく、『合理的な組織形態』という意味で使われる場合もあれば、そこに付随的に発生する所謂『官僚主義』と呼ばれる硬直した権威主義的弊害を指す事もある。前世に於けるフィレンツェの認識では、寧ろ後者の意味あいが強い。

しかしながら、この世界の特に地方都市に於ける官僚制とそれを担う官吏団は、領主の私的使用人としての延長上にあり、地方領主を頂点とする特権を持って市民を身分的に支配する為のシステムとしてのみ存在していた。


その発生と発展は俺の知る近代国家とは若干異なるものの、元いた世界と同様の『合理性』と『権威主義』を想定していたのだが。それ故に、三人の冒険者の腕を叩き切った俺は、いざとなったらソフィアを連れてさっさとこの街を逃げ出す事も考えていた。この街の牢屋(領主の館には、無数の地下牢があるらしい)で、二度目の人生を終える事は避けたい。ところが何故かそうはならず、無事に無罪放免となり聊か拍子抜けの感が否めない。

「実は私も、奴隷の身でしてね」

事後処理を担当したこの街の壮年の監察官自身も、領主の多数持つ奴隷の一人なのだと言う。やたら好意的に、俺の腕をバンバンと叩きながらそう言っていた。監察官というのは、この街では複数人が任命されているらしく、それぞれの分野に於いて領主の代理的な権限を持つ者らしい。

「奴隷の者を粗末に扱う冒険者など、寧ろ殺して頂いた方が良かったくらいです」

この段階で既に俺としてはかなり想定外だったのだが、物事が俺に有利に動いているのであれば、取りあえずは俺に依存はない。如何やら彼ら監察官の判断基準は、『もし自分の上司であり持ち主でもある領主自身が、自分で判断を下したとしたら』を『忠実にシュミレーションする事』である様だ。監察官の裁決から推測されるのは、大分アバウト且つ人情派の領主像なのだが、真相の程は不明ではある。しかし、監察官の言動から領主の性格を推測するという、拍子抜けからか思考が脱線しかけていた俺に、監察官は更なる追い打ちを掛けてきた。顔を引き締め、改まった監察官が告げる。

「では、あなたの助けた女奴隷は、これよりあなたの所有となります。所有者変更の手続きは既に完了していますので、あなたは奴隷の所有者としての責務がある事を認識し、前の所有者の様な愚かな真似をしない様、十分に注意される事を期待します。まぁ、あなたに限ってそんな事は心配していませんがね」

いつの間にか、俺は助けた女の子の所有者になっていた。


「あ、あの、シャーリーと申します、宜しくお願いします」

ツインテールの赤毛の女の子が、ひょっこりと頭を下げた。・・・ツインテールって、俺の元いた世界では希少価値がある気がする。この世界でも、見かけない。似合っているから良いが、多分、ある程度振り切れたものがないと、厳しいのかもしれない。

明日には引き払う予定の、宿の一室。監察官から解放された俺たちは、取りあえずここ数日を過ごした宿に戻ってきていた。部屋には、ダブルサイズのベッドが一つ。衣装ロッカーと小さなテーブルがそれぞれ一つづつ、椅子が二つ。窓が跳ね上げ式の木戸である点を除けば、日本の寂れたホテルの一室と、さして変わりはない気がする。もちろん、冷蔵庫やテレビ、電気スタンドといった代物は存在せず、その分若干狭い造りなのかもしれない。


「あ、ああ。俺はフィレンツェだ。こっちはソフィア、俺のパートナーだ」

取りあえず、元ドラゴン云々は伏せて置いた方が良いだろう。最近、状況について行けない事が多い。いつの間にか守るべき者が出来、いつの間にか奴隷の女の子の所有者になっていた。俺としては厄介事を抱え込むよりは、早々に奴隷解放の手続きを実施して事態の収拾をはかりたい。そうであれば、ソフィアの素性にしろ俺自身の出自にしろ、ここで余り詳細を語る事は避けておいた方が妥当だろう。


「わたしはソフィアよ。わたしの事は、お姉さまと呼んでくれて良いわ」

な、何か、すごく背徳的な響きを感じるのは、気のせいだろうか?取りあえず細かい事は気にせず、俺とソフィアはそれぞれ窓際の椅子に座って、俺たちの向かい合わせにシャーリーをベットの隅に掛けさせる。この部屋にはベットが一つしかないのだが、最初にソフィアの事は俺のパートナーと公言しているので、その辺りは気にせず本題に入りたい。


「それでシャーリーは何故、奴隷になったか聞いても良いかな?もちろん、言いたくないなら言わなくても良いのだが」

話しを聞いたら、後はさっさとシャーリーを奴隷の地位から解放するつもりだ。同時に俺は奴隷所有者の責務とやらからも解放されるはずだ。シャーリーは暫く逡巡した後、ぽつりぽつりと、か細い声で自身の身の上を語り出した。


「私は元々、この街の更に西にある森の中の村に住んでいました。でも、私を育ててくれた母が亡くなり、私は一人、村を出てこの街までやってきました。冒険者となった私は幾つかの依頼を受けて、生きていく為のお金を稼ごうとしたのですが・・・。結果はほとんどの依頼に失敗して、逆に契約不履行の違約金が積み上がるばかり。最後は奴隷商人に自分を売って如何にか借金を返すしか、方法がなくなってしまいました・・・」

ある意味この世界に於ける、冒険者の典型的な転落のパターンの様だった。問題はこの娘を解放したとしたら、この娘は一人で生きていけるのだろうかと言う事だろう。また、同じことの繰り返しに、なりはしないだろうか?


「もう見て分かっているかもしれないけど、わたしたちも冒険者なの。わたしたちと一緒だったら、依頼に失敗して違約金、何て事はあり得ないわ。フィルは美味しいごはんもくれるし、もう心配は要らないわよ。そういう訳だから、じゃあ、パーティーの仲間として宜しくね、シャーリー」

あ、あの。俺の意向は聞いて頂けないのでしょうか、ソフィアさん!?大体その自信は何処から来るのでしょうか・・・?俺のイメージとしてはドラゴンは自尊心が高くとも、過剰な自信を持つという訳でもなかったと思うのだが。そう心の中で疑問を呈するうちにも既にソフィアはベッドに歩みより、屈みこむ様にヒシとシャーリーを抱きしめている。俺から見ると、チェインメイルを纏っていても隠せない、そのおしりのラインが魅力的ではあるけどね。


「ありがとうございます、お姉さま!」

二人がセーラー服とか着ていないから、良いが。いや、良いのか?抱き合う二人を眺めながら、俺は責任とかそういうモノを放り出して現実逃避を試みる。藍色の髪のソフィアと、紅い髪のシャーリー。どちらもセーラー服とか、似合いそうだ。そうしたらビジュアル的には、もはやアニメのヒロインだな。多分、深夜枠の。


「さぁ、まずはお昼ごはんを食べないと!それから今日はちょっと時間も遅くなっちゃったし、まずはわたしがシャーリーの、そのちょっと汚れた服装を何とかしてあげるわ!」

如何やら、食費は少なくとも俺単独の場合の4倍に膨れる事が、決定したらしい。後はこの小柄な女の子が、ソフィア同様に見た目以上に食欲旺盛でない事を祈るばかりだ。


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