第128章
128.
明朝、バイルクラウの村を出て『虚無の狼の迷宮』へ向かう事にした俺たちは、村の穀物商店を営むお下げ髪の少女から、街道の南の岩山で食料となる野獣の狩りが出来るという情報を得た。その岩山経由で食料調達しつつ、いよいよ『虚無の狼の迷宮』に向かう事になる。
村の騎士団を飲み込み、お下げ髪の少女の兄を捉えた迷宮は、どの様な姿で俺たちを迎えてくれるのだろう?
「ねぇ、フィル。あんなに沢山小麦粉を買っていたけれど、何を食べさせてくれるの?」
辺境伯の屋敷への帰り道。俺の横に並んで歩くソフィアが、キラキラと期待に満ちた目で尋ねてきた。ソフィアの場合、文字通りその藍色の瞳の中で金色の光が踊っている様に見えて、ドラゴンの姿だった時の特徴を、そのまま残している。
それにしても。
自分は食べる人、他の人が食べさせてくれる、そういう前提ですね、ソフィアさん?
ここで『今夜のおかずは、お前だ!(但しツインテールでお願い!)』と宣言しても良いのだが、まぁ、それは後にしておこう。
「・・・小麦粉」
嘘はついていないが、折角なので、ちょっと意地悪してみる。
別に今日から小麦粉でなくても良いが、調理に時間の掛かる手の込んだ食事は村を出たら暫くは、ありつけなくなるだろう。なので今日の午後は、買い込んだ小麦粉で麺類を作って、ソフィアの無限倉庫に出来るだけ沢山ストックしておく必要がある。それはそれとして、作った麺類だとかパンはストックに回す事にして、今日はそれ以外のメニューが良いだろう。
少なくとも、小麦粉をそのまま、食べたりはしない。
「えっ?」
俺の左手に絡みついたソフィアの思考停止と共にその歩みも止まり、何故か右手のシャーリーがまでが揃って停止状態に移行した。
流石、なのか如何なのか、見事に二人の歩調が同期しているが、左右両側から固縛され挟まってる俺も歩みを止めるしかない。
「水で捏ねて団子にして、そのまま食べる。うまいぞ?」
固まったソフィアの顔を覗き込みながら、ついでだから、もう少し煽ってみる。つまり味のない、すいとん。但し煮てもいませんけど、みたいな。うん、想像するだけで、無味乾燥な感じ。別にぼそぼそとは、してないだろうけど。
「そ、そうなの?」
ソフィアが辛うじて再起動したらしく、返事を返してくれた。シャーリーの方は可哀相に未だに停止中。どちらも本当は嫌だけど、嫌と言えない小学生みたいで、可愛い。
しかし、あれだな。
自分では作れない、作らないのに、一応、それでも味は想像出来るものなんだな。
仕方ないので、種明かし。
「冗談だ。たとえば、そうだな。ここいら辺で採れるイモも、何種類か買ったよな。後、林檎みたいなのも。エゼルに天ぷらを作っただろう? サツマイモっぽいのと、林檎っぽいので揚げスイーツを作ってみようか?」
主食は、肉入りのすいとん。もちろん、ちゃんと肉と一緒に煮る。デザートにサツマイモと林檎の、手作り春巻きの皮の包み揚げ。皆、肉も好きなのは事実だが、甘い物が嫌いな娘はいない。
「わぁ、なんだか良く分からないけど、それ食べたいです!」
シャーリーが、両手を祈る様に組み合わせて喜んでいる。俺の右腕が解放されたので、今のうちに頭も撫でておこう。ソフィアも未知の食べ物を夢想して、顔がにやけている。
そう言えば、辺境伯の屋敷の料理人も殺されたのだろうか? 村人たちが助けてくれているとはいえ、厨房を借りるお礼に大目に作って辺境伯親子におすそ分けしても良い。
喜ぶソフィアとシャーリーを連れ、屋敷への道を急ぐ事にした。
食べる人が増えるなら、下ごしらえにも時間が掛かるものなのだ。




