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華龍Story  作者: ryo
123/142

第123章

123.

辺境伯は齢60を超え、元いた世界では所謂還暦と言う事になる。万能の魔法薬があり、且つ比較的戦争が起こらず戦乱で死ぬ事の少なそうなこの世界にあっても、健康維持という点ではおそらく元いた世界の方が優位なのだろう。元いた世界でも、中世に於いては『人間五十年』が普通であり、この世界で60歳と言えば、平均寿命を超えていると言っても良い。

やがて眼を覚ました辺境伯は、娘共々俺たちに礼を言うと共に、『虚無の狼の迷宮』にバイルクラウの村を守る騎士団全てを差し向ける事となった経緯を語り出した。


「『虚無の狼の迷宮』があるのは、ランス王国との国境の辺りでしてな、おそらくは国境を跨いで王国の領土の下にまで広がる、広大な迷宮だと言われております」

娘に支えられてベッドに身を起こした辺境伯は、既に健康と言っても良い娘に比べると、大分具合が悪そうに見える。シャーリーによれば同じ魔法の回復薬を飲んでも、元々持っている体力や回復力によって、その効果には違いが出るものなのらしい。

つまり、魔法薬を飲んでも元々聖人君主であれば立たない・・・、かどうかは知らないが、たとえ魔法薬であろうとなかろうと、薬なんて物は半分は偽薬的なプラセボ効果の効用だ。後は本人の気の持ち様と言う事だろう。

いや、そうではなくて。

話がずれたが、野盗に襲われる前から辺境伯は、それなりに体調が良くはなかったのかもしれない。


「実はランス王国でも、近頃急激に魔物が増えたという話が伝わってきておりましてな。地表に現れる魔物は何れも地下の迷宮から繋がる入口から出てくる訳ですが『虚無の狼の迷宮』の場合、その全ての入口を、私たちが把握出来ている訳ではないのです。特に国境を越えたあちら側では迷宮の入口は何の管理もされておらず、国境を越えて侵入してくる魔物は前々から多くおりました」

ランス王国の国土防衛の考え方は分からないが、防衛拠点を絞っているのかもしれない。広大な海洋を守る事は難しく、港に現れた魔物を水際で仕留める訳だ。


「魔物の出現が増えた事と、新しい入口が関係あるのですか?」

すかさず、復活を果たしたアリシアが切り込んだ。

本当に回復が早いね、アリシアは薬いらずだな。

まぁ、辺境伯とは旧知の間柄らしいし、相手が伯爵であっても精霊には余り関係ないだろうし。それでいうと、元ドラゴンがそういうのを気にする訳もなく、エルフたちは国家に属さない。

うーん、それでいうと俺もこの世界とか国の生まれでもないしな。

つまり、不遜な奴が揃っている訳か。

初めて分かったな、多分。


「おお、アリシア嬢か? 久しいな。10年振りか? ちっとも老けないな。アレス王は息災か? それに、その目は如何した、狼にでも食われたか?」

もっとも、辺境伯もその辺は余り気にはしないらしい。辺境だしね。

それに、アリシアが逆に質問されてるし。

アリシアの十年前はひょっとして、シャーリーみたいな感じかとも思ったが、10年ぐらいでは余り変わってはいないらしい。10年で最大の変化が、その黒の眼帯という訳なのだろう。そう考えると、ちょっとアリシアには申し訳ない気がしないではない。

襲ってきたのはアリシアの方なのだから、申し訳ないと考えるのは、ちょっとだけ、だが。


「王は、お元気だ、余り変わられた様子もない。この目は、この男にやられた。この首もだ。ついでに、手込めにされた」

そう答えながら、アリシアが頬を赤らめて俺の右腕に絡んできた。

まだ朝なのに珍しく、ある意味、デレモードですね。

だが。

・・・申し訳ないっていうのは、前言撤回。

でも、その最後の単語の使い方は明らかに間違っていると思いますね。というか、首は俺だが、目はソフィアだよね? 如何やらアリシアの中では、全て俺が犯人という事になっているらしいが、その手込めっていう単語の使い方も含め、ソフィアたちが誤った知識を教えている気がする。

絶対、そうだ。

そうこうするうちに、ベッドの脇に立って辺境伯の上半身を支えていた令嬢が、ささっ、とベッドの厚みのある木で出来たヘッドボードの向こうへと移動している。

・・・少なくとも俺は、襲いませんからね?

親御さんの前だし。

シャーリーの時も、エゼルの前では、ちゃんと、がまんしたし。


「おおっ、『火の精霊』の相手をしようとは、おぬしも恐れ知らずよのう。その無謀さで『虚無の狼の迷宮』に挑むか?」

顔色の悪さにも関わらず矍鑠とした笑いを見せる辺境伯だが、こちらはかなり恥ずかしい気がしないでもない。

既に俺の左手には『サラマンダーごときに、負けないわ!』と何やら新たな誓いを口走る元ドラゴンが抱き着き、右手の自分の居場所をとられたと認識したらしい合法ロリが、殺意の籠った視線をアリシアと俺の区別なく投げつけ、悪女が一人後ろで頬に手を当て(今日は、片手だったようだ)『「英雄色を好む」とは、よく言うたものどす』などと呟いている。

まぁ、良い。

俺も大人だから。

そうそう、髪が短いからって、エレイン一人がツインテールというのは不公平だよな。

今夜は全員、ツインテールに決定。

まずは、辺境伯に今夜の宿を所望しよう。


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