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華龍Story  作者: ryo
119/142

第119章

119.

踏み込んだフィレンツェが切り上げた同田貫が、野盗の男が手にした手斧をその手首ごと切り落とした。同田貫ならたとえ金属の手甲ごとでも切れるだろうが今は無駄な努力は不要、それでも手甲の少し上辺りの肉と骨を立つ感触も無きに等しい。男の手にした手斧の振り上げたモーメントが、残された身体との固縛を解かれた手首を高く頭上へと切り離す。自分の手首が手斧を握り締めたまま鮮血と共に中空を舞うのを、悲鳴を上げるのも忘れ驚愕に見開かれた目で追う男を容赦無く横に蹴り倒し、更に一歩二歩と前に出る。

切られた瞬間に静かなのは野盗とはいえ評価に値する、こちらも人を集めたい訳ではないし。騒ぐのは良いが、騒ぐのは一瞬時間を置いてくれるのが良い。


「来るわ! 左前方から二人、弓とショートソードよ!」

すかさず歩み寄ったソフィアが、耳元で囁く。

フィレンツェが同田貫を振りやすい様に、再び少しだけ距離をとるソフィアを横目で追うと、強烈な湿度に張り付いた様な髪を嫌ったソフィアは今だけその藍色の髪をポニーテールに束ねている。ポニーテールのソフィアの横顔も、ちょっと新鮮な感じがして良い、ここが修羅場でなければだが。

もうもうと立ち込める水蒸気の壁の中から、水中から水面へ浮かび上がる魚の様に新たな人の影が浮かぶ。近い方の男の肩に掛けた弓ごと袈裟懸けに斬り降ろし後ろのもう一人の肩を同田貫で貫いた時には、既に二人目の男の胸にはソフィアの放った鉄の鏃が突き立っていた。後ろの奴はどうやら、既に即死だったらしい。引き抜く同田貫に合わせ、ドサリと倒れ伏す。

フィレンツェの足元で痙攣する一人の方は息はあるが、それでも寧ろやり過ぎた様だ。残酷な話だが、この場の混乱を維持するならば物言わぬ死体より悲鳴を上げ、のたうち回る生きた野盗の方が望ましい。フィレンツェとソフィアの押し通った後には、そんな手足を失い、あるいは肩や腹を浅く切られた野盗が幾人かと、当初の意図より深く切り裂かれた死体も幾つか転がっている。野盗たちは混乱し出会い頭に斬りつけてくるだけだが、予め『見えて』いるフィレンツェの動きは僅かながら早い。その僅かな差が、両者の勝敗を大きく分けていた。


「領主の屋敷の門ていうのが、見えているか? 後どれくらいの距離か分かるか?」

振り返って弓を持つ手を降ろしたソフィアの、空いた右手をとって相変わらず見通せない前方の様子を訊くと、何故か顔を赤らめたソフィアが尻尾の様なポニーテールを揺らして前方を凝視している。

・・・いいな、ポニーテール。まさかシャーリー以外でポニーテールを愛でることになろうとは。これは、今夜は全員ポニーテールか? いや、エレインは束ねるのは厳しいだろう、短いなりにいっそのこと、ツインテールというのもある。

・・・あるのか? 悪女のツインテール。


「後は真っ直ぐ50歩くらいよ。間には、後一人・・・」

一旦、ギュッ、っとフィレンツェの手を握り返してから自分の指を引き抜き、ソフィアはそのまま流れる様な動作で1本だけ矢を放った。前方からくぐもった悲鳴とドサリと人の倒れる音がした。

「ここから門までの間には、もう誰もいないわ。門は開かれているけど、今は領主の軍も野盗も、全然出入りはないみたいね」

先程、一瞬野盗たちが怯んだ様に見えたのは、屋敷の門の内側から軍が打って出て来たのだと踏んだのだが。如何やら外から駆けつけたこちらと挟撃する形には、なりようもなかったらしい。


「良し、じゃあ、行こうか」

再び、ソフィアの手をとる。

別に真っ直ぐなら、もうソフィアの案内も要らなさそうだが、まだまだ何があるか分からないし。その絡めた指の感触が、いつも以上にしっとり感があって何か魅力的だし。

興奮収まらぬ今の俺には、視覚だけでは少し物足りない。

せめても、絡めたこの指先は、そのままに・・・。

ソフィアが、つつっ、と歩み寄ると、俺の頬に軽く口付けた。

上目遣いに、少し潤んだ藍色の瞳で俺を見詰める。

金色の輝きが、瞳の奥で踊っている。

様々な感情を宿らせたその瞳、如何やら興奮冷めやらぬのは、俺だけではなかったらしい。

「行こう・・・」

二人で歩み出す。

前方に館の門が、顎の様に開かれていた。


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