第117章
117.
仮に仲間の人数にも限りがある野盗たちが、練度の程は分からないにしても一応は軍隊を名乗る部隊の駐留する村で事を起こそうとするならば、余程静かに事を進めるか、さもなくば、まずは村の頭を押さえてしまう事が必要だろう。つまりは、この村で真っ先に狙われるのは『バイルクラウ以遠辺境伯』その人という事になる。この村を襲う事がリスクを相殺して余りある魅力のある事なのかは甚だ疑問だが、その行動を実行に移した盗賊たちには、それなりの目的と計画があるには違いない。
少なくとも、その計画は、今やほぼ達成されようとしている様だった。
「駐屯軍は、何処にいるんだ? くそっ、さっきから俺たちが出くわすのは、盗賊の奴ばかりじゃないか? これ程の数の盗賊が、何処から湧いてきたんだ?」
徐々に村の中心地へと向かう俺たちに、次々と襲いかかってくる盗賊を切り捨てる。如何やら村に侵入した盗賊たちも村の中心である領主の館へと集まりつつあるらしく、ばらばらと組織的な襲撃にはなっていない事が幸いだが進む程に立ちはざかる盗賊の数が増してくる。
「この方々は多分どすが、ランス王国が縄張りの盗賊どすな。使う言葉が訛っとるようどす」
自分の訛は棚に上げたエレインが、そう教えてくれた。
大体、口にするのは脅し文句か雄叫びで、訛っているかどうかもない様な気もするのだが。ランス王国から国境を越えて攻め込むとは大したものだが、そもそも国境と言っても特に、壁も塀もない所なのだそうだ。ただ、横たわる不毛の大地だけが、越境を望む者を強く拒む、そういう場所。
「駐屯軍は月の大半を『虚無の狼の迷宮』の周辺の巡視に出ている。入口が幾つかあるんだ。今も館に残っているのは、ごく少数だろうな」
そう説明するアリシアの放つ火炎が闇夜を切り裂き、複数の盗賊を燃え立つ火柱へと変えるが・・・、明らかにオーバーキルだな。しかも目立つし。何発もあれだけの火炎を放ち魔力切れを起こさないのは、余程タフなのだろう。俺が苦労するのも、分かると言うものだ。まぁ、盗賊がこちらに向かって来てくれた方が、襲撃を受けている領主の生存率は高まるだろうから、良しとしよう。て、言うか『目立つから「火の魔法」は止めて』とか言おうものなら、ソフィアに続いてアリシアの機嫌も損ねる事は必須だし。
ここはアリシアの好きにさせておくべきと、大人の判断を下す。
「あっ、あの建物が領主の館じゃないでしょうか? 玄関の外に沢山盗賊さんが集まっています!」
自分が見つけました! わくわく、という感じが可愛いシャーリーだが、やってる事は限りなく、えげつない。『風の魔法』で胴体真っ二つ、っていうのは、・・・ないよね、やっぱり。こちらも明らかにオーバーキル認定。仕方ないので、頭を撫でて褒めておく。
「そうね、沢山いてめんどくさいから、領主の館ごとアリシアの「火の魔法」で焼き払っちゃえば良いんじゃないかしら?」
まだ、怒ってますね、ソフィアさん?
何を怒っているんだろ?
昨夜のあんな事とか、こんな事とか。他の娘たちが意識を失うか疲れて寝入った以上、ほら、残された一人に多少求め過ぎたとしても、許されると思うのだよね。別にその時は、それ程は怒ってはいなかったと思うし。単に怒る余裕がなかっただけ、かもしれないけど。
「何よ、他に良い方法があるの?」
返事しなかったら、睨まれました・・・。もう、賛成しちゃって、良いですか? 領主さん、ごめん。
「そ、そうだな、じゃぁ、アリシア・・・」
俺がアリシアの方を振り向いた時だった、領主の館に攻め入ろうとする数十人はいるだろう野盗の一角が崩れた。
混乱し、後ずさる野盗たちの背が見える。何であれ、チャンスかもしれない。




