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華龍Story  作者: ryo
116/142

第116章

116.

同田貫を振るう時、何故か目前に浮かぶ景色がある。幼き日々を過ごした田舎の山々に沈む夕陽に照らされ、田畑の隅で黙々と木刀を振って見せてくれる祖父の姿だ。

俺が思うに祖父はやたら不器用な人で、一度として俺に直接、木刀の振り方を教えてくれた事などなかった。俺に教えてくれるのは、何故か『今の振りは良い』とか『だめだ』とか、そんな遣り取りばかりだった。子供ごころに『なんで、もっと右とか高くとか強くとか、具体的に教えてくれないのだろう?』とそう、思っていた。

『心を無にして、お前が木刀をふるうのではなく、木刀が奔るのをお前が手助けする、そう思ってごらん。すると、木刀を構えた時には、振り下ろした先の事が浮かんでくる。さぁ、自分で振るうのじゃぁ、ない。振り下ろすその時さえも、木刀が決めてくれる』やっと、二回に一回くらいには『良い』が増えてきた時だった。珍しく、俺を前に長々とした説明があった(おそらく、祖父との会話の分量としては、半年分くらいに匹敵しただろう)のだが、これがまた、何を言っているのかさっぱり分からない。小一時、考えた挙句、俺は上段に構えた木刀を、まるで誰かが引いてくれている風に振り下ろしてみた。何度か繰り返して見ても、俺を見つめる祖父は『良い』とも『だめだ』とも言わない。これは、行けるか? などと、ちょっと調子が出てきたところで、・・・祖父は俺の素振りを途中で辞めさせると首を振りながら、そのまま木刀を取り上げて一人俺を残して帰ってしまった。取り残された俺はやたら惨めで、やっと辺りが暗くなった頃になって、ふと我に帰って、泣きながら騒々しい程に蛙の啼く家路を走って帰ったものだった。

そんな事情を知ってか知らずか祖母はいつも通りで、泣き腫らした俺を見てもいつも通りに、ご飯を山盛りによそってくれた。


「なんだぁ、貴様!? 邪魔立てする奴はぁ、容赦しねぇぞ!」

弱い犬は、良く吠える。薄れゆく白煙の中から現れた如何にも山賊という風体の男が、刃毀れの目立つ山刀を振り回す。俺は別段に綺麗好きという訳でもないが、基本的に自分の使う武器の手入れの悪い奴は嫌いだ。ついでに、むさいおっさんも嫌いだ。俺が好きなのは、可愛い女の子。怖い女の子や手間の掛かる、めんどくさい娘は苦手なのだが、選択の余地のない時も多い。世の中、ままならないものだ。


「良いから、どけ」

俺が警告を口にした瞬間、おっさんの胸にソフィアの放った鋼鉄の矢が突き立った。手から離れた山刀が力なく落ち、地面に落ちて小さく跳ねた。山賊の体が先に落ちた山刀を追って、地に倒れ伏す。

・・・一応、警告はした。返事を返す時間は、与えられなかったけれども。容赦ないですね、うちの娘たちは。て、言うか理由は不明だが、まだ怒ってますね、ソフィアさん。

早く先に進もう。


「村を取り巻く、木の塀がありますね。門は閉まっているみたいですけど、盗賊たちは乗り越えて入ったのでしょうか?」

シャーリーが、手で目の前の塀にぺたぺたと触れながら振り返る。村の正門は、今も内側から閉められたままの様だ。盗賊たちが見張りのおっさんを残し中に入った後で閉めたのか、それともシャーリーの推測通り、海賊や忍者が使う様なロープ付きの鍵爪でも使ったのか。さて、何れにしても、俺たちも、この塀を乗り越える手段が必要だ。

こ、これは、ひょっとして。

出番を失った、俺のチェーン付きロケット弾の出番なのではないだろうか? ロケット弾の弾頭に鍵爪の様な物をつけて打ち上げて塀に引っ掛ければ、後はチェーンを上るだけだ。ただ、今、手元にあるのは二代目ロケット弾だけで、取り回しの難しい初代ロケット弾は、野宿していた村を見下ろす丘の上に止めた馬車の荷台の中だ。一旦、取に戻るか?

ドンっ、と俺のすぐ横で爆発音が響くと、慌てて伏せる俺の視線が、眼の前の塀を爆炎でなぎ倒すアリシアの凛々しい後姿を捉えた。間近で起きた爆風にたなびく真っ赤なワンピースの裾、その向こうで燃え盛る木の塀が、2、3メートルに亘って吹き飛ばされていた。


「大丈夫か、フィレンツェ。済まなかった、気が付いてなかったのか?」

素で済まなそうなアリシアが、慌てて俺を助け起こした。

はぁ・・・。

ちょっと、塀にチェーンを掛ける俺のロケット弾の雄姿を夢想していただけさ。気にする様な事じゃない。だから、そんなに真面目な顔で、俺を助け起こさないでくれます? 他の娘たちの視線が、何か凄く生暖かい気がするし。もう、暫くは立ち直れないね、俺。今夜と言わず(まだ夜は明けてないから)今すぐ、アリシアの教育的な指導に専念したい気分を押さえつけ、如何にか立ち上がる。


「大丈夫だ、さぁ、先を急ごう」

何食わぬ顔で、焼け落ちた塀を超える。

皆、少なくとも今はコメント禁止だからな、一言でも発した者は、絶対に、絶対に許さない。そう、心に誓って、村の敷地へと踏み込む。


「フィレンツェはん、良く気を付けへんと、また、こけたらえらいどすわ」

・・・悪女にぐさりと、刺されました。

絶対、絶対に、教育的指導だな。


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