第115章
115.
昼夜の区別なく焚き続ける香木の煙は、バイルクラウの村を魔物の襲撃から守り続けている。それ程大規模な駐屯軍を抱える訳でも、盤石な石組みの城壁に守られている訳でもないバイルクラウの村が今日に至るまで、この辺境の地でその存在を維持し続けていられる理由だった。だが、魔物には有効なその白煙は、誰であれ村に近づく者たちの存在を覆い隠してしまう。一律に禁じられた夜間の村への出入りは、その禁を破ろうとする者たちにとっては、余りに脆弱な戒めに過ぎない。
夜、人々の寝静まった夜に村を襲う野盗の群れには、村を守る白煙も木の塀も、何もないに等しかった。
「フィル! 何か聞こえるわ。起きて!」
耳元でソフィアが囁いた。
シャーリーではないが、耳に掛かる吐息は何かゾクゾクさせられるものがある。
だが、人にするのと自分がされるのは、大いに違いがあるものだ。いつも辛かったんだね、ごめんねシャーリー。今度はもっと苦しまない様に、頑張るよ・・・。
それはそれとして。
今日はもう、無理。
いくらシャーリー謹製の薬があっても、外見上は大分若返っていはいても、無理なものは無理。今はゆっくりと休ませてほしい。
「フィル! 村の方から何か聞こえる、多分、剣を打合せる音だわ!」
ソフィアの声は緊張と焦りの色を滲ませ、僅かに震えている。
俺の胸に押し付けられた、双丘の柔らかさが悩ましい。だが、その柔らかさを通しても僅かに伝わる震え。震えているのか? 何か緊張感というか、ああ、初めての時の初々しさを思い出してしまう。・・・そういう趣向なのだろうか? そりゃあ、ソフィア一人だったのが4倍に増えている訳で、後から増えた娘は良いとしても、ソフィアには『何よ、昔の1/4なの?』という思いがあってもおかしくはない。いや、でもソフィアと出会った頃は、シャーリーはいなかった訳で全ては俺の体力に依存していたのであり、ソフィアからしても薬頼りの今日と回数的にも差はないはずなのだが。これは、あれだな。自分だけ、という精神的な独占欲を満たすという点に於いては、紛れもなく1/4な訳であり、甘えたがるソフィアの気持ちも分からないではない。しょうがないなぁ、ソフィアを怒らせると恐いし。基本的にうちの娘たちは、どの娘も実は怒らせると恐いのだが。年上だし。中には100年単位で。やはりここは俺もひとつ、サービス精神を高揚させて・・・。
「ちょっ、ちょっと! 何やってるのよ!? そんな場合じゃないでしょ! もう、・・・えいっ!」
痛い!
なんで叩くの?
俺の自己犠牲的なサービス精神が、否定されました・・・。
「もう、今度は何を拗ねてるのよ! バイルクラウの村が、襲われてるわ!」
えっ!?
そ、それはまずいな・・・。
「皆、バイルクラウの村を助けに行く事ぞ! シャーリー、エレイン、アリシア、いつまで寝てるんだ! ソフィア、早く服を着ろ!」
寝ぼけて、互いの肢体を枕に絡まる娘たちを叩き起こす。何かソフィアが、胸元を隠して俺を睨んでいるが、今は細かい事は言ってられない。
何か分からないが、このままでは俺たちの訪問先が無くなってしまいそうだ。




