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華龍Story  作者: ryo
112/142

第112章

112.

褐色の肌を首から背中に掛けて覆う銀の鱗を月明かりに輝かせ、大きく水面を割って跳ね上がる。エレインの姿は両の足があることが寧ろ違和感を感じる様な、正しく人魚のそれだった。無数の雫が、キラキラと輝いて空中を舞った。彼女ら『深海の乙女』たちが、数多の船乗りを深海の深淵へと誘ったという古き言い伝えは、おそらく本当の事だろう。そう信じられるくらいに、月下に泳ぐエレインの姿は幻想的で、美しかった。

幸いにして、ここは底の深さのしれた小川に過ぎず、幾つもの月を映す波間に『深海の乙女』たちの謳う『呪歌』が聞こえてくる訳でもないが、それでも、もし誰か吟遊詩人がエレインの姿を一目見れば、数多の恋歌が紡がれるかもしれない。

「すまないな・・・。折角、誘ってくれたのに『入りたくない』などと我儘を言って」

岸辺で俺の隣りに腰掛けたアリシアが、済まなそうに、そう呟いた。アリシアにしては、しおらしい。この先もそうしていてくれると助かるが、このツンデレ娘はサラマンダーだけに?回復力が高く、明日の朝にはいつも通りの漆黒の鋭い眼光を取り戻していることだろう。アリシアが素直なのは夜だけ、俺も経験的に理解している。

もっとも、『火の精霊』が小川で水浴びをするのを嫌うのは、『水の精霊』が喜々として小川に飛び込むのと同じくらいには普通のことだろう。俺としても俺が言い出した水浴びを無理強いするつもりは、さらさらありはしない。

ついでに、もう一人のツンデレっぽい元ドラゴン娘が、何故か俺の腿を枕に寝そべっていても(逆膝枕だ!)、それも普通の事と言えなくもない。

なんで、こうなっているのだろうね?

「・・・我儘か。そう言えば実は昔も、お前は我儘だと言われた。100年前、先代のエルフの王が私に名前を与えてくれた時に『お前は二度負ける』と言われたんだ。『一度目にお前を倒した男が、二度目にお前が負けた時、お前を助けてくれるだろう』という。 それを聞いて『私は二度も負けたくない』と言ったら、王は笑って『我儘はいけない』と仰った」

それが本当ならばアリシアの昔語りは、アリシアと俺との出会いも、何らかの形でエルフたちには想定されていたという事を示している。


「別に、我儘を言っても良いさ」

そう、たとえば俺の膝枕を所望するとか。膝枕してほしいのは、俺の方なのに。泳ぎ疲れたというソフィアが休みたいというので『良いよ』と答えたら、こうなった。因みに俺は『皆で水浴びをしよう』とは言ったが『泳ごう』とは言ってない。

まぁ、そういう事もあるだろう。

手持無沙汰なので、ソフィアの銀糸の様な細い髪を撫でる。ソフィアが僅かに薄目を開けて睨むが、口に出してダメとは言わないので、OKという事だと解釈する。

手が滑って、体を包む毛布を剥がしてしまっても、OKという事だろう。多少、拡大解釈かもしれないが。

それは、そうとして。

エルフの王は、俺の事も何か『見えていた』のかもしれない。だが、もし運命などというものが在るとしても、少なくとも俺は素直に運命に甘んじるつもりはない。腹上死以外の不測の死もお断りだ。

「きれいですね、エレインさん・・・、水しぶきが月明かりに輝いて、まるで銀の花びらが舞い散っているみたいです!」

うっとりとした様なシャーリーが、誰ともなく呟いた。肩に毛布を掛けたシャーリーも、若干、遊び疲れたらしい。

別に、泳げとは言ってないのだが。

濡れたせいで髪がぺったりとしていて、いつも以上にその可愛い耳を強調しているので、あれは俺に食べてほしいという事だろう。


「この世界を飾る花々は、みな大地の精霊の僕なのだそうどす。『大地の母は、華の竜』吟遊詩人たちの詩に、そう謳われとるわ」

銀色に輝く水面を背に、水の滴を纏ってエレインが歩いてきた。シャーリーがエレインの分の毛布を渡すのを受け取りながら、エレインがそんな事を教えてくれた。

如何やら地を彩る花々は、竜の管轄だったらしい。

ちらと、俺の太ももを濡れた髪も気にせず枕にするソフィアを見ると、何時の間にやら小さな寝息を立てている。

まぁ、涎で濡らされるよりは良いか。

今は、もう暫く、このままに。


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