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華龍Story  作者: ryo
111/142

第111章

111.

俺のかつていた国は、四季があって水の豊かな国土を持っていた。

広大な荒地の地平線に、ゆったりと夕陽が沈むのをみながら、異世界の乾いた大地を見渡す。

重力に俺が意識出来る程の差異は感じないものの、一日の長さの異なるこの世界では、そもそも、この世界で生まれ育った訳ではない俺が、この世界で暮らしていけることは十分に感謝すべき偶然なのだと思う。こちらの世界にきた途端に10Gの重力に押しつぶされたり、大気の組成が違ってて、喉を掻き毟りながら死ぬなどという目に会わなかったのは幸いだ。

たとえ経度緯度が同じだったとしても同じ気候となることはないだろうが、おそらく惑星の地殻の構成元素や半径は異なっていても地軸の傾きは似ているのか、この世界にも四季がある場所もある。この大陸がそうで、森林地帯を抜けてしまったので、余り初夏の清々しさを満喫するなどとは言えないが日がくれ始めた夕方は、何処か故郷の、否、田舎の山々に沈む夕陽を彷彿させる。

この辺りは湿度が低く蒸し暑さはないが、その分乾燥が酷い。汗まみれにはならないのだが、埃まみれではある。理由は異なるが、どちらにしても、この世界でも一風呂浴びられたらさっぱりするだろうに。


「前にシャーリーが『風の魔法』を使うところを見た時より、今回マンティコアを倒した『風の魔法』は大分威力が大きかった様に思うんだが?」

シャーリーの頭を優しく撫でながら訊く。少しくすぐったそうに、シャーリーが片目を閉じた。

耳ではない、耳では。

アリシアが見てるし。


「はい。えーと、自分でも何か違うなぁ、とは思っていたんですけど。あんなに違うとは思ってませんでした」

あんなに、とは『魔力』の大きさのことか、発現した『魔法』のことか。少なくとも胸の大きさでないことは確かだろう。・・・当たり前か。

食後のひと時を、少しだけまったりと過ごす。パチパチと小さく弾ける焚き火を前に、俺の右側に座っているのはいつも通りにシャーリーだが、左側はアリシアが座っている。ソフィアとエレインは街道を先行して偵察を頼んであるが、マンティコアの活動が低下する夜に入ったとはいえ、余り無理をさせるつもりもない。後数分程度で帰ってくるだろう。


「あれは、アレス王の・・・ふぎゃ!?」

空気の読めない生真面目なツンデレの脇腹に、天誅を下す。そのまま『別にいつも通りだよ?』という感じで、左側に抱き寄せる。アリシアは背も高く、所謂モデル体系のスレンダー美人。つまり、胸も贅肉もないタイプだ。お腹にも掴もうとしても掴めるお肉はないが、だからと言って掴まれた方は不意打ちが何ともない訳ではない。

そうか、現在の配置は期せずして大きい娘チームが偵察で、小さい娘チームがこちらに残った訳だ。


「あー、指輪はまだ渡してないが、この程度で『ふぎゃ』とか言ってる様じゃあ、渡せないな?」

涙目で睨んでくる気真面目なツンデレ娘の脇肉をもみもみしながらも、内心は冷や汗がたらたらと流れ落ちる。このまま、バク、っと反撃されたら、俺は二度目の人生終焉を迎える訳だ。思えば二度目は、短かかったなぁ。

「ところで、その自分でも感じていた違いっていうのは、どんな事なんだ?」

ソフィアよりスレンダーな感じで、そもそも掴みどころがない訳だが『もう、飽きたから良いよ』という鬼畜な感じで、反撃を受ける前に無事アリシアを解放。シャーリーに向き直った。アリシアが自分で自分の肩を抱きしめる様にうずくまると、すすっ、と俺から1メートル程距離をとる。

・・・どうやら嫌われたらしい。

ああ、シャーリーの耳で癒されたい。耳とは言わず、頭を撫でたい。この際、どちらでも良いから、癒されたい。なので、取り敢えず、頭を撫でるの再開。


「はい。多分、ですけど。エゼルさんに、手を握られた時からだと思います。あの時、掌から体の中に暖かな感覚が流れ込んで来て、それから何か体が軽くなった様な気がしてました」

俺には『藍の宝玉』を触媒としない限りは自分の意思で『魔法』を発現する事は出来ないのだが、おそらく彼らエルフたちは『魔力』そのものを扱えるのだろう。エルシャナが俺の『同田貫』に『魔力を通した』時と同じだ。一時的なものなのか、恒久的なものなのか分からないが、エゼルは自分の『魔力』をシャーリーに移したに違いない。その意図がなんだったのかは分からないが、名乗りを上げることのかなわぬ娘への餞別だったのかもしれない。

その場合、最悪、ダークエルフのディーンに敗れた事も含めて、エゼルの予定通りだったという事だ。だとしたら、俺がエゼルを死なせなかった事だけが、奴の想定外だったのかもしれない。

意味が分からん。

分からないが、他の事は兎も角シャーリーの事に関しては、素直に言っちゃへば良いじゃん。

まったく、世話の掛かる奴だ。

そうこうするうちに、さくっ、さくっ、と足音が近づいてきた。

どうやらソフィアとエレインが帰ってきたらしい。


「フィル!」

ソフィアが俺と逃げたしたアリシアの間に、ぺたりと座り込む。

『おかえり』とにこやかに迎える。エレインはいつも通り俺の正面だ。

場所を開けときましたよ、ソフィアさん!

さぁ、こちらは掴めるか、ためしてみないとね。

掴めるのは知っているけどね。折角、大きいチームの娘たちが帰ってきたしね。

ついでに『あ、これは、お腹じゃなかったな』みたいな。

ソフィアが無限倉庫から水筒を取り出すと、やはり空気が乾燥しているのか俺の横でがぶ飲みし始めた。顎を伝う水の雫が、妙に艶かしい。

「ぷはっ、その丘を越えたところに、小川が流れているわ」

手の甲で口元を拭いなら、そんな事を教えてくれた。

そうか。

それって・・・。


「良し、その小川の岸辺まで、野宿の場所を移動するぞ!」

俄然、やる気が出てきた。

皆が、えっ?っという感じで、思わず立ち上がってしまった俺を見上げている。

膝を抱えていたアリシアまで、不思議そうに俺を見ている。

異世界の初夏の夕暮れ。

温泉は無理でも、水浴びくらいなら出来るだろう。


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