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華龍Story  作者: ryo
110/142

第110章

110.

言うと『当たり前じゃないか!』と怒られそうだが、つくづく魔法というものは不思議なものだと思う。それは基本的には地水火風の何れかに紐付き(電撃とかは、如何やらイレギュラーらしい)何故四大元素と関連するかと言えば、やはりこの世界に在る『精霊』の存在と関係があると言われている。『精霊』の存在が比較的ポピュラーな、この世界ならではの一般常識なのかもしれない。だったら、幸か不幸か身近に『水の精霊』(別名、嫌味な悪女その2)と『火の精霊』(別名、目付きが怖い気真面目なツンデレ)が居るので『魔法』とは何かを訊いてみたのだが、彼女たちも自身で魔法が使える事と何故使えるのかを理解する事は別らしく『鳥に何故飛べるか訊いても、答えられないじゃない?』という事になった(本人たちの回答ではなく、ソフィアの弁であるが)

少なくとも、ジルやジバに訊いても(一応、彼らも狼でも猫でもなく『精霊』だったらしい)、首を傾げるだけだろう。

彼女たちが生まれながらにして使える魔法と、俺がこの世界に来て『藍の宝玉』を手に入れた事で発現が可能となった魔法が同一であるのかも分からないのだが、俺の感覚からすると、魔法は自分自身の身体の中の『何か』を変換して生じる様に思う。おそらくそれが『魔力』というものなのだろうが、残念ながら俺自身にはこの『魔力』の存在を認識する事は出来ない。だが、ソフィアには『魔力』そのものが『見えて』いるらしく、ソフィア曰く俺は多大な『魔力』を保持しているのだそうだ。俺にも『魔力』が見えれば、もう少し科学的な考察が出来そうなのではあるが。たとえば、俺の体に均質に分布しているのか、何処かの臓器の辺りの濃度が濃いのか、何かの影響を受けて移動や揺らぎが生じるのか、重さ、色、匂い。見えないとなると、元いた世界に於けるウイルスとか重力とか。それなりの顕微鏡や、天動説を打ち立てられるだけの星の動きの監察と記録とか。それらと同様にそれなりの科学的な発展がなければ、発見も考察も出来ない。

だが唯一、その『魔法』によって発現する現象だけは、俺にも監察する事が出来る。自分の身体を例にとるならば、俺が魔法の発動をさせた瞬間に、(瞬間的に俺の手の平に火炎放射器のノズルが開いたりする訳ではなく)火炎は俺の手の平から数センチ離れた辺りに生じ、級数的にその規模を増大させ(レーザー光線の様に直径が不変な訳ではなく)、周辺への影響度をある一定のレベルまで(おそらくは威力の限界まで)増していく。

たとえば、水は液体である時より気体である方が体積は圧倒的に大きく(2000倍近い)、同様であれば体外に放出された瞬間に気化して爆発的に増大するモデルを形成しえる。だが、それだと、手の平から5センチの距離の炎の直径と、1メートルの距離にある炎の直径の差を余り上手く説明出来ない。5センチの距離の炎と、1メートルの距離の炎の質的な変化を(液体から気体への変化の様に)示さないとダメだろう。残念ながら一旦放たれた炎には、見た目ではそんな明確な変化がない。

つまり、体内の血液が傷口から噴き出すならば、何センチか離れた噴き出した先で、血液の量が増えたりしないはずで、おそらくは『魔力』は俺の体内から体の外に噴き出した瞬間に、周囲の空間そのものに『何らかの影響』を与え、その影響は更に周囲へとその影響を級数的に増大(感染に等しい)させる。だが、ある一定度以上に影響範囲が広がると、拡散し過ぎて(臨界値を下回って)急速にその影響力を失う。ここでいう臨界値とは放射性物質をある一定量以上同一地点に置くと、自然と臨界が起きて核反応が起きるのと同じと考えても良い。

いつの日にか、もう少し分析が出来る程度にこの世界の科学が発展する様な事があるのならば、ドミノ倒しの様に周辺の空間をも書き換える『魔力』の発現現象たる『魔法』の本質を、もう少し具体的な存在として定義できる日が来るのかもしれない。


「フィレンツェ、来たぞ! ぼけっ、としている暇はない! 言われた通り、私はエレインと下がるからな。ちゃんとシャーリーも、フィレンツェの事を守るんだぞ!」

何時の間にか近くまで来ていたアリシアの叱責が、俺を自分の置かれた現実の中へと引き戻す。一人栗毛に乗り街道を先行していたアリシアが、俺たちの馬車の所まで戻りながら叫んだ。何処か恨みがましい感じがあるのは、気のせいでもなさそうだが、それでも言われた事にちゃんと従うあたりがツンデレ、じゃなくてアリシアの生真面目なところだ。如何やら、次のマンティコアが接近してきているらしい。正午くらいだった前回の遭遇から数時間。日暮れまで後1時間程度を残し、今日二度目の接敵となる。


「分かりました! 頑張ります!」

後ろの荷台から、シャーリーとソフィアが飛び降りた。俺も慌ててロケット弾のランチャーと『同田貫』を手に、馬車の荷台から飛び降りる。如何やら正午の戦いで『魔力』を使ったからか、それとも単に『同田貫』を振るった戦いの疲労からか、あるいはシャーリーの可愛い我儘に起因してアリシアの隻眼に睨まれた緊張からか、(何時も居眠りしている、うちの娘たちと違い)俺にしては珍しく午後のひと時を浅い微睡の中で過ごしていたらしい。まずは早速、チェーンに繋げられたスパイクを地面に突き立てる。


「よし、ソフィアとシャーリーは、もう少し時間を稼いでくれ! 頼んだぞ!」

言うまでもなく、俺の左前で弓を構えるソフィアが次々と矢を放ち始める。如何やら一度に放つ矢の数を減らし代わりに一矢々々の精度を上げて、更には速射を掛けているらしく、何本かが既にマンティコアを射抜いている様だ。顔を上げて確認する余裕がないが、右に左にと大きく体を振るう様に回避行動をとっているのか、ソフィアが腕の角度を都度左右に振っている。だが、やはり致命傷を与える事は出来ないらしく、マンティコアの接近に従い射角の方は徐々に上がってきている様だ。


「リ・エル・ソラート!」

俺の右前でタイミングを計っていたらしいシャーリーが、鎌鼬を放った。

こんな時にも自然とソフィアが左で、シャーリーが右側に位置取っているのが何かおかしく、ランチャーを組み立てながら、ふっ、と笑いが込み上げた。

シャーリーにも、可能な範囲で『風の魔法』の連射を指示している。効果はなくとも、左右に揺さぶる方が時間稼ぎにはなりそうだが・・・、何か今のシャーリー『魔法』、違和感がなかったか?

俺が思わずふと顔を上げると、上空のマンティコアの首と胴体が生き別れになって、盛大に緑の血をまき散らせながら落下してくるのを視界に捉えた。

ドンっ、と土埃を立ててライオンの巨体と、首が落ちてきた。見たくはなかったが、地面に跳ねた首が、驚愕に両目を見開かれていたのが見えた。

それは驚くよな、俺も驚いたし。

・・・ひょっとして、もう、ロケット弾いらなくない?

自分でも若干、口許が引きつっているが、ちゃんとシャーリーを褒めないといけないな。もう、今日は、ここで夕飯にしようか。

疲れたし。

ちゃんと、電気ヒグマの敷布団もひいて。

余計に疲れるけどな。

それで、褒めた事にしてもらおう、そうしよう。溜息を飲み込んで、立ち上がる。

まずは、シャーリーの頭を撫でつつ、薬を出して貰う事からだな。


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