第108章
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シャーリーの出自はちょっと複雑で、エルフの王であるアレス王を父に、フレンと言う名の女性を母として生まれた。既に他界しているフレンの方は純粋なエルフだが、アレス王は如何やらエルフと人間のハーフであり、シャーリー自身はクオーターと言う事になるのだろう。問題はアレス王は、自身の母である人間の外見的特徴を強く受け継ぎ、自身でもアレス王の執事エゼルと名乗っていて、シャーリーには王である事も、自分が実の父である事も隠しているという事だ。
外見はエルフそのものなのだが人間の血が混じり、故にエルフとしては余り魔法が得意ではないシャーリーは、幼き日々を『ハーフ』として周囲からは疎まれて育ったらしい。その中で唯一母だけが彼女に惜しみない愛情を注いでいた様だが、母の死後は奴隷に身をやつして暴力的な冒険者たちに買われる事となった。冒険者たちから逃げようとしたところを助けたのが、たまたま俺とソフィアで、それがシャーリーとの出会いだった。
「シャーリーは、十分に俺たちの役にたってくれている。それに馬車や馬たち、ジルとジバを守るのも重要なシャーリーの役目だよ」
馬車の横で腕組みをして、ちょっと冷たい視線を投げ掛けてくれるエレインは無視して、御者席で膝を抱えるシャーリーの頭を撫でる。別にいいじゃないか、今は俺もちゃんと自制しているし。この抑圧の対価は、後でエレインに払って貰う心算だし。
「もしもマンティコアが俺たちの囲みを突破して馬車に迫ったり、俺たちが戦っているマンティコアとは別の個体が現れたりしたら、その時はシャーリーとエレインに頼る事になる。前線に立つソフィアとアリシア、馬車を守るシャーリーとエレイン。その、どちらが重要、という訳ではないよ」
シャーリーの真っ直ぐな、人の為になりたいという思いは、俺には眩し過ぎる。なので、その扱いに困る。
「でも、でも。前回ご主人さまがマンティコアの毒を受けて倒れた時、私は何も出来ませんでした・・・」
人は自分が失った物には直ぐに気が付くが、始めから欠けている物には気付き難いものだ。それが『誰かの為に役立ちたい』などという感情だとすれば、まず俺には思いつきもしない情動だろう。俺ならば、自分の為に生き、自分の為に死にたい。たとえば、腹上死とか。
「じゃあ、こうしよう。もし、次にマンティコアが近づいてきたら、まずはシャーリーに『風の魔法』の刃を放って牽制して貰う。シャーリーは同時二つ以上の魔法を重ねて使う事は出来ないって言っていたけど、出来るだけ短い間隔で続けて撃って欲しい。出来るね?」
今回、火力に勝るアリシアに期待していたのは、牽制だった。アリシアの『火の魔法』が造り出す火炎放射は、威力はあるがスピードでは僅かにソフィアの放つ弓に劣る。逆にソフィアの弓は三射を同時に放てる事を加味しても、マンティコアを一撃で行動不能に陥れるほどのストッピングパワーはない。つまり上空にあるマンティコアを仮想敵とした場合は、二人の一撃ではどちらも決定打にならないが故の、牽制の役割だった。ソフィアとアリシア、どちらかを下げて代わりにシャーリーを前衛としても、大勢は変わらない。
「ありがとうございます、ご主人さま! 私も、皆さんと一緒に頑張ります!」
ぱぁっ、とシャーリーの顔が明るくなった。小さな胸を(失礼!)期待で膨らまして、両の拳を胸の前で握りしめている。
そうかそうか、俺にその可愛い耳を撫でて欲しいんだね?
仕方ないなぁ、エレインの視線がちょっと痛いけど、そんなことを気にしてたらいけないよね?
俺ももう、覚悟を決めたよ・・・。
「 それで、ソフィアはんとアリシアはん、どちらを吊るんです?」
・・・。
再び、しれっ、と問題提起する悪女その2。
素直過ぎるが故の、我儘を言う合法ロリ。素直でないが故に、引き下がる事を知らないツンデレ素質の高そうな二人。そして、それを指摘してニヤつく悪女。
何れも、つくづく、めんどくさい・・・。
今夜は皆、お仕置きだな。




