第104章
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元いた世界の最新の防空兵器を思い浮かべたとしても、それをこの世界で再現する事など不可能だろう。余りにも、無理過ぎ。だがマンティコアを攻撃ヘリと考えると、それほど高速な訳でも高空を飛ぶ訳でもない敵、という事にはなる。低速、低高度となればレーダーを始めとする電子機器の助けがなくとも、何とかなるのではないだろうか? つまり、対マンティコア戦用に再現したいのは、第二次世界大戦初期のイギリス海軍のPAC(Parachute And Cable)だ。
PACはロケット弾にワイヤーを仕込んだ物で、阻害兵器と言える。(ロンドンの防空やノルマンディでも多数が使用された阻害気球のアクティブ版とも言えるが、阻害気球は敵機の侵入高度をコントロールして高射砲の砲火の集中する高度に追い遣る事が目的だったが、PACは純粋に引っ掛ける事が目的)
PACはイギリス商船の対空装備の一つとして採用され、襲い来るドイツ機の進路前方に撃ち出すと1500メートル飛んでからパラシュートを放出して空中を漂う。敵機にワイヤーが絡んで撃墜する仕組みだが、ゼロではないにしても余り成果は出ていない。チャーチル首相は製造が簡易で安価である事から、いたく気に入っていたという逸話もあるらしい。
簡単なだけなら、同じくイギリスのホームガード(ドイツ軍上陸に備えた自警団みたいなもの)が使用したノースオーバープロジェクター(Northover Projector)も捨てがたい。ノースオーバーは筒に火薬と手榴弾を入れて発射する訳だが、まぁ、再現すると単にお手製のランチャーな訳で、問題はその手榴弾までもが、必然的にお手製となる事。発射用の黒色火薬の爆発に晒される手榴弾が筒の中で爆発されても、パワー不足か重量過多で想定外に飛ばずに足下に落ちるのも、どちらも怖い気がする。
「なあ、なんでご飯がないんだ?」
不満そうなアリシアが、誰とはなしに尋ねる。
黒色火薬とほぼ同等の性能を持つ火薬を精製しながらも、俺にはいまだに、元いた世界の兵器という物をこの世界に持ち込む事には、少なからぬ精神的な葛藤がある。一番の理由は人道的云々ではなく、兵器の発達がこの世界に於ける文明の発達を牽引する様には、とても思えないからだ。魔法、魔物、そして武器あるいは兵器。俺には、この三極の均衡によって、この世界の枠組みが造られている様に思えてならない。仮に銃器が他の二者を駆逐する事になれば、それはこの世界の在り様そのものを破壊してしまうのではないか、そんな気がしてならないのだ。
ロケット弾なら良くて、銃はダメなどと言うのが詭弁であるのは、十分理解はしてはいるのだが。今回俺は、自分を偽り自分の意思を曲げてでも、あのマンティコアを倒せる武器が必要だ。我ながら身勝手なものだと、ちょっと落ち込んでくるが、直接攻撃が可能な銃砲にしないのは、そんな葛藤の結果だった。
「えーと。ご主人さまが、魔物の革を何か丸く丸めるのに、ケトルのお湯というか湯気が必要だからじゃないでしょうか?」
復活したフィレンツェが何やら造り始めたところから既に何時間かが過ぎ、当初は安心と疲労で『取りあえず、休もうか』という気持ちにはなりはしたが。今となっては約1名を除いて誰もが、判断を誤ったと考えていた。
ロケット弾が推進力を得るには、ロケットに詰まった黒色火薬の連続的な燃焼に依る。つまり、本物のロケットの固形燃料に近しい。黒色火薬自体は初期のロケットの固体ロケットモーターにも用いられていた物で、性能は劣るが相性は悪くない。銃砲に比べても初速が低いので、強度の高い銃身を造る必要もない。今回であれば投射する為の筒もロケット自体も、どちらも耐火性が高く軽量で、しなやかで円筒形に曲げても折れず強度を保つ事が出来る魔物の鞣革を筒状に丸めてみた。ロケット弾の弾体は更に二重構造で中心側には黒色火薬が詰まり、外側にはソフィアから貰った細い鋼鉄のチェーンが巻かれている。細いと言ってもやはり鋼鉄の鎖が目測で20メートル分だから、手製のパラシュートでは空中でその重量を支える事は難しいだろう。というか、散々悩んだ挙句にパラシュートは省略する事とした。正直なところ空中を漂うチェーンに、マンティコアが自分から突っ込む姿が想像出来ない。多分、打ち出した瞬間が勝負で、長時間上空に滞空する事を求めるのは止めておいた方が無難だ。
「ここは一つ、ソフィアはんが責任取って、ストップを掛けるべきだと思うてわ」
一応、皆で準備はした。つまり石を拾い集め、鍋を火に掛けるべく組んだし、今はまだ中は空ではあるが鍋も、その鍋に入れるだろう材料もある。後は、料理人が料理をすれば良いだけではある。
ノズルの形状の加工は、俺に言わせて貰えば、もはや男のロマンと言っても良い。
良いよね、ノズル。
多分、同性からも余り理解して貰えないかもしれない。しかも、やっている事は革を縫い合わせる裁縫だったりする。縫い糸自体も革を細く糸状にした物で、もはや完全に革製品だな。レザークラフトね。この革の糸で、黒色火薬を固めた推進剤の真ん中に穿たれた燃焼室代わりの空洞の延長上に、漏斗型のノズルを縫い付ける。そのノズルの括れを埋める様に、飛翔中の弾体を回転させる為に角度を付けた4枚の安定翼を持たせてある。
最後にロケットの弾体の外側にチェーンを巻いて、更に外側に革の外皮をつけて完成。外側の革はチェーンの空気抵抗を減らす程度の役目しかないが、取りあえずつけてみた。20メートルのチェーンの末端は、投射用の筒のお尻から抜けて(もちろんガスは抜けない構造だ)スパイクで地面に固定出来る。
「い、いやよ。何でわたしなのよ? 別にアリシアが言えば良いじゃない」
これで、アリシアから始まった会話は無事に一周した事になるのだが、既にやる事もないので『取りあえず、座って待ってます』状態が続く。不思議な事だが『それなら、今日は私が代わりに料理しましょう』という会話にはならない。
最後に、ノースオーバーっぽい投射用の三脚も作成する。余り取り回しが利く訳ではないが、望んだ仰角で安定して固定出来て、投射用の筒ごと交換も出来る。出来れば45度位の仰角で戦える事を希望。最悪は真上に打ち上げる事だが(その場合、既にマンティコアは、俺の頭上で落下の体制に入っている訳だ)、一応、三脚の可動範囲としては真上も可。そして、チェーン付きロケット弾自体は投射用の筒も含めて3組作成した。なぜ3組かというと、ソフィアの無限倉庫から出てきたチェーンを20メートルづつで割ると、3組取れそうだったので3分割してみただけなのだが。今回うまくいく様ならば、チェーン以外は予め造っておいても良い。
これで足りないとなれば、本格的にソフィアに脱いで貰う必要が生じる。
それでも良いが。
「出来た・・・。あ、あれ? 何やってるの、みんな?」
気が付くと、何故か4人が俺を睨んでいる。
まぁ、良いか。
そう言えば、何か急にお腹が空いてきた気がする。
ご飯にしようかな、何か暫くぶりな気もするが、きっと楽しい食事になるだろう。




