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華龍Story  作者: ryo
102/142

第102章

102.

この世界の魔物をも含む動植物の多様性は、死や負傷にさえも多様さをもたらす。元いた世界の様に単純に三大成人病のみで、人の死に方の大半を網羅出来る訳ではない。電子レンジや携帯電話の電磁波を気にしたり、あるいは紫外線で皮膚ガンになる可能性は知識として知ってはいても、たとえば想定外にマンティコアの猛毒にやられる事もある。

何事にも危険やリスクはある訳だが、そういう世の中の状況を考えると、自分の死に方を腹上死に限定しようというのは実際の実現性はさておき、かなり贅沢な事ともいえる。ある意味、それ以外では死にたくないと、運命を拒否するに等しい。

そして大抵の場合は、運命に抗う者には、より過酷な運命が待つ。


「フィル!?」

ソフィアの短くも鋭い悲鳴が上がった。

両の目をフィレンツェの電撃で焼かれ、首筋を何本もソフィアの放った鋼鉄の鏃に貫かれたマンティコアが、苦痛にのたうちまわる。横転した体で自らのコウモリの羽根を曳き潰し、更に苦痛を加速させる。もうもうと立ち込める赤茶けた土埃の中、もし、その強靭なライオンの前肢が倒れ伏すフィレンツェを掠れば、忽ちに切り裂かれた細切れの肉塊と化すだろう。


「くそっ! フィレンツェを魔獣から引き離せ!! リ・メル・フィーラ!」

最も近くにいたアリシアが、最初にフィレンツェを打倒されたショックから立ち直った。駆け込む様にフィレンツェとマンティコアの間に割って入ると、もはや空中に逃れるという事を忘れたマンティコアに、強烈な火炎放射を浴びせる。


「グゥ、ボォー!!」

アリシアに急きたてられたソフィアも、如何にか自分のやるべき事を理解すると、猛然と倒れ伏すフィレンツェに突進する。

マンティコアは脇腹を焼かれ断末魔の叫びを上げるが、まるで転げまわる様な体の動きはフィレンツェを襲った長い尻尾を複雑に撓る鞭の様に振り回させる。アリシアは目前を掠める尻尾に舌打ちしながらも、身を屈め頭上をやり過ごさせた。

『焼き尽くしてやる!』

赤茶けた土埃の中から、くぐもったアリシアの声が聞こえた。


「エ、エレインっ!? 『水魔法』でフィルの治療を! シャーリーは解毒薬を飲ませて! 早く!」

自分も土埃だらけとなったソフィアが、やっとの事で、フィレンツェの体を未だ暴れまわるマンティコアから引き剥がした。駆け寄って来た顔が強張ったエレインと、蒼白で足取りも覚束無いシャーリーを叱咤しながらも、フィレンツェを抱き起し、背中の傷を確かめる。如何やら、鋭いマンティコアの尻尾の先が、質の悪い刃物の様にフィレンツェの背中を切り裂いたらしく、浅くはあるが不揃いな傷痕で横一文字に裂けている。出血は大した量ではない。傷だけなら如何とでもなろうが、背中の傷が浅いというのならば、フィレンツェが意識を失ったのは急性の猛毒に因るのは明らかだ。

ソフィアは淡く白い色の柔らかな光を帯び始めたエレインの手の上に、ゆっくりとフィレンツェの体を横たえる。


「は、はい!この薬を飲ませて・・・。あっ、ご、ご主人さま、意識がありません。飲んでくれません」

フィレンツェの上半身の重みを完全にエレインの両手に託すと、ソフィアは慌てるシャーリーの手から解毒薬の小瓶をひったくった。既にフィレンツェの顔は土気色だが、弱いながらも呼吸は、ある。まだ、間に合う。

小瓶の中身を煽る様に自分の口に含むと、フィレンツェに口移す。

もう、何も失うものはない、この人を除いては。

そんな想いが、ソフィアの頭を駆け巡った。

僅か、そして無限に等しい数秒の後、エレインが呟く回復呪文と、もうもうと立ち込める土煙の中で、ゆっくりとフィレンツェが、その瞳を開いた。


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