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華龍Story  作者: ryo
100/142

第100章

100話というのは、少なからず感慨深いものがあったりします。なかなか執筆時間がとれず不定期掲載となっていますが、200話ぐらい行けたら良いなぁ、という意気込みです?

引き続き、宜しくお願い致します。

100.

現時点に於ける大陸各国の情勢は何れの国もそう大差はなく、版図の拡大から内政の重視と言う名の撤退戦略へと転じつつあった。ある程度の流通量と、その流通を支える為の軍による街道の確保や経済的な投資は、今や各国共に首都を含む中央地域に集中しつつあり、各国の主要な特定の地域に於いては周辺人口の流入による過密と経済的な活況を呈しつつある。

その一方で辺境地域に於いては中央経済からは切り離され、かと言って隣国との軍事的な境界線を放棄する訳にもいかず、帝国に於いてはそれらの地域は、ある程度の自治権を持つ辺境領として位置づけられつつあった。

たとえば、色濃い緑に覆われた森林地帯が遂に終わりを告げ、色彩には乏しい斑な草原に取って代わる帝国の西方に広がるランス王国との国境地帯は、『バイルクラウ以遠辺境伯』によって半ば独立国に近しい運営がなされていた。

ランス王国自体は旧き王政の国であり、国境を接する帝国やその他の隣国に対しもはや積極的な領土的な野心を持たず、帝国としても軍事を含む全てを隣接する領地を有する一領主に丸投げする事を躊躇わせる要因など、ないと言って良かった。

その辺境の地に軍を置く必然性があるとするならば、それは寧ろランス王国との国境近くにあって古くから存在を知られる、『虚無の狼の迷宮』の警戒と言える。『虚無の狼の迷宮』は未だ迷宮の全てが踏破されていない、『攻略されざる迷宮』だった。


「この辺りから西が、『バイルクラウ以遠辺境伯領』だ。伯爵はアレス王の古くからの知り合いで、私は、お前をまずは彼の元に案内する様にと言われている。だが、伯爵はこの辺り一帯を治めてはいるが、私の知る限り伯爵とは名ばかりの一領主に過ぎない。バイルクラウも小さな村で、村を魔物から守るに足る百人程度の駐屯軍の指揮権を有するだけだ」

そう、教えてくれるのは、俺たちの乗る荷馬車の前を一人栗毛に乗って先導するアリシアだ。

残念な事にデレな時間は夜明けと共に終わってしまったらしく、今のその口調には可愛らしさの欠片もない。俺たちを振り返る視線も、何処かしら、よそよそしい冷たさがある。

まぁ、俺としては、ツン状態の更に上を行く、その冷めた視線も良いのだが。きっと、アリシアには今の麻生地の真っ赤なロングドレスより、同じ赤でもエナメルっぽい質感の方が似合いそうだ。

アリシアの説明には伯爵に対する否定的な評価が見え隠れしている事からすると、冷たい口調の幾許かは、これから訪れる目的地にも因るのかもしれない。アリシアの伯爵に対する印象が余り良いものではないとすれば、過去に何らかの事情があるのだろうか? それにしてもソフィアとは別の意味で、怒りっぽい娘だ。

とは言え、アリシアから積極的な情報提供があった事を鑑みると、如何やら伯爵領に入った事で、アリシアが自分自身に課した情報管制は終わりとなったらしい。それはそれで、ちょっと残念ではあるのだが。

『如何しても言わない心算ならば、その体に訊いてやろう』みたいな。

悪のロマンですね。

という訳で、今は馬上で手の届かないアリシアは捨て置いて(届かぬものを追い続けるのは、良くない)、御者台で俺に並んで座るソフィアへと矛先を変更。しかし、良く寝るな、この娘は。


「俺は、まずはその伯爵に会って、『虚無の狼の迷宮』攻略の助力を願えば良いんだな? ところで、この辺りは迷宮の外でも魔物が出るのか?」

エルフたちは『別の土地には、別の風が吹く』と言う。この不毛の地の、エルフたちの住む森林地帯とは異なる湿り気の少ない風は、エルフとは異なる価値観を持つ人々を育んでいるだろう。仮にアリシアの評価が低いにしても、エルフとは価値観が違うにも関わらずエルフの王と古くからの付き合いのある領主とは、どんな存在なのか少し興味のあるところではある。もっとも、エゼルは自己主張に乏しい男なので、大抵の相手に合せる事が出来るのかもしれない。どんな個性を持つ男であるにしろ、エゼルとて怒りっぽいアリシアに、無駄に俺たちを案内させている訳ではあるまい。

・・・と、アリシアに問いつつも、俺の意識は右手に集中。

そう、別の土地には、別の風が。

ちょっと、風が撫でて行っただけ、だよ。


「ああ、そうだ。特に飛翔能力のある奴は、迷宮までまだ距離のある、この辺りにも出没する。地上であっても『虚無の狼の迷宮』から溢れた魔物が、群れで徘徊している事もあるから、特に夜は注意が必要だわ」

『世界樹の若木』から続く濃密な森林地帯は、西へと向かうにつれて各々が垂直に伸び上がる様に視界を覆い尽す針葉樹が減って大らかに枝葉を広げた広葉樹の比率が高まり、最後にはその広葉樹も互いに独立樹と言える程にその数を減らす。そして今や俺たちの目の前に連なる丘陵地帯が、『バイルクラウ以遠辺境伯領』という事なのだそうだ。初夏の草原が青々と茂るのはところどころ、といった感じで、大半はごろごろと赤茶けた石の転がる岩肌を晒している。

長閑に浮かぶ雲が、重なる丘には不釣り合いな、柔らかな影を落としている。急に開けた視界の先で森林地帯を抜けた街道は、不毛な丘の間をうねるように遠く地平線の彼方まで続いていた。飛翔能力のある魔物からすれば、隠れるところもないこの辺りは、格好の狩場と言えるだろう。

うつらうつらと手綱を取る俺の肩に寄り掛かっていたソフィアが、突如小さく伸びをした。俺は触れていた手の置き場所に困って、そのままソフィアの肩を抱きしめる。丘陵を渡ってきた乾いた風が、ソフィアの銀糸の様な藍色の髪を高く巻き上げた。

ドラゴンは外敵に対して、鋭敏な感覚を持つ。

「如何やら、夜まで待つ必要は無さそうよ。・・・大型のマンティコアだわ」

前方に向けて、その藍色の瞳を凝らす。

如何やら、早速お迎えが来たようだ。


100話というのは、少なからず感慨深いものがあったりします。なかなか執筆時間がとれず不定期掲載となっていますが、200話ぐらい行けたら良いなぁ、という意気込みです?

引き続き、宜しくお願い致します。

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