第6話:想定外の同時獲得と、裸の原型師
「今よ、私ッ! 大転子を爪に委ねて!」
「心得ました! 重心移動、開始ッ!」
ウィィィィン……という『反魔合金』アームの駆動音とともに、奇跡が起きた。
ミニ・カレンが自らアームの爪に骨格をねじ込み、摩擦係数を最大化させたのだ。極悪な「撫でアーム」が、初めて確かな手応えとともに「自分」を釣り上げる。
ゴトンッ!
景品出口に、待ち望んだ振動が響く。
「やった……! やったわ! ついに私を取り戻したわよ!」
カレンは狂喜乱舞し、取り出し口に手を突っ込んだ。しかし、掴んだ感触は二つあった。ミニ・カレンが落下する際、その「完璧な可動域」の足先が、隣に設置されていた別の未開封箱を巻き込み、道連れに落としていたのだ。
「……あら? おまけが付いてきたわね」
カレンがその小さな箱を開封した瞬間、店内の空気が凍り付いた。
中から出てきたのは、眼鏡をかけ、不敵な笑みを浮かべた……しかし、一糸纏わぬ全裸姿の、解剖学的に完璧な『ミニ・たけし』だった。
「な……ッ!? 店主! なぜ自分の全裸フィギュアなんて景品に入れてるのよ!」
たけしはピンセットを置き、眼鏡を押し上げながら事も無げに言った。
「自分の肉体こそ、最も身近で観察しやすいサンプルだからな。広背筋の動き、脊柱起立筋のうねり……それらを24時間体制でセルフ解剖し、極限まで再現したのがその『俺(1/12スケール)』だ。非売品だが、設定ミスで混ざったらしい。……いらないなら置いていけ。溶解して別の材料にする」
ミニ・たけしは、手のひらの上で堂々と腕を組み、不遜な態度でカレンを見上げた。
「おい、そこな聖騎士。あまりジロジロ見るな。筋肉のカットが美しすぎて、君の審美眼が狂っても責任は持てんぞ」
「性格まで本人そっくり……最悪だわ」
カレンは顔を顰め、その全裸のミニ・店長をゴミ箱に放り込もうとした。……が、その寸前で手が止まった。
彼女の脳裏に、この店に集まる狂信的な収集家たちの顔が浮かんだ。
「……待てよ。この変態店主、一部の熱狂的な層には『神』と呼ばれているわよね? この解剖学的に狂った精度のフィギュア……しかも本人モデルの非売品となれば……」
カレンはしばらく考え込み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いいわ、投資としていただくわ。それなりに売れば、これまでの私の損失(金貨50枚)を補填するくらいの価値はあるのでしょう?」
「……フン、好きにするがいい。だが、そいつは夜中に勝手にデッサンの講釈を垂れ始めるぞ」
たけしの忠告を無視し、カレンはミニ・カレンと、全裸のミニ・店長をまとめて鞄に放り込んだ。
「さあ行くわよ、私! 最高級のウォルナット材と、副団長の『逆三角形』が待っているわ!」
「了解しました、本体。……店主、ほか弁の付け合わせのたくあん、今度はもう少し厚く切っておくのですよ」
こうして、聖騎士カレンは多大なる犠牲と引き換えに、自らの尊厳を手に、意気揚々と店を後にした。
その背後で、たけしは既に次の「魔王の弛んだ腹筋」の型取りを開始していた。




