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誰が悪女を愛したか  作者: 十返香
選択と婚姻

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三つの贈り物

 箱の中には、紙束のほかにも、いくつかのものが入っていました。


 底のほうに布で包まれて、三つの品が並んでいたのです。


 どれも小さなものでした。


 値打ちのある宝石でもなければ、立派な装飾品でもない。


 けれど、丁寧に包まれていたことだけは分かりました。誰かが——おそらくエレノア本人が——残しておこうと決めて、この箱に入れたのだろうと思います。




——遺品目録(箱内現物照合)


 一、小箱 ひとつ。

 差出人不記載。留め金に夜会用の意匠あり。

 中身は青石の飾り。小ぶり。鎖はついていない。

 石の表面に擦れや曇りはなく、一度も身につけられた形跡がない。

 箱の裏に、かすかに鉛筆書きの跡あり。判読できず。


 一、手袋 一双。

 羊毛、薄仕立て。帳面仕事の妨げにならぬ作り。

 かなり使い込まれている。指先が擦り切れ、親指の付け根に繕いの跡あり。

 片方の手首の内側に、小さく「S」の刺繍。


 一、鍵 ひとつ。

 小ぶり。飾り気のない、実用だけでできたような鍵。

 北倉の鍵とは形が異なる。書庫か、あるいは私室の棚のものか。

 使用による摩耗あり。長い間、日常的に使われていたことが分かる。



 三つの品を並べてみると、不思議なことに気づきます。


 青石の飾りは、美しいものでした。


 小ぶりとはいえ、上質な石で、磨きも丁寧です。夜会の場で贈られたものなら、身につけてしかるべき品でしょう。けれど、鎖もついておらず、石に触れた跡もない。贈った側の気持ちがどれほど深くても、受け取った側はそれを一度も肌の上に置かなかった。


 箱の裏に残された鉛筆書きが何だったのかは、もう分かりません。差出人の名前かもしれませんし、別の何かだったかもしれません。いずれにせよ、消そうとした跡があるということは、残すかどうかを迷った痕跡でもあります。


 捨てはしなかった。けれど、使いもしなかった。


 その距離が、そのまま贈り主との距離だったのだろうと思います。



 手袋は、見るからに使い込まれていました。


 指先はすっかり薄くなっていて、繕ってまで使い続けたことが分かります。帳面を繰り、倉を確かめ、帳場を歩き回る手にはめられていた手袋。飾りではなく、道具として愛された品です。


 手首の「S」は、贈り主の頭文字でしょう。


 エレノアはこの手袋を、冬の終わりどころか、擦り切れるまで使ったことになります。贈り主がそれを知ったかどうかは分かりません。知っていたら、うれしかっただろうと思います。同時に、痛かっただろうとも思います。手袋は使われたのに、手のほうは取ってもらえなかったのですから。



 そして、鍵。


 これが何の鍵だったのか、紙束の中にはっきりした記載はありません。


 ただ、北倉の鍵とは形が違います。もっと小さくて、もっと日常的な——たとえば書庫や私室の棚を開けるための鍵に見えます。


 婚姻の後に渡されたものでしょうか。あるいは、もっと前からあったのでしょうか。


 それも分かりません。


 分かるのは、この鍵がいちばん使われていたということだけです。


 摩耗の具合が、手袋よりもさらに深い。何年も、何年も、毎日のように使われた鍵。


 飾れないし、贈り物らしくもない。


 けれど、この人の暮らしを最後にいちばん長く支えていたのは、たぶんこの鍵でした。



 一番最初に、私が箱を開けた時のことを覚えていらっしゃるでしょうか。


 紙束と一緒に入っていた、小ぶりで飾り気のない鍵。


 あれがこの鍵です。



 最初に手に取った時は、何を開けるものか分かりませんでした。


 今も、正確には分かりません。


 けれど、これがどういう種類の鍵だったかは、もう分かります。


 誰かがエレノアに渡した鍵です。


 自分の場所を、あなたにも開けておく、という意味の鍵です。



 三つの贈り物は、三人の愛し方そのものでした。


 美しい石を贈った人がいました。


 温かい手袋を贈った人がいました。


 鍵を渡した人がいました。


 エレノアがどれを選んだかは、もう語るまでもないのかもしれません。



 けれど、三つとも捨てなかったことだけは、書き添えておきたいのです。


 どれも、この箱の中にありました。


 布に包まれて、底のほうに、静かに並んでいました。


——セシリア

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