表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が悪女を愛したか  作者: 十返香
選択と婚姻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/49

宛先不明の手紙

 貴方にだけは、言っておくべきことがあると思いました。

 そう書き出しておきながら、私はまだ 【判読困難】



——セシリアの注

 紙質、筆跡ともにエレノア・ヴァレニウス本人のものと見られます。

 ただし宛名はなく、封緘の跡もない。

 下書きとして折られた形跡があり、削除と書き直しが多く、完成稿ではなかった可能性が高い。

 これは送られなかった手紙です。



——宛先不明の手紙 抄


 【欠損】決まってしまう気がしたからです。

 あるいは、決めてしまうには惜しかったのかもしれません。


 私は長く、よく見られることより、正しく使われることを好んできました。

 そのせいで損をしたことも、嫌われたことも、一度や二度ではありません。

 けれど、それ自体を悔いたことはないのです。

 私が耐えがたかったのは、冷たく扱われることではなく、軽く扱われることでした。


 【この二行、強く削除】

 ——貴方は私を救おうとした。

 ——けれど私は、救われる者としてだけ見られるのが苦しかった。


 優しい方はいます。


 外套をかけようとしてくださった方。断っても、次には手袋を届けてくださる方。心配していると言いたいのを我慢して、天気の話だけを書いてくださる方。


 熱を向けてくださる方もいます。


 広間をまっすぐ歩いてきて、手を伸ばしかけて、それでも伸ばしきれなかった方。帰れたなら、と泥の中で書いた方。


 けれど、優しさだけでは足りません。

 熱だけでも足りません。

 私はたぶん、慰められたいのではなく、並べる相手を欲していたのでしょう。



——草稿断片 一


 もし貴方が、私を休ませたいのなら、それはありがたいことです。


 けれど、休んだあとの私が何を背負うかまで見てくださらなければ、私はたぶん、貴方の手を取りません。


 もし貴方が、私を高いところへ置きたいのなら、それもまた光栄です。

 けれど、置かれた先で私の足元に何があるかを見ないままでは、私は笑えません。



——宛先不明の手紙 続き


 私は面倒な女だと思います。

 可愛げがないとも、自分で分かっています。

 労われれば素直に受け取ればよいのでしょうし、差し出された好意には、もう少し柔らかく報いるべきだったのでしょう。

 ですが、それができないのは、私が不親切だからではありません。

 たぶん、そこを曖昧にすると、自分が自分でなくなるからです。


 【ここより数語、削り跡多く判読不明】

 貴方の前では、説明をしすぎなくて済む時がありました。

 飾らない言葉で足りた。理由を問い返されなかった。分かった、と言われた時、本当に分かっていた。

 それが私には、思っていたより深く——


 【末尾にかけて書き直し】



——草稿断片 二


 気にかけてほしい、とは思いません。

 理解してほしい、と言うのも少し違います。


 ただ、私の持つものを、重いまま受け取ってくださるなら。


 私が先に計算し、先に切り、先に嫌われることを、性の悪さではなく役目として見てくださるなら。

 その時はきっと、私は貴方に対してだけ、少しだけ【判読困難】



——セシリアの注

 宛先の推定は定まりません。

 王太子アレクシス、第二王子セドリック、ラウル公爵、いずれにも読みうる文言が残っています。

 ただし、この手紙が本当に問うているのは相手の名ではなく、相手のあり方でしょう。



——宛先不明の手紙 末尾


 私を軽く扱わない人であれば、それだけでよいのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ