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誰が悪女を愛したか  作者: 十返香
三人の愛の形

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33/49

誰が彼女を理解していたか

 ここまで読んでくれた皆さまであれば、おそらくそろそろ気がかりになってくるはずです。


 結局、エレノアをいちばん理解していたのは、誰だったのか、ということを。


 私はこれまで、様々な記録を並べてきました。

 書簡、日記、帳場の走り書き、倉番の聞き書き、村の陳情書。

 いろいろな人の目を通して、エレノアという女を見てきました。

 では、彼女をとりまいていた三人の男たちは、それぞれ彼女にどういった思慮を重ねていたのでしょう?



 王太子アレクシスは、静かに、しかし確かな『熱』をもって彼女を見ていたことでしょう。


 まっすぐな方です。好きなものには手を伸ばすし、守りたい相手は正面から守ろうとする。

 エレノアのことも、そうやって見ていたのでしょう。強くて、賢くて、隣に立っていて欲しい、と――あの金髪の王太子が、広間を横切ってまっすぐに歩み寄っていった夜会の光景は、誰もが容易に思い描けたのではないでしょうか。


 ただ、彼の生き方は、少々眩しすぎたのかもしれません。


 エレノアがどれだけ重圧を背負っていたかというより、彼女がどれだけ淑女たらんとしたかというほうへ、興味が向いていたのかもしれない。


 未送信の手紙に「あなたが広間の誰より美しいことを知っている」とまで記した人です。ただ、美しいまま立っている足元に何が積まれているかは、あの手紙にはほとんど書かれていなかった。


 帰れたなら、と彼は書きました。それは真実だったでしょう。ただ、未来について思い違いがあったことを、あの人が知るのはもう少し後のことになるかもしれません。



 第二王子セドリックは、やさしかった。


 目端が利き、人が抱えている痛みに気づくことに長けた方です。


 添え状を三度書き直して「心配している」の一言を消した人。エレノアに外套をかけようとして「見ていても構いません」とまで語った人。彼女の好物を忘れなかった人。


 傍にいてほっとする――こういう人に救われることは、たしかにあります。


 ですが、その心遣いはエレノアに必要だったのか、気を許せる殿方と思われていたかというと、そこはまだ分からない。


 セドリックは彼女を労えました。けれど、彼女が自分から背負っているものまで、本当に同じ重さで見ていたかは別です。


 帳面を借りて一晩読み直し、「正しかった」と認めた夜のことを思い出してください。あの方は誠実でした。けれど、正しかったと知った時に「あの冷たさが痛い」と呟いた――痛い、と感じている。つまり、エレノアの冷たさを、まだ受け止めきれていなかったのです。



 ラウル公爵は、どちらの王太子とも違いました。


 甘やかさないし、持ち上げもしない。エレノアに向ける言葉も、だいたいが可愛げない。

 何を削るか。どこを残すか。何を通せば全体が回るか。

 事務的な話ばかりです。


 でも、その話が通じる相手として、最初からエレノアを見ていたのも、たぶんラウル公爵だけでした。そこに男女の吉美まで読んでくれた皆さまであれば、おそらくそろそろ気がかりになってくるはずです。


 結局、エレノアをいちばん理解していたのは、誰だったのか、ということを。


 私はこれまで、様々な記録を並べてきました。

 書簡、日記、帳場の走り書き、倉番の聞き書き、村の陳情書。

 いろいろな人の目を通して、エレノアという女を見てきました。

 では、彼女をとりまいていた三人の男たちは、それぞれ彼女にどういった思慮を重ねていたのでしょう?



 王太子アレクシスは、静かに、しかし確かな『熱』をもって彼女を見ていたことでしょう。


 まっすぐな方です。好きなものには手を伸ばすし、守りたい相手は正面から守ろうとする。

 エレノアのことも、そうやって見ていたのでしょう。強くて、賢くて、隣に立っていて欲しい、と――あの金髪の王太子が、広間を横切ってまっすぐに歩み寄っていった夜会の光景は、誰もが容易に思い描けたのではないでしょうか。


 ただ、彼の生き方は、少々眩しすぎたのかもしれません。


 エレノアがどれだけ重圧を背負っていたかというより、彼女がどれだけ淑女たらんとしたかというほうへ、興味が向いていたのかもしれない。


 未送信の手紙に「あなたが広間の誰より美しいことを知っている」とまで記した人です。ただ、美しいまま立っている足元に何が積まれているかは、あの手紙にはほとんど書かれていなかった。


 帰れたなら、と彼は書きました。それは真実だったでしょう。ただ、未来について思い違いがあったことを、あの人が知るのはもう少し後のことになるかもしれません。



 第二王子セドリックは、やさしかった。


 目端が利き、人が抱えている痛みに気づくことに長けた方です。


 添え状を三度書き直して「心配している」の一言を消した人。エレノアに外套をかけようとして「見ていても構いません」とまで語った人。彼女の好物を忘れなかった人。


 傍にいてほっとする――こういう人に救われることは、たしかにあります。


 ですが、その心遣いはエレノアに必要だったのか、気を許せる殿方と思われていたかというと、そこはまだ分からない。


 セドリックは彼女を労えました。けれど、彼女が自分から背負っているものまで、本当に同じ重さで見ていたかは別です。


 帳面を借りて一晩読み直し、「正しかった」と認めた夜のことを思い出してください。あの方は誠実でした。けれど、正しかったと知った時に「あの冷たさが痛い」と呟いた――痛い、と感じている。つまり、エレノアの冷たさを、まだ受け止めきれていなかったのです。



 ラウル公爵は、どちらの王太子とも違いました。


 甘やかさないし、持ち上げもしない。エレノアに向ける言葉も、だいたいが可愛げない。

 何を削るか。どこを残すか。何を通せば全体が回るか。

 事務的な話ばかりです。


 でも、その話が通じる相手として、最初からエレノアを見ていたのも、たぶんラウル公爵だけでした。対等の相手として認めていただけ。だからこそ、そこに男女の機微が生まれる余地はないでしょう。


 理解と利用は、外からは区別しにくいものです。


 ラウル公爵がエレノアの才だけを見ていたのか、それとも別の算盤を弾いていたのか——公爵家の内部に、そうした疑念を裏づけるような文書があったことは、すでに書きました。あの疑念が晴れたのかどうかは、まだ答えが出ていません。



 アレクシスは情熱だった。

 セドリックは優しさだった。

 ラウル公爵は理解だった。


 ひとまず今は、こう並べるて俯瞰するほうが、いちばん分かりやすいでしょう。



 答えがもう出たわけではありません。


 恋の相手として見るなら、アレクシスにもセドリックにも、まだ十分に魅力がある。


 熱を向けられることにも、やさしくされることにも、心は動きます。


 むしろ我々――平和な時代を生きる後世の者にとっては、そちらに心が揺れるほうが自然でしょう。


 それでも、エレノアという女を見ていくと、最後に問われるのは別のところなのだと思います。


 隣に立ちたいかではない。


 慰めたいかでもない。


 彼女が持っている重圧を、どうやって受け止めたのかということです。



 彼女を愛した者は複数いました。


 けれど、彼女が何を背負い、何を切り、何を守っていたかまで見ていた者は、いなかったのではないでしょうか。


——セシリア

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