名のない指示
——実務指示控え 夜半付
南門受入れ分、寝台三、毛布六を北倉より先出し。
工房貸付は予定どおり週割り継続。
織布反物は炊き出し袋向けを優先し、式典用在庫より差し替え可。
なお、差配名の記載なし。
ただし、文言と順序は伯爵令嬢エレノア・ヴァレニウス案に近似。
——帳場走り書き
「誰の指示だ、これ? 夜半に回ってきたんだが、名前がどこにもないぞ?」
「署名がないのに通すのか、って聞きたい顔だな」
「? ……当たり前だろう」
「黙って通しとけ。でないと朝に間に合わないぞ。こんな無駄のない指示を書ける方は一人しかいないだろ?」
「……はぁ。あの方のご指示か」
「分かったら黙って働け、働け」
——筆跡不詳紙片
人を止めるな。
倉を閉めるな。
見かけの数ではなく、朝に届く数で間に合わせよ。
遅れた分は南門から先に埋めていくこと。
——倉番聞き書き
「えぇっ!? こんな夜更けに倉を開けるんですか?」
「そうよ」
「……あのぅ、命令書は――」
「それはこの後に書いておくから。いいから、先に手を動かしてちょうだい」
「ですが、誰の許可で——」
「朝には届くようにするわ。でも毛布は朝まで待てないの。南門で震えている人がいるのよ。だから、早く……!」
——北倉追記控え
北倉第二列、明朝より先に開けよ。疾く、住人へ届けるのだ。




