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『鑑定が遅い』と追放された見積士、寿命と原価が見えるので要塞を最強にする  作者: 霧原なぎ
広域経済圏確立編

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第55話:非人道的な強制決済(マージンコール)

「……な、なんだ、これは……!?」


バド・ザイツェフの絶叫が荒野に響いた。

武器を捨て、グラナポートへの投降を決意した五万の帝国兵たち。彼らが安堵の息を漏らした瞬間、その背中に刻まれた「帝国の紋章」がどす黒い紫光を放ち、肉体を焼き始めたのだ。


「ギ、アアアアアアアアッ!!」


凄惨な悲鳴が地平線を埋め尽くす。兵士たちの体から光の帯が吸い出され、本陣に鎮座する巨大な影――魔導巨像『ヴォルガ・アームズ』へと流れ込んでいく。寿命を、魔力を、魂の根源を強引に引き抜かれた兵士たちは、次々とミイラのように干からび、物言わぬ「抜け殻」へと変わっていった。

皇帝は、狂気に満ちた瞳でその光景を見下ろしていた。


「投降など認めぬ。余の許可なく民を移転させる者は、一兵たりとも生かしてはおかぬ。……余の所有物である以上、死してなお余の『燃料』として役に立て」


グラナポート管理局、演算室。

警報が鳴り響き、ミラが青ざめた顔でホログラムを操作する。


主様マスター! ヴォルガ・アームズの魔力反応、計測限界を突破! 敵は……五万人の兵士すべての『寿命』を強制執行マージンコールし、極大熱線に変換しています! 充填完了まであと、百二十秒!」


「……自軍の兵士を『損切り』どころか、スクラップにして燃やしたか。どこまで非人道的な経営者だ」


アルスの瞳に、かつてないほど冷徹で激しい怒りが宿る。

モニターには、バドが救おうとした兵士たちが、文字通り「使い捨てのバッテリー」として消費されていく光景が映し出されていた。


「エレーナ、市民全員にレベル5の緊急退避発令。地下防空壕へ誘導しろ。セリア、お前が先導しろ。暗闇に沈む市民の心を繋ぎ止めるのが、聖女おまえの仕事だ」


「了解いたしました! 市民の皆様、落ち着いて! まだ終わっていません、私たちには勇者がいます!」


セリアが駆け出し、混乱する街の精神的支柱として動く。一方でアルスは、技術陣へと鋭い視線を向けた。


「ガリウス、カイル。今この瞬間から、我が国の『全電力』の用途を変更する。防壁の維持を捨て、すべての魔力を中央塔の導管へと直結しろ。……あの皇帝が放つ『絶望』という名の負債を、真正面から買い叩く」


「……正気か、小僧! 防壁を捨てれば、余波だけで街は消し飛ぶぞ!」


ガリウスの言葉に、アルスは迷いなく告げた。


「だから、その『余波』すらも全て呑み込める規格外の導管を用意する。……レオンを呼べ」


中央塔のバルコニー。

呼び出されたレオンは、眼下の凄惨な光景と、自分に向けられた「街の全魔力」という名の巨大な奔流を見つめていた。


「……アルス。お前、相変わらず無茶な見積もり出しやがるな」


「お前の一撃で皇帝を清算クローズする。……今日、この街の『全資産』を、お前に全額投資だ。……できるな?」


アルスの言葉に、レオンは拳を固く握りしめた。


「……ああ。……高すぎて手が届かねえって、後悔させてやるぜ」


帝国の暗紫光が、夜空をどす黒く染める。

史上最悪の「強制徴収」に対抗するため、一人の勇者に街の全てを預ける、賭博ギャンブルにも等しい最終決済が始まった。

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