第53話:勇者砲(エクス・カリバーン)
管理局の最上階、発射シークエンスに入った「エクス・カリバーン」の余剰魔力が、部屋の空気をオゾン臭で満たしていた。
アルスは、ミラが空間に投影した数理マップを冷静に見つめている。そこには、数キロ先の平原を覆いつくすヴォルガ帝国軍の「資産価値」が、赤い光点となって無数に点在していた。
「……ミラ。着弾誤差は?」
「プラスマイナス2センチ。大気の歪みはレオンさんの魔力ノズルで強制固定しました。……いつでも、いけます」
アルスの背後では、巨大な魔導回路に接続されたレオンが、その肉体を「砲身」として固定されていた。かつての勇者の輝きは、ガリウス製の黒鉄の拘束具によって絞り込まれ、一筋の破壊の奔流へと凝縮されている。
「レオン、いいか。殺すなと言った。……お前が焼くのは肉ではない。帝国の『信用』だ」
「ああ、分かってるよ。……あいつらの顔を見るのは、ちょっと胸が痛むけどな」
レオンが苦笑いした瞬間、アルスの指が冷徹に振り下ろされた。
「――決済」
ヴォルガ帝国本隊、中央輜重隊。
そこには、数万の兵士を養うための穀物俵と、彼らの士気を維持するための膨大な「ヴォルガ金貨」を積んだ大型馬車が、長蛇の列をなしていた。
突如、空が割れた。
轟音すらなかった。ただ、視界のすべてが白銀の閃光に塗り潰され、次の瞬間、兵士たちの目の前で「理不尽」が顕現した。
レオンが放った一撃は、兵士の一人をも傷つけることなく、正確に、そして残酷に、金貨と食糧を積んだ馬車列だけを貫いた。
熱線が通り過ぎた後には、溶けた金貨が泥に混じり、蒸発した食糧の煙が立ち込める巨大なクレーターだけが残された。
「……き、金が……」
「俺たちの給料が……明日の飯が……」
兵士たちが呆然と立ち尽くす。
数キロ先、グラナポートの防壁の上では、対価騎士団が依然として無表情に、黙々と巡回を続けている。一発の矢も、一回の突撃も必要なかった。ただ、「一撃」で彼らの戦う理由が消滅したのだ。
「……ミラ、戦場心理の推移を」
管理局に戻ったアルスが問いかける。
「敵軍の士気、一気に40%低下。離反および脱走の予兆を検知。……ヴォルガ帝国軍、現在進行形で『倒産』へ向かっています」
「当然だ。飯も出ない、給料も出ない職場で、誰が命を懸けて働く?」
アルスは手帳にペンを走らせる。
帝国という巨大なシステムは、物理的に壊される前に、その「維持費」を失って内部から崩壊を始めていた。
「デトモルトに伝えろ。……逃げ出した兵士たちは追うな。ただし、武器を捨てた者には『パン一つの貸し付け』を許可する。……これからは、剣ではなく『パンの債権』で、帝国を買い叩くぞ」
アルスの瞳には、もはや戦場の光景はなく、崩壊した帝国をどう「再建」し、利益を回収するかという次なる見積もりが映っていた。
モチベーションになりますので、よければブクマや評価をお願いします




